七話 アメリアの顔
突然グランヘルム家に現れた不審者。
金髪、凶悪な目つき、額に傷があり、ジャラジャラと指輪や耳にピアスを付けていて、見るからにチャラそうな外見、おそらく年齢は十代後半。
日常的にカツアゲしたり猫とか蹴っていそうな悪人面……私が嫌いなタイプの不良っぽい男。
そんな見覚えの無い人間が、過去の嫌な思い出を連想させる軽薄そうな外見が、食卓に平然と座っていたのだ。軽くパニックを起こしても仕方ないと思う。
私の叫び声を聞いて、その男は椅子から立ち上がり――
「不審者? どこだ?」
と、背後を振り返りながら応えたのだった。
「いや、アンタだからアンタ!」
「え、俺!?」
チャラそうな男はこちらへ視線を戻し本気でビックリしているような反応を見せた。
アンタ以外にどこに不審者が居るのか。
そんな中、私の声を聞きつけた賢い飼い犬ヘクトールが現れた。
このワンコは家族を守ろうとする意思が強いらしい。心強い味方が現れた、ヘクトールは不審者に向かい走っていき――
「わんっ! わんっ!」
「おぉ〜、いつも可愛い面しやがってこのワン公」
なんと、ヘクトールは尻尾をブンブン振り回しながら不審者の男にじゃれついていた。
「そんなバカな!?」
あり得ない、英雄一家の犬が不審者に懐くだなんて。
まさか餌で懐柔でもされてしまったのだろうか、いや番犬がそれでは問題大アリだと思うが。
一通りワンコを撫で終わった男は一人パニクっている私の前へと歩いて来て、
「いつまで突っ立ってんだ、お前はよぉ〜」
と言いながら私の手に持っていた朝食を奪い取り、テーブルの上に置いた。
――中学生の時、ヤンキーから給食を奪われた事を思い出して涙目になった。
「う、うぅ……っ」
「えぇ……何その反応。ほら遠慮せず座って食えよ飯」
男はテーブルに私の朝食を置いた後、離れた位置に座った。なんだろう、座って食べようとしたら横から取られたりするのだろうか。
その時ふと先日の会話を思い出した。
怪しいカルト団体『神の使い』……そして、元魔王軍大幹部アイザックの名。
もしかしたら、かつての英雄であるクラウスの家が、そいつらに目をつけられたのでは……?
「まさか……アンタが、アイザック……!」
「いや誰だよそれ」
男は意味が分からないといった表情で返す。
その後、なにかにハッと気が付いた様な顔をして。
「――あぁ、途中で話が脱線して、ちゃんと名乗って無かったな。俺はローランド、この家とは昔から付き合いがあるんだ」
「はあ……」
ローランドと名乗る男はグランヘルム家と付き合いがあると語る。果たして本当なのだろうか。
「何で納得いかないみたいな顔してんの?」
困惑した顔を浮かべているが、マジなのか演技なのか分からない。警戒心をバリバリ燃やす私。空腹に負けて朝食を食べ始めてしまいそうだが、この男に何をされるのか分からない。
睨み合いが続きヘクトールがテーブルの上にクンクン鼻を向けていたその最中、次なる部屋への来訪者が現れる。
「あれ、なにしてるの?」
そう口にしながら現れた銀髪の少女――グランヘルム家の長女アメリアだ。私と男を見てポカンとした顔をしている。
私は彼女へ咄嗟に呼びかけた。
「アメリア、不審者! 不審者が居る!」
「え、どこ!?」
私の呼び掛け対しアメリアは男ではなく背後の廊下を振り返る。マジか。
あの男は何か周りを惑わす力でも持っているのかと疑っていると……
「アメリア、どうやらこいつの言う不審者ってのは俺の事らしい」
「え、そうなの? ローランド、何かした?」
「何もしてねぇよ……」
男とアメリアが昔からの知り合いみたいな気安さで会話している。何故だ。何者かがこの家を狙い大規模な幻覚攻撃でもしかけているのかもしれない――
