五話 ガラクタだらけの部屋
魔法の訓練をしていた最中、私達の前にクラウスとアンナへ攻撃を仕掛け姿を現した謎の若い男女。
一人は白髪、左目下の刺青、毛皮のマントが特徴的な男。
もう一人は水色の髪、額から二本の角を生やし着物を羽織る小柄な女。
それぞれ、ゲオルグ、シズクと名を呼ばれていた。
しかも、まるで昔からの知り合いであるかの様な口ぶりだった。
状況が全く分からない私はただ見ているだけしか出来ない。
「……今の力を、確かめに来ただと?」
「そうだ」
クラウスと必要以上の会話をする気はないらしい。
ゲオルグと呼ばれた男は右手に握りしめた半身の破壊された石の剣を刃先まで完全に再生させ、飛び掛かる。
頭部めがけて迫り来る石の剣を鋼の刃で受け止め、打ち返し、火花を散らす激しい剣戟が繰り広げられた。
「く……っ。お前が口下手なのは今更何も言わんが、もう少し分かるように説明しろ!」
そう叫ぶクラウスの足元から地を鳴らしながら不意討ちの様に出現する岩の拳。
それを彼は空いた左手で受け止める。普通ならばクラウスの左手の方がバキバキに砕かれてしまいそうな絵面だった。
しかし実際は、岩の拳は空いた左手に受け止められ、次の瞬間には粉々の砂粒へと変わり消えていった。
「それに気づいていたか。流石だな」
「褒めるより先ず質問に答えて欲しいんだがな!」
「それは終わった後だ」
更に男の猛攻は勢いを増し地面から四本の土の腕が生えて、見た目の絶望感はたっぷりだ。
しかし、クラウスは迫る二発の拳と二撃の平手を表情一つ崩さずに避けながらその内の二本を斬り落とす。
頭上から迫る平手を避け、地に叩きつけられた影響で地面が揺れる。あの岩の手は見た目通り凄いパワーを持っている。
そしてその連撃から間髪入れずに放たれた石の散弾がクラウス目掛けて降り注ぐ。
逃げ場の無い破壊の雨、それに対してクラウスは迫りくる石の散弾へ剣を振るい横薙ぎする。
「ハアアァァッ!」
すると、剣で打たれ粉々の砂粒にされた石弾から伝播する様に、剣にぶつかっていない石弾までもを巻き込みその全てが同様に砂粒へと変化しながら消滅していった。
「――あらゆる魔法を無力化し消滅させる『消失魔法』……変わらず厄介な力だ」
『消失魔法』――それがクラウスの持つ希少魔法なのか。
あらゆる魔法を消滅させるなど分かりやすくチートな能力……だが感心している余裕など今の私にも無い。
そして残る二本の岩の腕による地を揺らす攻撃を避け、切断しながらクラウスは剣を構え、
「裂空!」
そう叫びながら振り抜き、空を切り裂く動作を見せる。
その直後、数メートル離れた先に居るゲオルグの左脚に切り傷が付き、出血した。
なんだ今の、バトル漫画とかで見る『飛ぶ斬撃』という奴か。
「ふむ。もう少し深く直撃していれば脚が使い物にならなくなっていたかもしれん。目に見えて分かるほどは衰えていないようだな」
自分の傷口を見て冷静にそう分析し、それでいて賞賛しながらもいまだ余裕の表情を崩さない。
「……ゲオルグ。まだ何か隠しているな」
「あぁ。ここまでは様子見だ。――私はずっと、力を磨き続けていたからな」
一方、角が生えた水色髪の女シズクと交戦中のアンナ。
そちらも、刀と魔法による攻防が繰り広げられていた。
「――シズク、目的を言いなさい!」
「言いません。先ずは全力で、私達を殺すつもりで来てください」
そちらも会話に応じる気はないらしい。
アンナの左手から放たれた水流の一撃をシズクは身を屈めながら回避し凄まじい速度で接近。
一気に距離を詰めた女から放たれる、視認出来ない速度の数発の剣閃。
アンナはその尽くを回避――いや、頬に薄っすらと、そして肩に大きく一撃を喰らっていた。アンナの肩が切り裂かれ鮮血が散り流血する。
