四話 私のチート魔法
異世界に召喚されて強力な魔法を持ってしまった私は、グランヘルム家一同に宴を開かれながら盛大に祝われる。
翌日には『創造』の魔法で頭の中でイメージできるあらゆるモノ、強力な武器を生み出し、やがて凶悪なモンスターや悪の軍団にチートで無双する――
この最強の力で、全てを手に入れる物語が今から始まる……
などと脳内妄想劇場を繰り広げながら、グランヘルム家一同と普通に夕食をとり普通に入浴しアメリアや子供達、レイチェルと雑談を交わし、ベッドの上でも異世界ライフ妄想を続けながら就寝した。
ついに明かされた私のチート能力『創造』――それはイメージしたモノを具現化・生成する希少魔法の中でも更に珍しい魔法。
もう字面から既に何でもあり感たっぷりで強そうだ。ワクワクが止まらなかった。
――翌日。
子供達三人は学校へ登校。ルシアンは一日休んだらだいぶ落ち着いたようで、暫し悩んだ後、「行く」と口にした。
私ならたぶん何日かズルズルと休んだ、偉い子だ。
アメリアと祖父母は今日も農作業、ヘクトール(飼い犬)は庭先で蝶々を追い掛けている。
そして私はクラウス、アンナ、レイチェルのちょうど時間が空いている大人組三人の指導の元、魔法の練習をすることになった
場所は邸宅から十分程歩いた先にある、木々に囲まれた広場。
私はワクワクとした足取りで向かい、心の準備は万端だ。
「私はいつでも良いですよ、先ずは何をすればいいですか!」
「今までで一番やる気に満ちた顔だな……先ずはちょっと落ち着け」
興奮気味な様子にクラウスが少し戸惑っているが仕方ないと思う。漫画やラノベを見て、自分も魔法を使ってみたいという妄想はこれまで何度もしてきた。
そういえば元日本人という事はクラウスも何か希少魔法が使えるはずだ、彼はどんなチート能力を持っているのだろうか。
それも気になるが。
「ついに、私にもチート能力が手に入るんです……ちょっとはしゃいじゃう気持ち、わかりませんか」
「正直気持ちは分かるが、そのアニメかゲームみたいな言い方は……まあいい。あまり調子に乗らない様に気をつけるんだぞ」
「はい」
調子に乗るなと釘を刺されてしまった。
親や先生にも何度か言われたことがある、そんな調子に乗ってるのが分かりやすい顔をしているだろうか。
調子に乗りすぎて失敗しないよう彼からの注意を頭の片隅に入れて、横からレイチェルの元気な声が聞こえて来る。
「準備出来たわよ!」
「おぉ……」
視線を向けた先にあるのは地面の上に書かれた大きな魔法陣と彼女のドヤ顔。厨二心をくすぐる。
魔力の操作をしやすくなる効果がある魔法陣で、学校などでも練習の際に使用されるものだ。と、レイチェルが解説した。
「実戦で扱うには手間が掛かる割に効果が小さいから本当に練習用だわ。でも、百年前にこの魔法陣を巧みに使い新兵部隊が大規模部隊を撃退した逸話が残ってて」
「レイチェル、今は歴史の話じゃなくてハジメの訓練の時間だよ」
「そうね、始めましょう!」
長々と話し始めそうになったレイチェルをアンナが制止し、魔法訓練が始まった。
手招きされ魔法陣の真ん中まで移動する。
ドキドキして鼓動が大きい意外は今のところ普段の自分との違いは感じない。
言われた通り深呼吸し、瞑想――頭から雑念を消し去る。
凄い魔法を覚えたらどうしようか、大冒険を繰り広げたりチートで無双なんかしちゃったり、今日のお昼ご飯なんだろうアメリアが作るらしいがルシアンは学校で大丈夫だろうかミシェルも居るからイジメとかは大丈夫だと信じたいがウィルフレッドにスマホ見せてと言われたがアドレス帳の人数少ないから恥ずかしいまあ日本語読めないだろうからそんなこと分からないだろうけどそういえばあのゲームやり途中だったな
あ、雑念消すの難しい。