「ハジメ、何か目がちょっとおかしいよ!?」
「へ!?」
両頬を手で挟まれ間近から大きな声を掛けられハッと我に返った。
すごく心配そうな目で見ている。
「どうしたのハジメ、まだ疲れてるんじゃ、どこか痛い!?」
「いや、何か勘違いしてパニクってるだけじゃねえかな……」
心配そうな顔と大きな声を浴びて、頭の中のネガティブな洪水がせき止められる。
過去のトラウマを刺激され久しぶりに人間不信が全開になっていた……いったん落ち着いて、冷静になってきた頭を回す。
アメリアはいつも通りだ、何かに操られているとかそういう雰囲気じゃない。
そしてローランドと名乗る男……考えてみたら今のところ彼に何かされた訳じゃない。
そしてこの家も流石に不審者を簡単に通し食卓で寛がせるようなガバガバセキュリティではないだろう。祖父とかいるし。
正直、この男は不良嫌いだった私には近寄りたくない外見。だが、おそらく――
「もしかして……本当に、グランヘルム家とは昔馴染み……」
「そうだよ、そう言っただろ。まあ自己紹介遅れたのは悪かったけど」
「私とローランドはね、幼馴染なの」
幼馴染……マジか、真面目そうな子とチャラそうな男が……。
「確かに顔はちょっと怖いけど……ローランドは立派な衛兵さんだから、信頼していいよ」
言われてみれば服装がファンタジー世界の軍人っぽい気がする。ちゃんと見ていなかった。
「でもじゃあ、何で衛兵さんが食卓で酒飲んで寛いでるの……?」
「巡回の帰りに呼び止められてな、こうして休ませてもらう事がたまにあるんだよ。あと酒じゃなくて茶だ」
まあ状況は理解した。私が勝手に一人でパニクっていただけだったようだ。
ローランドは不審者ではなくアメリアの幼馴染で巡回の休憩をさせてもらっている、というのは分かった。
それでもやはり彼への苦手意識は拭えないが。
「――んじゃ、飲み終わったしそろそろ行くわ。ごちそうさん」
ローランドはそう呟きながら立ち上がり、飲み終わったグラスを水で洗ってから部屋を出る準備をする。
「今日も気をつけてね、ローランド」
「あぁ。――そうだ、ハジメって言ったか」
「ひゅぃ」
アメリアと一言交わしたあとにこちらへ突然声をかけてきてビックリして変な声が出た。
布団の中に還りたい。
「いきなりビビらせて悪かったな」
「あ……はい、大丈夫っす……」
ただでさえ陰キャなオタクなのに、苦手なタイプの人間と話すとコミュ障っぷりが全開になってしまう。
ローランドは苦笑を浮かべ、見送られながら家から出て行った。
落ち着いたところで朝食を食べ始める…といっても二時間足らずで昼食の時間になるが。
アメリアの話によると、ローランドは深夜から朝に掛けてまで街を巡回していて、彼の自宅までは少し距離があるため暫し休ませてあげていたらしい。
……苦手な相手でもお疲れ様ぐらいは言っておけば良かったかな。
「そうだ、私買い出し頼まれたから行って来るけど。何かあったら畑のお祖父ちゃんかお祖母ちゃんに聞いてね」
「うん……いや、私もやっぱり手伝おうか?」
「いいの? 身体は大丈夫?」
「かなり寝たから体は元気だよ」
本音としては一日ダラダラゴロゴロしたいが、たぶん私は今日一日休んだらソレに味を占めて明日も「まだ体ダルいから」とズル休みしてしまう気がする。
自分の性質は自分がよく分かるのだ。
朝食を終え食器を洗い、軽く身支度をしてからアメリアと共に町へ買い出しに繰り出す事になった。
外は晴天。
料金に応じた距離を走ってくれる、元の世界のタクシー的な馬車に二人で乗り、心地よい風の中を駆ける。
田舎道を抜けて、段々と活気溢れる街並みと整備された石畳が見えて来て、一言礼を言い馬車を降りた。
様々な店の並ぶ中世的な街の中を通るのは二回目だ。