見てるだけで痛い。
しかし、それでもアンナは苦痛を顔には出さず右手に炎を生成し――それと同時に先程の刀傷が淡く発光、早くも傷口が閉じ始めていた。
「治癒と攻撃の魔法同時発動――才能は衰えていない様子」
感心した様に言いながら、アンナから放たれた火球を跳躍しながら回避。行き場の無くなった火球は地表を抉りながら大きな火柱を起こした。
「一撃でも当たれば、私じゃ死んじゃうかもしれないですね。ちょっと普通に怖いですアンナさん」
「殺す気で来いと言ったのはあなただよ!」
双方の戦いが激化する中、私の横にいたレイチェルは居ても立ってもいられなくなった様子で自らの手の甲に魔法陣を書きながら声を上げる。
「私も援護するわ!」
――が、その直後。
地を揺らしながら、地面からボコボコと人型の何かがレイチェルの目の前に現れた。
それは、全身石で作られた二メートルはありそうな、ゴーレムみたいな人型の巨体だった。
「何!?」
そんな驚きの声に答えた訳では無いだろうが、ゲオルグがその巨体の名を呼ぶ。
「『石人形』だ。お前は大した戦闘力を持たない事は知っている。ソレで充分だろう」
ソレを見てクラウスはレイチェルへ声をかける。
「レイチェル、無理はするなよ! とにかく逃げて耐えてくれたらいい!」
「分かったわ!」
そう答えながら彼女は『石人形』と睨み合い、歯を食いしばった後――早口で喋り始める。
「土魔法の中でも特に使い手のレベルで極端に強さが変わる『石人形』、このレベルを実際に見るのは初めてだわ。じっくり観察して研究したいところだけどそんな暇は無さそうね!」
緊迫した場面でも変わらない魔法オタクっぷりだ。ある意味安心感はあるが。
更に続けてゲオルグは私へと視線を向け、目が合った。そして、
「……そこの女には何もする必要は無さそうだな」
それだけ言い残しクラウスへと視線を戻した。
――舐められてる。完全に眼中に無い扱いされている。いや、それはそうだけど。確かにこんな場面で自分には何も出来る事は無いという、自覚はあるけれど。
「……」
――結局、こうだ。
凄い魔法が手に入るだのはしゃいで、チート能力で大活躍し無双するなんて妄想に浸って、現実はこのザマだ。
ダサい。バカみたい。調子だけはいい無能。
私に出来る事は何も無い。
――でも。
少し前の自分なら「やっぱり私じゃダメなんだな」とぶん投げてそのまま逃げて余計に腐っていくだけだったと思う。
でも、だけど、今は……何故か、「諦めよう」より「諦めたくない」が、ほんの少し勝っている。
このまま何も出来ないのは悔しいと、思っている。
そんな思考の中で、突如凄まじい地響きが起き視界と地面が激しく揺れて、膝が崩れ、地に両手を着け、意識が強制的に現実へと引き戻される。
一瞬の揺れが収まり顔を上げ前を見れば、そこには岩の拳に叩き飛ばされているクラウスの姿があった。
「クラウスさん!」
クラウスは地面を転がりながら衝撃を殺し隙を見せない様すぐに立ち上がる。
動きや外見は大きな負傷をした、という訳では無さそうだが。
「チッ、地震なんか撃てる様になってたのかよ!」
「どの様な強者でも地に足が着いている限り、強力な地の揺れに抗う事は不可能だ」
そう微笑を浮かべながら口にするゲオルグに、横から女の声も飛んで来る。
「いきなり撃つのやめてくださいゲオルグ様。巻き込まれるのは私もなんですよ」
「……私が戦闘中にこの魔法を使うであろう事は事前に伝えたはずだ、シズク」
「分かっていてもビックリするんです。分かりやすく合図してください」
「……クラウス達にバレる」
何か急に気の抜ける様な会話で一瞬だけ男がシュンとした様な目をした気がするが、そのやり取りと同時に眼前で起きている光景は岩と鋼と炎の飛び交う地獄絵図の様な戦場のままだ。
