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八話 ミシェルくんの悩み(前編)


 自分どころか家族までもを巻き込み悪意を向けるような連中が窮地に立たされた時、自然な態度と笑顔で手を差し伸べる事など出来るだろうか。


 私にはたぶん一生無理だ、むしろ十年以上は怒りを燃やし続けるかもしれない。


「家族の事まで悪く言われたのは、私もまだ怒ってるよ? でもそれとこれとは、話が別だから」


 とはアメリアが後に語った言葉だ。

 自分の事だけでは飽きたらず家族まで悪口の対象にした事は許していないが、窮地に立たされているなら関係なく助ける、という事だろうか。


 うん。どちらにしろやはり私には無理だ。

 自分が嫌になるくらい、私とは正反対の人間だ。



 ――そして、この家に住まわせて貰い五日目の朝。


 一家九人+私で朝食を終え、クラウスは仕事で外出。母二人と子供達四人は休み。祖父母は畑に出た。

 食器の片付けとその後は洗濯物を手伝って、裏庭の花への水撒きを頼まれたので外に出る。

 すると裏庭には五人+一匹の姿がある。


 アメリアと、いつの間にか来ていたらしいローランドがミシェル、ウィルフレッドに何かを指導している様だった。

 休みの日にも訓練とは真面目だ。


 一方ルシアンはヘクトールと一緒に花や虫を観察しながら絵を描いていた。兄達とは対象的に休みの日は普通に遊びたい様だ、私もよく分かる。

 そしてバタバタと走りながら私に絵を見せに来たので、「可愛い! 上手い! 天才画家!」と褒めてあげた。

 そうしてご機嫌な顔でワンコと一緒に走り出すルシアンを見送った後、ローランドから声を掛けられた。


「よおっ」


「ドウモ、お疲れさんデス」


「何でちょっとカタコトなんだよ」


 やはり外見がどうも苦手だ。どうしても喋りが固くなってしまう。


「今日も夜勤明けでスカ?」


「いや、普通に非番。訓練に付き合うの頼まれてたからよ。あと、お前アメリアのツレなんだろ、俺にもタメ口でいいぞ」


「……善処するよ」


 訓練に精を出す二人の様子を見てみる。

 ウィルフレッドは楽しそうな表情で木剣を振るい、ミシェルは真剣な表情で自分の手の平を見つめながらアメリアの話を聞いている。


「二人はどんな感じなの?」


 そうローランドに訊ねてみた。


「あぁ。ウィルフレッドは剣の才能がある。見てみろ」


「へえ」


 視線をウィルフレッドへと戻す。それと同時に少年が剣を振りかぶる。

 その直後、少し離れた位置にある樹木の葉が二、三枚何かに切られて落ちて、少年が歓喜の声を上げた。


「やった!」


「今のは……?」


「威力を落とす変わりに斬撃の射程を伸ばす技『裂空』だ。まだ実戦レベルには程遠いが、あの年齢で使える奴は少ない」


「クラウスさんも使ってた飛ぶ斬撃か」


 どうやらアレは習得レベルの高い技の様だ。

 彼は一発成功したのが嬉しかったらしく、更に剣を二振り。何とその二発も成功し、葉が宙を舞っていた。


「連続で成功してる……凄いね、ウィルフレッド君」


「えへへ、このままあの木をどんどん刈ってやりますよ!」


「それは駄目だよ、ウィルフレッド。お父さん達に切っていいのは葉っぱをちょっとだけって言われたでしょ」


「うっ」


「やり過ぎたらお祖母ちゃんにも怒られるよ」


「はい……」


 私に褒められて調子に乗りかけたところでアメリアから注意を受け、ショボンとしている。

 まあ確かに庭木をボロボロにしたら駄目だな。


 一方、ミシェルはウィルフレッドを見ながら少し悔しそうな表情をした後、鞘にしまわれた剣に手を伸ばした。


「ミシェル? 今日は魔法の練習を中心にって……」


「姉さん、俺も少し剣を振っていい?」


「……今は魔法の途中でしょ、後でね」