「……雑念を消すって、具体的にどうすれば……」
「目を閉じて、呼吸だけに意識を集中させるんだ」
「……自分の鼓動がうるさいです……」
「口も閉じて。あと身体が固いよ、力を抜いて」
「はい」
クラウスとアンナからそれぞれ言われた通り、余計な思考をしないよう目と口を閉じて、身体の力を抜いて、自分の呼吸のみに集中。水の呼きゅ――ダメだまた余計な事を考えかけた。集中。
何度も途中で失敗し「めんどくせえ!」とぶん投げようかともちょっと思ったが、興味津々で頑張ろうと思ったものまで投げ出して諦めたら私は本当に何も無いダメ人間。
そして、脳裏に過ぎるルシアンの姿。
あんなに学校を嫌がっていた子が今日は頑張って登校したのだ……もう高校生になった私がすぐに投げ出すなんてダサすぎる。
愚痴りたい口を閉じ、静かに呼吸を続けて、段々と雑念の頻度が減り、少しずつ周囲の音が鮮明に聞こえ始めて来た。
風で揺れる葉、鳥のさえずり、虫の羽音。
頭の中の雑念が消えたら周りの音ってこんなクリアに聞こえるものなんだと気がついた。
そして、いつしか雑念が遮断されたと同時に、アンナの声が聞こえた。
「そのまま利き手に意識を集中させて、右手に魔力を流すイメージを」
魔力を流す……流す、魔力ってどれだ。
「全身の血流が右手に集中して流れてくる、そういう感じでイメージしてみるんだ」
続けてクラウスからのアドバイス通り、雑念が再び沸かない内に右手へ意識を集中させる。血流を全身から右手へ集中的に流し込む様なイメージ。
今のところ自身の変化は特に分からないが……ん?
何か右手が熱い。
「今、その右手を魔法陣に置いてみて」
アンナからの指示通り、右手の平を魔法陣の上に着け、その次の瞬間。
ただ地面の上に削られ書かれていただけの魔法陣が、全体から光を放った。
「ひえぇ、何コレ!?」
突然の発光にビックリして集中が一気に途切れた――が。
レイチェルの嬉しそうな声がした。
「成功ね!」
成功。どうやら成功らしい。
何がどう成功なのかよく分からないが。
「お疲れ様。今のが魔力操作の基本に必要な工程だよ。魔法陣が光るのはハジメの右手にちゃんと魔力が集中してた証拠だね」
「あ、なるほど」
アンナから説明されて納得した。
てっきり『創造』の魔法で何かを生み出すところまでで「成功」だと思っていたが、物事には順序がある。先ずは基礎から、それはそうか。
クラウスもよくやった!といった感じの顔で声を掛けてくる。
「こうして一度身体に覚えさせりゃ、後はそこまで難しくない。慣れればそのうち飯食って読書しながらでも魔法を使える様になる」
「流石にそれは私から見ても行儀良くないですね」
「例えだよ例え」
続いて、ここからが本番。
『創造』の魔法を実際に使ってみる。
魔法陣の上に座り、先刻と同様に右手へと意識を集中させ、血流を流し込む様なイメージ……何度か繰り返すと、手の平に熱を感じた。
「魔力が右手に集まったみたいだね。今なら使えるかも」
「古い文献によると、『創造』は魔法の中でも特に細部までの明確なイメージが重要らしいわ」
今ならこの右手で何かを作り、生み出せる。
『創造』はイメージした生物以外のモノであればだいたい何でも作れる魔法らしい。
ならばオタク的に真っ先に思い浮かぶ、ファンタジー世界で作ってみたいモノ。そう、
「あらゆるものを斬る最強の剣だ!」
右手が熱くなり光る、何とも神々しい光だ。
そして更に強く発光した瞬間、手の平の上に一本の細長い物質が生成される。
そして、そこに顕現した自称最強の剣を見て、周りも、私も、あまりの衝撃に思考が停止し暫しの沈黙が訪れた。
『創造魔法』により創り上げられたその姿はまさしくあらゆるものを切り裂く剣――ではなかった。
何かすっげぇフニャフニャした紙細工の剣?っぽいモノが出来上がっていた。