軽い会話を交わしながらあんな動きができるのか。
「――だが、その魔法に巻き込まれるのはお前自身も同様だな、ゲオルグ! 連発しないのはちょうどいい機会を見計らっているからだろう!」
「そうだな……だが貴様も、あの威力は無視出来んだろう。常に警戒せねばならなくなったはずだ」
「……!」
「『消失魔法』は強力だが完璧ではない……消滅させられる対象は一度に一つの魔法のみ。使用したあと直ぐには再発動出来ない」
「よく観察しているな」
「そして強力な分、自身の魔力の消耗も激しいはずだ。使う機を見極めねばならない」
「……俺の魔法を使用するタイミングを迷わせるために、わざわざさっきの地を揺らす魔法を見せたのか。確かにアレはもう喰らいたくないな、いやらしい事する奴だ」
そう言いながらクラウスは再度剣を振り抜き『飛ぶ斬撃』を放つ。
それを横へ飛びながら回避しつつゲオルグは自身の両脚全体を石の装甲で覆い始めた。
先刻飛ぶ斬撃に脚を斬られた事への警戒だろうか。
「時間は掛けない。次で終わらせる」
剣を構え直しながら静かに呟くクラウス。
少し離れた場所では『石人形』に対し手から水を放ち応戦するレイチェルの姿が見える。
割と元気に色々喋り『石人形』を観察しながら逃げ回っている。
そこから更に離れた位置では、アンナとシズクの攻防が続いている。アンナは負傷するたびに自らを回復し、同時に火力の高そうな魔法を撃ち反撃するパターンを繰り返していて、相手はなかなか攻めきれずに居るようだ。
そんな周囲の音が騒がしい中で、クラウスとゲオルグの間に暫しの沈黙が流れる。
やがて、その静寂も終わりが来る――最初に動いたのはゲオルグだった。
男は周囲の中空に四つの岩塊を生み出し、先ずは一発を一直線に射出。直撃すれば人体はただじゃ済まないだろう石弾がクラウスに迫る。
一発を避け、クラウスの移動する先を読み時間差で飛んで来る石弾二発目、三発目をそれぞれ剣を振るう事もなく回避。
そして最後の迫り来る四発目を同様に回避しようとした――が、最後の一撃は違う動きを見せ、クラウスに接近する直前に無数の砂粒へと変化しながら破裂する。
「ちぃっ!」
勢いよく広がる視界を眩ませる程の濃い砂煙がクラウスを覆い、全身に纏わりついて土へと変化しながら固まって、その全身を拘束した。
「一つだけ、石弾に似せた違う魔法を混ぜていた」
そう呟きながらゲオルグは指を動かし二本の岩の腕を出現させ、二本の拳が同時に拘束されたクラウスへと襲いかかる。
絶体絶命のピンチかと思いかけた直後、クラウスを覆っていた土の拘束は砂粒へと還りながら消滅。
その中から飛び出す様にクラウスが現れて二撃の岩の拳撃から逃れる事に成功。
しかし、岩の両腕の猛攻は止まらない。
追撃を掛ける頭上からの張り手を避け、同時に地表から射出された腕――岩のロケットパンチが回避行動取ったばかりのクラウスへと高速で飛んで来る。
「ハアァッ!」
迫り来る一撃を剣で両断、巨大な岩の腕は粉々になり砂煙へと姿を変え消滅。
だが、まだゲオルグの攻撃は止まらない。
「これならばどうだ」
ゲオルグの声と共に地面が微かに揺れながら部屋四つ分程の範囲の地表が分厚く剥がされ、浮き上がり、土砂の大波となってクラウスの頭上から襲いかかる。
「――」
クラウスは迫る土砂の大波を冷静に睨み付け、剣を構え、ただ一言――囁いた。
「海斬り」
それと同時に、縦一直線に放たれた一閃。
土砂の大波は真っ二つに両断され、クラウスの左右にそれぞれ地響きを立てながら落ちる。
「魔法を使わず、剣技のみで破壊するとは――」
男は驚きの顔を浮かべながら頭から腰までを岩の鎧で覆い、土の剣を二つ生成し両手に握りしめる。