様々な種族が入り混じる人波の中を進み、目的であるいくつかの店を目指す。
基本的に人混みは苦手だが、ファンタジー的な世界への興味と、アメリアが居ることでギリギリ今はまだ「平気」の方が勝っている。
「そういえば。昨日ハジメ、魔法で部屋を一つ作ったってお父さんとお母さん達から聞いたよ。訓練始めた初日で凄いよね」
「やあ〜はははは、いやいや、凄いのは私じゃなくて魔法だから〜」
とか口ではお謙虚を装いながら内心ではめちゃくちゃ鼻が伸び天狗になっている。だって褒められるの嬉しいんだもん。
「私も見てみたかったな、そんな凄い魔法」
「じゃあ、おつかい終わったら見に行く? 家からちょっと離れたとこの広い空き地に作って――」
「いや、それが一時間程で消えてたんだって。ハジメが作った部屋」
「マジで!?」
そうか、消えちゃうのか。何かちょっとショックだ。
じゃあ、漫画もゲーム機も……マグカップも、消えたのか。
「――まあ、作ろうと思えばいつでも作れるだろうし、いいか」
とりあえず今の私が作れると確定しているもの……マグカップ、ゲーム機、漫画、あと自分の部屋に置いてあるものや日常的に使っていたものは全部作れると思う。凄い、結構あるぞ。戦いでは役に立ちそうに無いけど。
「魔法、またいつか見せてね。今日は無理しなくていいけど」
「うん。まあ気分的には今日でもバリバリ魔法使えそうだけど」
何なら調子こいて今、街のど真ん中で魔法を使いたい気持ちもある。が、街中で必要でない時に魔法を使用するのは禁止だと聞いたので止めておこう。
その後も畑で育てている野菜やら弟や妹達の話を交わしながら歩いていき、目的地に到着。
魔石屋で虫除けの魔石を複数個購入。
「私が荷物持つよ」
「いいの? ハジメには結構重いと思うけど」
「大丈夫大丈夫、私も何か役に立ちたいし」
「持つの疲れたら言ってね」とアメリアから魔石がいくつか詰まった紙袋を渡された。
両手で持ったが、ズシンと来た。
確かに重たい。今は大丈夫だけど時間差でしんどくなって来そうだ。でも言っちゃったし持つ。
魔石屋から出て再び歩き出し、その道中。
甘い香ばしい香りがしてふと視線を向けると、その先には焼き菓子らしき食べ物が販売されている店があった。
「何か買って食べていく?」
と誘われたので遠慮せずに同意した。甘いものは大好きだ。
近くの噴水広場で二人座りながらの間食タイム。
私達が買ったのはパウンドケーキっぽい焼き菓子。私のはチョコが塗りたくられていて、元の世界のものとは微妙に味も違うがこれはコレで美味い。
異世界スイーツを幸せ気分で頬張っていると、近くから何かヒソヒソとした声が耳に入って来た。
「あそこに居るの、クラウス様の長女じゃないの?」
「アメリアだっけ、こんな場所で何をしているのかしら」
少し離れたそこに居たのは三人の身なりの整ったおばさま方だ。
アメリアについてか、やはり有名なんだな……人気者だ。などと考えて耳を傾けていると。
「こんな真っ昼間にあんな場所で呑気に菓子なんか食べて何をしているのかねぇ」
「魔法学校も途中で辞めて、畑仕事なんて誰でも出来る事をしてるらしいわよ」
「英雄の娘、それも長女としての自覚が無いんじゃないかしら」
てっきりアメリアへの賛美と褒め言葉が並ぶのかと思ったが全然違った……ただの陰口だ。
つーかモロにここまで聞こえてる。
その後も聞いているだけで胸がムカムカしてくる会話が、ありもしない事を混じえた噂話が聞こえてくる。
隣に座るアメリアの横顔を見る――平静を保とうとしているが、気まずそうな……悲しそうな顔をしているのが分かった。
元の世界の事を思い出した。
