三話 グランヘルム家
目が覚める。
窓から照りつける朝日。いつものように嫌な夢を見た。布団から出たくない。めんどくさい。現実と向き合いたくない。
どこか遠い知ってる人の居ない世界に行っても寝起きの悪さは健在だ。
でも、
「――学校行かなくていいんだ」
朝日の差し込む部屋、布団から顔を出しながらそう溢す私。
ここは異世界で暫く居候させてもらうことになったグランヘルム家の邸宅、その空き部屋だった一室。
今日は召喚されてから二日目だ。
「ハジメ。そろそろ朝ごはんだよ」
「……はーい」
扉の向こう側からアンナに呼ばれて、ゆっくりと布団から出る。身体がなんか重いが、元の世界で引きこもっていた時よりは少しはマシか。
いつもの癖で寝起きのスマホ確認。やはりどこにも繋がらない。LINEも開けない。
パジャマからアメリアに借りた服へと着替え、部屋に備え付けられた鏡は見ずにスルーしながら部屋を出る。
広く長い廊下。壁に飾られた絵画。 畑や山の見える窓。隅々まで掃除が行き届いているのが分かる綺麗に整えられた空間。
段々と焼きたてのパンの香ばしい香りが近づいてきた事に心を躍らせていると、背後から突然老婆の声に怒鳴られた。
「ちょっとアンタ、何だいそのだらしない頭! 寝癖が酷いじゃないか!」
「ぴっ!?」
後ろから怒鳴ってきたのはクラウスの母であり子供達から見た祖母。
彼女は目つきも鋭く顔が怖いし声が大きい、正直苦手だ。
「全く、身だしなみくらい整えたらどうなんだい……ついてきな」
「ひゃいっ」
手を引っ張られどこかに連れて行かれる。
何をされるのだろうか、一時間くらい説教されるのだろうか。説教は嫌いだ、めんどくさいし。
「めんどくさいとでも言いたげな顔だね」
「ごめんなさい……」
説教を受ける覚悟していると、炊事場へ連れて行かれた。クラウスのもう一人の妻である赤髪の女性レイチェルがいて、朝の挨拶を交わす。
え、何でここに連れてこられたの、調理されちゃうの?
などと軽くパニックを起こしていると、老婆は清潔そうなタオルを取り出し水で濡らしたあと手で握りしめ、数秒後濡れタオルから湯気が発していた。
たぶん握力の力でなく魔法の力だろう。
そして、そのタオルを私の頭に被せて来た。
「わひっ!?」
「私はアンタの親じゃないんだよ、全く。寝癖くらい自分で直したらどうなんだい」
ブツブツと言いながら蒸しタオルで温かく濡らされた後、ブラシで髪を整えられていく。顔と口調の割に手の加減は非常に優しい。
どうやらお説教ではなく寝癖を直してくれたようだった。
「綺麗な髪してるんだからもっと大事にしな」
「あ、ありがとうございます」
「ふん。明日からはちゃんと自分でやるんだよ」
その様子をレイチェルが横から笑いながら見ていた。
――炊事場まで来てしまったし手間を掛けさせたのでせめて何か手伝おうかと思ったが、既に朝食の準備は完了していたらしい。
あくびをしながら食卓へ向かうと、既にクラウス、アメリア、ウィルフレッドと祖父が席に着いており、皆に挨拶を交わす。
そして食卓の近くには金色の毛を持つゴールデンレトリバーの様な大型犬がおとなしくおすわりしている。
子供達から命名されたヘクトールというゴツそうな名前とは裏腹に愛嬌のある顔をした賢いワンコだ。
「おはよう、ハジメ」
「おはよう」
アメリアに隣に席に手招きされ、そこに座る事にする。
「ハジメ、ちゃんと寝れた? 昨日から思ってたけど目の下にちょっと隈があるよ」
「ん……これはスマホの見過ぎで、前からだから大丈夫……」
「すまほってのはよく分からないけど目に悪いものなの?」
「まあ見すぎるとそうだね」