一方、大波を斬り落としたクラウスは剣を構え直しながら走り抜け、一気に距離を詰めた。
そこからは私の目が追いつかないレベルの速く、激しい剣戟が繰り広げられる。
鋼と岩の打ち合う音と火花が散り、そして――
男の横腹にクラウスの剣が深く突き刺さり、背中側まで貫通した。
全身を覆っていた岩の鎧は無数の砂粒へと還りながら消滅、吐血する。
「ゴフッ」
「これでどうだゲオルグ、もういいだろう」
戦闘を終わらせようとする彼に対し、横腹に深く刃を刺された男は血を流しながら返す。
「見事だ……」
そう賞賛しながら相手の持つ剣の柄を上から握りしめた。
それに対しクラウスは怪訝な目を向けながら制止を続ける。
「おい、もうやめろ。無意味だ、単純な力なら俺の方が――」
「今だ」
制止を無視し、何かを一言呟いたゲオルグ。
――その直後。
二度目の、地を揺らす魔法が放たれた。
「――っ!?」
時間にすればたった数秒の激しい揺れ、二度目にも関わらず頭がパニックになる。こんなもの何度体験しても慣れることなんか無いと思う。
やはり体勢を保つ事は出来ない、膝から崩れ落ち揺れている間は身動きが取れない。
クラウスも、体勢を崩して膝を着いてしまった。
けど、何故このタイミングで?
少し前に撃った本人にも影響があると話していたはずだ。クラウスに横腹を刺されてピンチの時に撃っても、何ら形勢の逆転なんて――
「――は」
おかしい光景が目についた。
あのクラウスですら激しい揺れで膝を着いているのに、ゲオルグは上半身だけが揺れ直立したままの体勢だった。
ゲオルグの下半身から爪先までに付いたままの土の装甲は、岩の鎧発動よりも少し前に纏わせていたものだ。
たぶん、岩の鎧とは別の魔法としてカウントされているから、先刻のクラウスの一撃で鎧のみが消えたのだろう。
いやそれは別にいい、問題は土の装甲の足元だ。
知らない間に、下半身から爪先まで纏われた土の装甲が地面と一体化し、ガチガチに固められていた。アレで自らの下半身を無理やり固定させていたのだ。
「『立つ』動作がいらない分、貴様より速く復帰できる」
揺れが収まり、宣言通りクラウスが立ち上がるよりも速く石の装甲で覆われた足を接着させていた地面から直ぐに切り離し腹部へ一撃の蹴りを叩き込れる。
「ぐふっ!?」
更に蹴り飛ばされたクラウスへ一撃の大きな岩塊が撃ち込まれる。
「くっ――!」
咄嗟に両腕をクロスさせ防御――岩塊と衝突し更に吹き飛ばされて私の真横まで転がって来た。
「クラウスさん、大丈夫ですか!?」
「あ、あぁ……何とかな……ギリギリで、『闘技』を使いダメージを軽減させた……」
あんなのを受けて五体満足とは。生きてて安心しかないが、正直ビックリしたというかもうダメかと絶望しかけた。
しかし、ギリギリ防御して五体満足でも無事とは全然言えない。両腕が削れて出血している。
「……ほ、骨とかは……」
「骨は大丈夫そうだ……最初の蹴りで、肋にヒビは入っていそうだがな……」
「う……」
視線を前に戻す。
すると、ゲオルグは横腹に刺さった剣を抜いて自らの背後へ投げた。その後、貫通した横腹を土の装甲で覆い無理矢理止血。
そして、クラウスを見下ろし口を開く。
「さあ、剣は私の後ろに行ったぞ。どうする?」
「……素手でも、やってやるさ」
「ふ、それでこそだクラウス」
彼は少し息苦しそうに立ち上がり、両腕からは出血。その上剣は敵の後ろに捨てられた。
やる気満々の様だが……どう見たってクラウスがピンチだとしか思えない。
二人は睨み合い、止まっている。だが、少し経てばまた戦闘が再会されるだろう。
このまま、ここで、もし、彼が殺されてしまったら……
「――っ!」
胸が痛んだ。