「――うん」


 その様子を見ながら、ローランドが困った様な表情で、私にだけ聞こえる声量で話し始める。


「ミシェルはなぁ、魔法は二属性扱えて片方は頭一つ抜けて優秀。日々体力作りにも励んでて身体は強いし、身体能力も高い」


「なるほど。魔法使えて身体も強いなんて立派だなぁ」


 勉強も運動もサボり、努力という言葉が嫌いだった怠惰な私とは大違いの頑張り屋だ。


「――んだけど、本人は現状が気に入らないらしい」


「え、何故……?」


「ミシェルは将来的に国の軍隊に入って前線で戦う仕事をしたいらしいんだが……本人に発現した魔法の属性が『治癒魔法』と『防御魔法』っていう支援特化の魔法でな」


「……」


 この世界の魔法の属性は自分では選べない、生まれつき決まっているものなのか。

 自分のやりたいことと噛み合わなかったら確かに辛そうだ。


「それに、剣の腕も悪くはないんだが……自分より剣が上手い弟が居るから焦りもあるんだろうな」


「なるほど……」


「俺は、前線で戦うだけが軍の仕事じゃねえから、自分の適性にあったやり方でもいいと思うんだがね」


 確かに彼の言う通りだ、前に立って戦うだけが全てじゃない。適性に合ったやり方で活躍し人の為に働くのは立派な事だ。

 とはいえ、それを理由に頭ごなしにミシェルの「やりたい事」を否定するのも気が引けた。


 ――それに彼は魔法学校に通っている、剣の学校ではなくだ。本人も本心では、適性を伸ばす方がいいと思っているのかもしれない。

 剣を振り戦いたいという気持ちも、強いだけで。


 それから昼食を終えて昼になり、祖母が運ぼうててしていた重たそうな荷物を代わりに担ごうとするミシェルを目撃した。


「お祖母ちゃん。俺が運ぶよ」


「あらあら、悪いねぇミシェル。じゃあ頼もうかね」


「よいしょ」


 祖母は相変わらず仏頂面だが孫に手伝って貰って嬉しいのは音色から伝わった。

 ミシェルは野菜の詰まった箱を二箱、それぞれ両手に一つずつ持ちながら、軽々とした足取りで歩いていった。

 顔色一つも変えていなかった、凄い力持ちだ。

 本当に鍛えているんだなと感心する。


 午後からはレイチェルに「試したい事があるわ!」と呼ばれているため彼女の書斎に向かった。

 相変わらず私の部屋みたいに本やらモノが散乱している。本人的には意味のある置き方らしいが。


「レイチェルさん、試したい事とは何でしょ」


「これを見てちょうだい!」


 テーブルの上に並べられているのは石ころ、木の枝、金属片。

 一体なんなのだろうかと考えていると。


「ハジメちゃんの創造魔法は無から有を生み出す力があるのは分かったけれど……既に存在する物質から何かを創造する事は出来るかしら?」


「……! 考えた事なかった……」


「どうなるか、興味ない?」


「めちゃくちゃ興味あります!」


「そう言うと思ったわ、私もよ!」


 オタク同士意気投合しながら、テーブルに置かれたモノを手に取る。先ずは木の枝だ。

 レイチェルが私の右手の甲と木の枝に小さく同じ模様を描く。こうする事で、モノに魔力を流しやすくなるらしい。

 言われた通り、全身から右手を伝い木の枝へ魔力を流し込むイメージをする。

 素材は木、それで私がよく使用していたもの……これだ。


「いっけー!」


 特に意味のない掛け声を上げ、右手が淡く光り――その直後。

 手に持っていた木の枝が二本の小さな棒、箸になっていた。


「凄いわ、何かできた!」


 ただし、イメージした元の世界で使用していた箸そのままのモノは出なかった。

 形状は再現されているが色や質感などは元になった木の枝に引っ張られているようだ。


「……箸ではあるし形もだいたい合ってるんですが、ソレ以外は別物ですねコレ」


「ん〜、なるほどそうなのね……有から生み出すと元の素材の影響が色濃く出るのかしら」