母のアンナに似て綺麗な銀髪を持つ彼女は私と同い年で、昨日から頻繁に声を掛けられる。年が近い同性の同居人というのが嬉しいのだろうか。
あまり他人からガツガツ来られるのは苦手なのだが、彼女は雰囲気が穏やかで話しやすい。
続いてアンナが席に着き、レイチェルと祖母もそれぞれ席に着く。
そして最後に、駄々をこねる泣き声と共に現れたのが末っ子の娘ルシアンと、彼女を抱える長男ミシェル。
どちらも赤髪で、レイチェルの子供達だ。
「やだやだやだやだ学校行きたくなーーい!」
「最初に魔法学校行きたいって父さんと母さんに頼んだのはルシアンだろ!」
「やーーっ、行きたくないったら行きたくない!」
「どうしたんだよルシアン、いつもはここまで我儘言わないだろ!」
駄々をこねる末っ子の様子にクラウスとレイチェルが真っ先に立ち上がり駆け寄る。
「どうしたのルシアン、どこか痛いとか、苦しいの?」
「痛くない!」
「……学校で何かあったのか?」
「……」
母からの問いかけは否定し、父の問いかけには無言で俯く。
これは学校で何かあった奴だとすぐに察した。
父と母はどうすればいいか悩む表情を浮かべている。そんな中、私の隣に座るアメリアが提案を口にする。
「……そんなに嫌なら、今日は休んでもいいんじゃないかな?」
その提案を聞いたルシアンは姉を見て、クラウスと顔を見合わせるレイチェルが「そうしようかしら」と口にする。
が、ミシェルはどうやらその提案が気に入らないらしかった。
「姉さんも、父さんも母さんも甘いよ! 一回サボって、そこからズルズル何日もサボり始めたりしたらどうすんだよ!」
とても手厳しい意見……しかし、一度サボるとそこからズルズルとサボり癖がつく可能性もあるというのは正直否定出来ない。
私がまさにそうだから。
「とはいえ、ここまで激しい我儘を言う事は無かっただろう。ルシアンにも何か行きたくない理由があるんだ」
父クラウスのその言葉を聞いたミシェルは少し迷いを見せ、それでも食い下がる。
「俺だってルシアンは大事だよ。だから、何日かこういう状態が続けば父さん達の意見を聞き入れる。けど、今そんな提案を出すのはあまりに早計だし甘すぎる対応はルシアンのためにもならない」
なるほど、ミシェルも彼なりにルシアンを心配しているのか……心配だからこそ厳しさを見せるタイプ。私は厳しくされるのは苦手だが。
しかしルシアンは兄に何か言いたげに涙目で震えている。とりあえず休ませるのがいいのか、暫く様子見するのがいいのか、元の世界で当事者であった私にもどちらが正しいのかなんて正直分からない。
けど、少女の辛そうな顔が、見ていられなかった。
私は椅子から立ち上がり、ミシェルとルシアンへ近寄り、声を掛ける。
「あのさ……ルシアンは休ませてあげた方がいいって、私も思う」
「……!?」
「私も学校嫌で嫌で泣いた事あるけど……そういう時に無理やり行かされるのって辛いから」
「部外者のアンタが口出すなよ!」
「いや部外者て」
確かにそうだが。
確かにただの居候の部外者だが……ちょっと言い方がキツイのではないだろうか。地味に傷つく。
「コラッ!!」
「ミシェル、そんな言い方しない!」
クラウスとレイチェルがミシェルの発言に対し叱りつける。
そして更にルシアンが私の背後へと隠れる様に駆け寄ってきて、兄を精一杯睨みながら叫んだ。
「お兄ちゃん嫌い!!」
――お兄ちゃん嫌い。
部屋中に響き渡るその声。
それを聞いたミシェルは……めちゃくちゃ泣きそうな顔をしていた。
「き、嫌い……って、いや、俺だって、その、ルシアンをいじめたいんじゃなくて……本当に、お前の事を思って……」