人が死ぬ、そんなの見たくない。それも命を助けて貰い、住む場所も提供してくれて、魔法の訓練にまで付き合ってくれる恩人だ。
そして、彼が死ねば、あの優しい家族も皆が悲しむだろう。
あのいつも笑顔のあった食卓から、温かな空気が消えてしまうかもしれない。
胸の痛みが大きくなってくる。
嫌だ。
死んでほしくない、誰の悲しむ顔も見たくない、ずっとあの平和な光景が続いていて欲しい。
このまま何もせず、最悪な結果に終われば、皆から笑顔が消えたら、きっと私は一生後悔する。
「はあ……はあ……」
無意識に私の足は動いていた。
グランヘルム家の皆の顔が脳裏を過ぎった。
「失いたくない……」
そして、前の世界の両親と友人の顔が浮かんだ。何故浮かんだのかは、考えない。
「安全圏から傍観して、脳内で戦闘実況垂れ流しするだけなんて、そんなの……」
軽口を混じえるのは足が竦む程の恐怖を少しでも紛らわせるためだ。
「……ハジメ、おい?」
横で動き始めた私に、クラウスが声を掛けてくる。しかしもう私にそれを聞く冷静さは残っていなかった。
ただ、「私が時間を稼いでその間にクラウスに剣を取りに行ってもらおう」という具体的な計画のないゴールだけ設定した考えで、走り出した。
がむしゃらに走り出した。
後ろから「バカヤロー!?」というクラウスの声が聞こえた。そりゃそうだ、でもあんなボロボロな姿を見て、居ても立ってもいられなくなったのだ。
「む?」
ゲオルグが羽虫でも見るかの様な目を向けてくる。
どうしよう、どうやって対抗するか何も考えてない、何か強そうな武器や盾、それを『創造』で生み出して――いやダメだ、私じゃ上手く扱えないしそもそも創れるかも分からない。
私が創れるもの、創れるものは何か、前の世界の自分の部屋にあったモノを思い浮かべる。
どれだ、どれがいいんだ、分からない、全然分からない、あーもう、えーーい、分からないなら――
「全部だぁっ!!」
私の手の平が強く光った。
「――!?」
身体中に、全身に痛みが走る。重たい頭痛が襲いかかり鼻血が噴出する。ヤバい、全身が色々とヤバい。
だが、光の後に見えた目の前に見えたその男の顔を見て、私は「やったぜ!」と心の中でガッツポーズを取った。
「――これ、は、何だ……?」
そんなゲオルグの声が聞こえる。
彼の足元は床、周りは壁、上は天井になっており、周りにはカーテン、窓、ベッド、机、椅子、タンス、本棚、そして漫画本やゲーム機、ソフトが散乱している。
ここは『創造魔法』で創り上げた、私の部屋だ。
そして、ポカンと呆気に取られた表情の男の目の前にあるもの。
それは、壁に貼り付けられた二次元のイケメンや美少女が描かれたポスター群。
そして並べて飾られているフィギュアやアクスタなどの二次元キャラクターグッズ。
未知の景色にビックリしているようだ。
彼は今、私のオタク部屋のど真ん中に居るのだ。
そして私もその隣に居る。
「――貴様、これは、何だ……」
彼はこの現象に対し問うているのだろう。が、私はわざと話を逸らす。
「これはアニメ漫画のポスター、フィギュア、アクスタでして……」
「そうではない、貴様、何をした?」
「あなた様のフィギュアやアクスタもお作りしましょうか? 私の魔法で」
「貴様は何を……!」
男が更に私へ詰めようとした直後、窓ガラスが割れカーテンが盛大に揺れ、そこから剣を手に持ったクラウスが飛びかかる。
「隙を見せたなっ!!」
「くぅっ!?」
ゲオルグは咄嗟に背中側へ土の装甲を纏わせる――が、それではクラウスの一撃を防ぎ切る事は出来なかった。
「ハアアァァッ!!」
クラウスの刃から放たれた一閃。
土の装甲を消滅させながらゲオルグの背部へと直撃、そのまま部屋の壁をぶち破りながら男は外まで吹き飛ばされていった。