 凄いスピードでノートにメモを取っていくレイチェル。

 その途中で、彼女は「そういえば」と口を開き。


「ミシェル、防御魔法の扱い方は大人基準でも頭抜けてるのにやたら前線で戦う事に拘るのよねぇ……」


「ローランドからも聞きましたけど……ミシェル君そんなに防御魔法の才能がそんな凄いんですか?」


「そうよ。説明するわ!」


 防御魔法とは、透明な障壁を生み出し魔法、物理問わずあらゆる攻撃を防ぎダメージを軽減、無効化する魔法。


 基本的に自分の身体を覆う程の大きさで障壁を展開する魔法なのだが、ミシェルはソレを身体全体でなく必要な部位にだけ小規模な展開をする事が出来るという。


 障壁を大規模に展開するより、必要な部分にだけ展開する方が魔力消費も抑えられ発動速度も普通より速くなり効率がいい。


 これは魔力の操作が難しく、出来る人は少ない……と、レイチェルが話していた。


「それも全部伝えてるのに『これじゃまだ足りない!』って顔するのよねぇ、あの子は……」


「私でも分かるくらい剣を振りたいって顔してますもんね」


 実験しながらミシェルの話をしていた最中、扉を開く音が聞こえる。アンナだ、私達の分の紅茶と菓子を届けに来てくれたらしい。


「お疲れ様。二人とも少し休んだら?」


「そうね!」


「ありがとうございます」


 実験を始めてまだすぐなのでそんなに疲れていないが、お言葉に甘えていただくとしよう。アンナの淹れた紅茶は美味いし。

 紅茶を飲みながら、レイチェルはアンナへと相談を持ちかける。


「ねえ、アンナ。ミシェル、そろそろ剣振るの止めさせた方がいいのかしら……」


「三年前みたいに、剣で頭がいっぱいで魔法を疎かにしてる訳じゃないし……魔法使いもいざという時の為に近接戦闘の手段は必要だし、自由にさせてあげていいんじゃない?」


「そうなんだけれどね〜。今の調子で将来軍隊に所属させるのも何か不安なのよね〜……」


「んー……不安な気持ちも分かるけど。あの子、魔法もちゃんと頑張ってるよ? 最近は治癒魔法の練習にも力を入れてて、私に話を聞きに来たりするし」


「さすが私の息子、努力の為の行動力抜群!」


「急に褒めるね」


 母二人の会話を横から聞きながら考える。


 ミシェルは一時期魔法が疎かになっていた時期もあるらしいが、今現在は色々な人からアドバイスを貰いながら日々頑張っているらしい。

 それも大人でも難しい魔法の扱い方が出来るくらい努力をしている。

 剣の学校でなく魔法学校を長く続けている事からも、彼は決して魔法を軽んじている訳でも嫌いな訳でも無いだろう。

 真剣そのものだ。


 なのに、一方では剣への執着が強い。一体どういう事だろうか。


「……ミシェル君、何でそんなに前線で戦いたいんですかね?」


 その答えに対し母二人は、


「皆を守れてかっこいいからって言ってたわ」


「私が聞いた時も『皆を守るかっこいい男になりたい』って……男の子ってそういうところある子が多いよね」


「クラウスも昔から遊ぶたびに同じ様な事言ってたわぁ……」


 理由はかっこいいから……そういうもんなのか。

 というかレイチェルはクラウスと昔からの知り合いなのか。幼馴染的な感じだろうか。いや、気になるが今はそれよりも。


「『かっこいいから』ってだけにしては……なんというか、執着が凄くないですか?」


 その問いかけに対し母二人も「そうだよね〜」的な顔を返してくる。


「私もそう思って詳しく問い詰めようとしたことはあるけれど、ちゃんと答えてくれなかったわ……」


「私もそう。……私達には言いにくい事なのかな」


 やはり他にも何か理由がありそうな気がした。


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