「お兄ちゃん嫌い!!」
再度放たれた二撃目に更に悲痛を深めた顔をするミシェルに、ウィルフレッドが助け船を出す。
「……ねぇルシアン。兄さんも、ルシアンに将来なにかあったら心配だなって思ってるんだ。悪気は無いんだよ。兄さんが謝ったら許してあげて?」
「……」
「ごめんって! 悪かったって! 今日は休んでいいから!」
泣きそうな顔で必死に妹に謝るミシェル。なんだか可哀想になってきた、彼にも悪気はなかったろうし。
「……ハジメさんも、さっきは、ごめんなさい」
「うん……いいよ」
周りからも「ミシェルを許してあげて」と言われルシアンは無言で頷いた。
二人は仲直り出来るのだろうか……と、少し不安だったが五分後。
私の目の前には笑顔でジャムの付いたパンを頬張るルシアンと頬についたジャムを拭くミシェルの姿があった。
――そして朝食を終え学校に行くミシェルとウィルフレッド、そして仕事に出るクラウスを見送り、片付けを手伝っていた最中……アンナとレイチェルから聞いた話。
ミシェルは前に、街を歩いていると荒くれ者の集団に囲まれ怖い思いをしたことがあるらしい。その時、学校であまり真面目に魔法の訓練をしていなかった事を後悔した経験があるそうだ。
そんな怖い思いを妹も体験してしまった時、少しでも自分の力で切り抜けられる様になって欲しいという思いから厳しく接する事があるらしい。
確かにここは異世界。そして異世界といえばだいたい現代日本よりも遥かに治安が悪い。
時には現代日本よりも厳しく教えることも必要なのかもしれない……たぶん。
片付けが済んで、レイチェルが魔法研究所へと出勤。
彼女は魔法が好きで昔から色々調べたり研究をしており知識が豊富らしい。実践の方は苦手らしいが。
出勤間際、私に声を掛けてくる。
「ハジメの頭髪と利き手の手型、研究所に持っていくわね。約束通り調べてあげるから」
「ありがとうございます」
頭髪などの身体の一部から私が持つ魔法の属性を調べてもらうと昨日約束していた。
人類の魔法研究の歴史は何千年以上と長く、専用の機材と魔法陣さえあれば、その人間が持つ魔力量や魔法の属性の判別が可能だと話していた。
結果が楽しみだ。今すぐ知りたくてソワソワしている。
家に残ったのはアンナ、アメリア、ルシアン、祖父と祖母、そして私。あとペットのワンコ。
アメリアと祖父、祖母は農作業に出て行き、私は家事を手伝う事になっている。
「じゃあ私は洗濯物を済ませてくるから、ハジメは掃除をお願いね。貴族とかのお屋敷じゃないから、隅々まで完璧でなくてもいいから」
「わかりましたアンナさん。程々に手を抜いたらいいんですね」
「うん。抜き過ぎてもダメだけどね」
こんなだだっ広い屋敷を完璧に掃除しろとか言われなくて良かった。箒と塵取りを手に持ち掃除を開始する。
掃除を頼まれている場所は庭、玄関周り、廊下、トイレ、浴室。庭では花への水やりも頼まれている。
先ずは玄関と庭から行こう。トイレと浴室の掃除はめんどくさいから後回しとか考えている訳ではない。
玄関には靴が綺麗に並べられ整頓されており、脱いだ靴を整頓せずよく怒られていた私とは大違いだ。
目立った汚れも見えずこのままで良い気もするが箒で砂埃を掃いたりはしておこう。
玄関から外に出て庭の落ち葉も掃いていく。
庭も広く様々な低木から高木、色とりどりの花が植えられており、立派な石畳や池もある。鯉っぽいがよく見たら違う魚も泳いでいて、池周りからは何か和風っぽさを感じるのはクラウスの趣味だろうか。
落ち葉を粗方掃いて隅っこに寄せて山にする。後で処理するらしいので今はこうして放置。