「何コレぇ!?」
手の平の上でプラプラしているソレを見てあまりのショックに開いた口が塞がらなかった。周りも反応に困っている。
いや、まだ分からない。見た目がふざけてるだけで威力はチート級かもしれない。
「魔神烈火斬!!」
何かそれっぽい技名を叫びながら地面に自称最強の剣を叩きつけた。
ペティンというショボい効果音の後フニャンと折れ曲がって終わった。もちろん地面には傷一つない。破壊をもたらさない環境に優しい剣だ。
「何でだぁぁぁーー!」
「お、落ち着いてハジメ。誰も皆最初は失敗するものだよ」
「うぅ……アンナさん……」
「……ハジメ、レイチェルの話はちゃんと聞いていたか?」
「聞いてましたよクラウスさん。だから、アニメ漫画やゲームの剣を参考にイメージして……」
「……だから紙細工なんじゃないか?」
「……」
えぇ……だから紙細工なのか……マジかぁ……思ったよりチート能力じゃなかった……
「ハジメ。何事も焦らずコツコツ積み上げるのが一番なのよ」
「……はい、地道に頑張ります、レイチェルさん……」
いきなり幻想をぶち壊された事で熱に浮かれていた頭が少し冷静になった。
うん、彼女の言う通り地道に行こう。本当はチート無双とかしたかったけど。
さて、気を取り直して『創造魔法』を続けよう。何を創ろうか、考えてみる。先程みたいな失敗はもうなるべく避けたい。
最初は何を創ろうかとワクワクしていたものだがいざその場になるとめちゃくちゃ迷う。というか分からなくなる。何なら作れるんだ。
私は本番に弱いタイプなのだ。
そんないきなり壁にぶち当たるグルグル思考を察したのか、クラウスとアンナも助言をしてくれる。
「細部までのイメージが重要……なら、自分の好きな物とか、強い思い入れのある物を思い浮かべてみたらどうだ」
「思い出の品でもいいし、日常的によく使ってた物でもいいんじゃないかな」
好きな物、思い入れのある物……それとも日常的に使っていた物。どれにも当てはまるのはゲームや漫画だ。これらなら一発で生み出せてしまいそうな気がする。あとは――
「よく使ってた物」
一番強いイメージで頭に浮かんだモノがあった。
次の瞬間。
手に更なる熱を感じ、手の平の中にぼんやりと光が生じて――イメージしたモノが、そっくりそのままの姿でそこに現れた。
よく知っている姿、よく知っている手触り、どこで、いつ、誰に貰ったものかもしっかり覚えている。
「……本当に、出来た」
現れたのは赤と青の柄が付いた白いマグカップだ。
頭の中で強くイメージされた、元の世界で毎日使っていたモノ。
外見も材質もほぼそのままだった。
『創造』によって生成されたモノを見て、クラウスとアンナの二人も感心しながらマジマジとそれを見る。
「これはマグカップか……凄いな、本当にモノを生み出せる魔法なのか」
「隅々まで精巧に出来てるし、ちゃんと陶磁器の材質みたいだね。これはハジメの思い入れがあるモノ?」
「……はい」
小学一年生の頃、母から誕生日プレゼントに買って貰ったもの。
それから何年も、毎日、使い続けていた。
日常的に使っていて、思い入れがあって、好きな――
「……」
途中で思考を止め、蓋を閉じた。
これ以上考えたら今の生活を楽しめなくなる。
まだ、考えなくていい。
そういえば、魔法を見て一番はしゃぎそうなレイチェルが静かだな、と思い視線を向けると。
「すごいすごいすごいすごい何アレ本当に無から物質が生み出されてるの? どういう理屈? 生成するための材料はどこから来てるの? 魔法の大半は魔力で既に存在している物質を増幅させたり自然現象を操作したり人体に影響を与えるものだけれど『創造』はまたちょっと違う仕組みな気がする。まさかこの世界に存在しない原料から作られたモノを生み出すことも……」