不登校一ヶ月目の時、コンビニに行こうとした時にご近所のオバサン連中が私を見ながら「何かにケチつけたい、見下したい」という悪意の籠もった視線でヒソヒソ噂話をしていたのを思い出した。
そして何より、笑顔の明るいアメリアにこんな顔をさせたのが許せなかった。
アメリアは毎日頑張っているのに、それも知りもしないで好き勝手に語るのが、許せなかった。
久しぶりに本気で腹が立って来た。
「そもそも、クラウス様もそんなだらしない娘に何も言わないなんて、ろくでもない父親――」
「いい加減にしろぉ!!」
「ひっ!?」
挙げ句に父親への陰口まで吐こうとしたところで私は叫んだ。
声量をデカくしすぎて関係ない周りもビックリさせてしまい恥ずかしいが、それより怒りが上回っていた。
突然怒声を浴び驚いた顔の中年三人組にズカズカと近いて行く。
「い、いいよハジメ、私は気にしてないから――」
「気にしてない顔じゃなかった」
「――っ」
アメリアから制止されるが流石にこれは無視しちゃ駄目だと思う。
好き勝手喋らせてどんどん調子に乗り噂話の内容までエスカレートしおかしな話が国中に広まってしまうかもしれないのだ。
「な、何なのよあなた急に叫んで、頭おかしいんじゃないの?」
「あー、はいはい、頭おかしいですよ! 私のことはいくらでも好きに言えばいいけど、友達の悪口を言ったり……悲しませるのは、――許さない!」
一瞬、元の世界の友人の姿が脳裏を過ぎった。
あの子にまだLINE返してない、一体どの口で言ってるのかと……いやいや、今は目の前の事だ。
「悪口って……事実でしょ! 学校辞めて誰でも出来るしょうもない仕事を始めたのも、英雄の自覚が無いのも!」
「アメリアは本気で畑仕事が好きで本気で頑張ってるんです! 父も母もそれを受け入れて尊重して、自由にさせてあげているだけ! それの何が悪いんですか! 私より一億倍立派ですよ!」
「あなたの事は知らないけど!」
「何なのよさっきからこの子は、アンタには関係ないでしょ! まさかアメリアちゃんからお金でも貰って味方してるの!?」
「英雄の家だもの、お金なんていくらでもありそうよね!」
「クラウス様がちゃんと娘を教育しなかったせいよ、英雄としての教育を怠ったから農業なんてくだらないものにうつつを抜かして……」
駄目だ、この人達意地でもアメリア達を悪者扱いにしたいようだ。というか英雄としての教育って何だ、分かってて言ってるのか。私にはさっぱり分からないが。
「……あの、もしかして……オバサン方」
「何よ?」
「本当は英雄の子だからどうだ農業がどうだとか、そういうのどうでもいいんじゃないですか?」
「は?」
「……自分より有名で地位も高くてお金も持ってる家に、たまたまケチを付けやすい部分があったから、自分より偉い人に何か難癖つければ自分が偉くなった気になれるから……」
「黙りなさい」
「自分の人生が上手くいかないから、ただ有名人にケチ付けて揚げ足取りしたいだけじゃないですか? 文句とか陰口って努力せず楽に気持ちよくなれていいですよね……」
「違うわよっ!!」
と凄い形相で叫んだオバサン一名からビンタを喰らった。痛い、泣きそう、ちょっと調子に乗りすぎた。
アメリアが走って駆けつけて来てオバサン三人組はスタコラと逃げていった。本人が近付いたら逃げるんかい。
途中から私の発言はただのネット掲示板のイキリレスバみたいになってしまった。現実ではやってはいけない、反省。
「ハジメ、大丈夫!?」
「大丈夫……痛いけど……」
頬がヒリヒリとするが、言い返してやった。たぶん私の言い返し方は間違っていたが、それでも放っておけなかったのだ。
「……ちょっと途中からの発言はよくなかったと思うけど……」
「そうだね、自覚してる」
「でも、私の為にあんなに怒ってくれて、私が本気で畑をやってるのも分かってくれていて嬉しかった……ありがとう、ハジメ」
「うん」
オバサン連中は逃亡し、全然スッキリしない幕切れだが……彼女は嬉しそうに笑っていたので、よしとしよう。
「そろそろ家に帰ろうか」
「そうだね」
そうして帰路へ向かおうとしたその時だ。
背後から先刻のオバサンと同じ声の悲鳴が「キャアアアアアーー!!」と聞こえてきた。
「今度は何!?」
そして同時に男の野太い叫び声も聞こえて来た。
振り返れば身なりの汚い太った中年が短剣を手に持っていて、先程のオバサンの首に刃先を向け人質にしながら周りへ叫び出した。
突然すぎる事態に頭が追いつかない。
「テメぇら全員この場から逃げるな、金置いてけ! でなけりゃこのババアを殺すぞ!」
何と街のど真ん中で市民を人質にしての金の要求……周りに衛兵の姿は見えない。居ないタイミングを狙ったのか。
「ど、どうしよう……」
そうアメリアに声を掛けると――彼女は見たことの無い鋭く落ち着いた目をしていた。
そして背中に両手を組みながらゆっくり近づいていき、男へ声を掛ける。
「あの……」
「あぁん? 何だテメ……誰かと思ったら英雄の落ちこぼれの娘かよ」
落ちこぼれとかこんな男に言われたくないしそもそもアメリアは立派な子だ、と言いたいが何をしてくるか分からなくて何も言えない。
一方アメリアは顔に微塵の動揺も見せず、提案する。
「――人質なら私にした方がいいですよ」
「あ?」
「私を人質にした方がお金取れると思いますよ。うちの父と母は、娘の命の為ならばいくらでもお金を出すでしょう」
「はあ? テメ……マジで言ってんのか? いや……」
いつもの優しい音色で、提案するアメリア。
この子は急に何を言い出すのかと私も困惑した。
そして男は怪訝な顔を一瞬見せたが、すぐに分かりやすい悪人面で笑い。
「そうだな、確かにテメェを人質にした方が軍人も躊躇し金を取れそうだ」
そう言いながら男はアメリアへと近寄り、「両手を出せ」と命じた。
アメリアは背中で組んでいた両手を大人しく差し出し、男はその両手首に魔法で石の手錠を着ける。
周りの人達の顔には恐怖や絶望が色濃く見える――もうどうしようもないという表情だ。
だが、背後に居る私には見えていた。
数秒前、アメリアが腕を差し出す前に背中側に回していた両手が一瞬、それぞれ赤と緑に光っていたのを。
何なのかは分からないし、ハラハラするし、止めたいが、私はアメリアを信じる事にした。
「ちょっとでもおかしな真似をしたらテメェの首を――」
そう口にしながら短剣を首に近づけて行った瞬間、アメリアは何かを小さく呟いた。
「――ヒート・トルネード」
「あ? なんて――」
それは私にも男にも聞き取れなかった。
だが、次の瞬間――
男の足元から突風が発生。短剣が上空へと吹き飛び、巻き上がる赤い竜巻に男の身体は呑まれ回転し悲鳴を上げながら上空へと投げ飛ばされていった。
撃たれた本人もビックリだろうが、予想以上の派手な攻撃に私も開いた口が塞がらない。
「うぎゃああああぁぁぁ熱い熱い熱い痛い痛いああぁぁぁっ!!」
短剣は誰も居ない場所に落ち、アメリアは両手から突風の爆発を起こし石の拘束具を破壊した。破壊できるんだアレ。
悲鳴を上げながら落ちてくる男が石畳へ衝突する直前、アメリアはその落下地点へ手を伸ばし男の身体は一瞬浮き上がる。
そしてそのまま死なないようゆっくり優しく石畳の上に落とされた後、アメリアは先刻人質に取られていたオバサンの元へと向かう。
そして恐怖に泣き座り込んだままの女へ、アメリアは手を差し出しながら声を掛けた。
「――お怪我はありませんか?」
その時のアメリアの顔は正に英雄の様な笑みを浮かべていたという。