「凄い勢いでブツブツ言いながらノートにメモってる!!」
「レイチェルは魔法への興奮が最大まで高じるとああなるの」
「オタク気質……」
そんな魔法オタク全開な様子の彼女をアンナは微笑ましそうに眺めていた。
よし、元気も戻って来たところで魔法訓練を続けよう。
「おい、ハジメ。さっき一瞬暗い顔をしていたが」
「もう大丈夫です!」
「……そうか」
心配そうにしていたクラウスに「大丈夫」と返し、先程のマグカップを離れた場所に置いて、続けて別のモノを生成してみる。
思い浮かんだのはゲーム機……具体的にはNintendoSwitch lite。
そしてあとは私が大好きな人気少年漫画だ。
先ずは最初にゲーム機をイメージ。熱中し、時に泣き、時に上手くいかなくて癇癪を起こしたゲームをイメージする。プレイ中のソフトがささったままの、NintendoSwitch liteを。
「いっけぇー!」
と、特に意味は無いが勢いで発した声と共に手の平に淡い光が発生。そこに、四角い、見覚えのありすぎる物質が一つ現れた。
「来たぁ!」
画面は液晶、ボタンの数々も忠実に配置されていて、色も私が持っていたグリーン。
記憶の通りの形で出て来た。すごい。
試しに電源ボタンを押してみる……反応なし。中のソフトを確認……そもそも蓋が開かない。
うん、OK。完璧じゃないだろうとは何となく察してた。
「おぉー、すごいじゃないまた何か出来たわね! さっきのマグカップと違って何なのかさっぱり分からないけど!」
「ゲーム機……遊ぶ機械です。まあ玩具ですね」
「へえ、玩具なの……見ただけじゃ全然遊び方分からないけど」
嫁二人に続き、クラウスはかなり興味津々で生成した機械について問いかけてくる。
「ほう、それはゲーム機なのか……言われてみれば確かに、64のコントローラーとゲームボーイを合体させて進化したみたいな外見をしているな」
「64……ゲームボーイ……名前しか知らない……」
私がSwitchに没頭していると、父がたまに古いゲームの話をしていた。その中に出て来た単語としてしか知らない。
どうやら彼もゲームには興味があるらしい。
「これはニンテンドースイッチって奴です」
「任天堂! まだゲーム業界で活躍してるのか!」
凄いテンションが上がってる。任天堂ゲームが好きなのだろうか。
しかし、嫁二人の「何を話してるのか分からん」という目を見てクラウスは一度咳払いしたのち、冷静さを取り戻す。
「コホン。それよりだ、連続で魔法を使って疲れてないか?」
「いえ、まだまだ元気です」
言われたらちょっと疲れて気がするが、始めての魔法体験で心は元気一杯だ。この調子でもう一発行こう。
「ふう……もう一発、『創造』してみます」
「無理はダメだよ?」
「はい」
アンナからも心配されるがまだまだ身体は平気そうだ。
先程と同じ要領。何となく、ちょっとずつだがコツは掴み始めてきた。右手に意識を集中させて、次に生成するものをイメージした。
私が熱中していた大好きなもの。
「いっけぇー!」
またも特に意味の無い声を上げて、淡く発光。『創造』の魔法によりまた新たな物質がこの異世界に顕現する。
形は四角いが先程生み出したものより少し小さいが厚みがある。材質は紙、紙の束。見覚えしかない絵が視界に入る。そう、漫画の単行本だ。
「やった!」
「ほう、漫画本か」
喜びの声とクラウスの声が重なった。
タイトル、表紙絵、作者名、手触り、全てイメージしたものと一致している。
裏表紙も確認……あ、何か裏側は絵も文字もグチャグチャだ。おそらく私の記憶が曖昧だ。
次は中身の確認だ。しっかり紙は一枚一枚生成されている。記憶している範囲まではしっかり中身も再現されている。
「おお、すごい、ちゃんと読める」
中身まで再現できた事に感動していた……が、途中から記憶が曖昧な部分がグチャグチャになっていたり別のエピソードや関係ないキャラが挟まれていたり、何なら別作品のキャラまで紛れ込んでいた。
何でオールマ◯トと両面◯儺が戦ってるんだ。
「やっぱり完璧とまではいかないか」
しかし、こんなものまで作れるのは楽しい。
三人も気になっている様子なので見せてあげる事にした。
創造魔法で何かを生み出すのが楽しくなって来た。頭が少し重たくなって来たが、もう一回か二回くらいならいけそうな気がする。
次は何を作ろうか……と、ワクワクした気分で次の事を考えていたその最中。
漫画本をペラペラめくっていたクラウスが突如目つきを鋭く変え、本を返した後、木々の奥を睨みつけた。
それと同時にアンナも、穏やかだった表情が一気に真剣な目つきへと変わる
一瞬にして、何か空気が変わった気がした。
「クラウスさん、どうかしました?」
「何か居る。そこでジッとしていろ」
「え?」
「レイチェル、ハジメの側に居てくれ」
「分かったわ」
なんだか分からないが、緊迫した状況に急変した事は察した。空気を読んで黙り辺りを見渡すが、私の目には何も分からない。
暫し沈黙が流れて――クラウスが、微かに剣を鞘から抜く音が聞こえた。
「来る」
その言葉の直後、木々の向こう側から一つの、直撃すれば人体が一瞬で原型を無くしそうな大きさの岩塊が枝葉を砕きながら飛んできた。
「はあぁぁッ!」
一目でヤバいと分かるその光景。私なら走馬灯が過る間もなくぺしゃんこになっていたであろう一撃をクラウスは剣の一振りで両断。
更に岩塊は小さな大量の砂粒へと還り消滅していった。
「は!?」
一人驚く私を置いてけぼりにするように続け様に今度はクラウスの足元から現れた岩の拳を回避、ソレもまたクラウスの一閃により両断され同様の消滅の仕方で消えていった。
「見つけた」
そう呟いたアンナは左手から水を生成し、生み出した水球を水流へ変化させながら木々の向こう側へと一撃を放つ。
木のへし折れる音が聞こえ、それと同時に何者かが飛び出してきてその姿を現す。
白い髪、左目下の入れ墨が特徴的な、獣の毛皮で作られた様なマントを羽織った厳つい顔つきの外見は若い男。無傷だ、先程のアンナの魔法は避けたのか、防いだのか。
白髪の男とクラウスの視線が交差し――互いの名を呼び合う。
「久しぶりだな、クラウス。十年ぶりくらいか」
「ゲオルグ! やはりお前の攻撃か、どういうつもりだ!」
ゲオルグと呼ばれた男は一瞬で岩で作られた様な剣を手の平に生み出し、一閃。
それをクラウスは剣で応戦し一撃で粉砕、岩の剣の半分を消滅させた。
「相変わらず厄介だな」
そう呟きながら数メートル後退するゲオルグ。
更にクラウスのすぐ後ろで立つアンナが右手に炎の塊を生成し、距離を取った男へ放とうとしたその直後。
「そっちにも来るぞ! 上からだ!」
「――!」
クラウスからの警告の一声。
それを聞いたアンナは直ぐに上へと視線を向けた――すると、上空から落ちてくる一つの人影。
水色の長い髪に額から生えた二本の角、着物を身に纏い刀を構えた女がそこに居た。
「く――っ!」
頭上から一直線に放たれた銀閃をアンナはギリギリで回避。
「元気そうで何よりです、アンナ」
「台詞と行動が噛み合ってないけれど!」
アンナの反撃として放たれた炎の玉。
それを避けながら着物の女は後退し、白髪の男の隣へと移動する。
「……ゲオルグに、シズクまで居るのか。今更何をしにきた」
全員、知り合いなのだろうか。状況が全く分からない。
そんな混乱で置いてけぼりになる私の前で、クラウス、アンナと睨み合うゲオルグは、厳つくも冷静な顔を保ったまま、静かに口を開く。
「クラウス。貴様の今の実力を……確かめに来た」