そしてジョーロで花に水を撒いていると二階の窓からルシアンが覗いているのを見つけ、目が合うと頭を引っ込ませた。
何なんだ可愛いな。
庭の掃除と水撒きが終わり屋内へ戻って時計を見る。数字はまだ読めないが、『針がこの位置に来てたら畑の方に飲み物を持っていってあげて』と頼まれている。
「そろそろアメリア達にお茶持っていこう」
手を洗って私の背丈より小さい冷蔵庫から冷えたお茶を取り出し、グラスに注ぐ。
この冷蔵庫は氷の魔石を敷き詰めて中の食品を冷やし保管するという仕組みになっているらしい。
三人分のグラスを盆に乗せて、屋敷の近くの畑まで運ぶ。
畑にはキャベツからトマトやピーマン、いちごなど色々なものが栽培されている。味は微妙に違うが、それ以外は元の世界の野菜や果物とだいたい同じだ。
アメリアと目が合い手を振られたが手を離せないので会釈で返す。
「お茶持って来てくれたんだね、ありがとう。そこの平べったい石の上に置いてくれたらいいよ」
「うん。冷え冷えの内に飲んでね」
アメリアは祖父母も呼び、いったん休憩に入る。
二人からも礼を言われ、三人が飲み終わるまでこの場に待つ事にする。
「ハジメ、掃除はどう? ちゃんと出来てる?」
「うん、玄関と庭は終わらせたよ。あとは廊下とトイレと浴室と……」
「めんどくさそうな顔してるね」
「えー……いやいや、そんなことないデスヨ」
口を濁しながら誤魔化すが本心はバレバレだろう。
掃除だけでもあまり乗り気でなく本音ではダラダラと過ごしたい私と違い、アメリアは同い年にも関わらず立派に農作業をこなしている。
「……アメリアはいつから畑仕事やってるの?」
「手伝いは小さい頃からしてたけど、本格的に仕事として始めたのは二年前の成人になってからかな」
「十五歳か……私には考えられないな……」
「野菜や果物を育てるのって楽しいよ。大変だし身体は疲れるけど、美味しい野菜に育ってくれたら嬉しいし」
そんな年齢で仕事を始める時点で私からすればビックリなのだが、彼女はその上やり甲斐を感じており仕事を楽しんでいそうだ。
私とは違う世界に生きるタイプの人間である。
そんな子がこうもフレンドリーに話しかけてくれるなど何か申し訳ない気持ちになる。
そんなこと考えながら雑談を交わしていた最中、遠くから足音の様なものが聞こえた。そちらへ目を向ける。
すると、畑の近くにある林の中から一匹の、身体も牙も大きい猪が居た。
「ぴっ――」
ビックリして変な声が出た。
日本に生息するものより一回り大きくゴツい巨体、あの牙に突撃されたら胴体に大穴が空きそうだ。想像しただけで怖い。脂汗が溢れ出てくる。
巨体の猪に対しこちらのメンバーは穏やか系少女、お年寄り二人に、説明不要の私だ。
絶対にヤバい。
今から走るか大声出してアンナを呼ぶべきか、しかしそんな事をすれば大猪を刺激してしまうかもしれない。
どうするべきかパニックになりながら頭をグルグルと回していると、静かに石の上に座っていた祖父が体勢を変えないまま足元の小石を指でつまみ、手をそっと大猪へ向け――指を弾いた。
『何をした』
と、そう考えた直後、硬いモノが盛大に砕けた音がして反射的に目を向ける。
すると、大猪の大きな牙が先端が何かに砕かれていたのだ。
「――は?」
え? どういう事? 何で牙壊れてるの?
音が聞こえたのは祖父が指に乗せた小石を弾き飛ばした後だ……え、まさかアレ?
小石で牙壊したの?
このお爺さん何?
祖父が再び小石を指でつまむのを見て、大猪は驚いた様に大きな足音を立てながらその場から逃走していく。
私も大猪と一緒に驚いたが、当の祖父は涼しい顔のまま小石を土に置き再びお茶を飲み始め、アメリアと祖母もよくある事だと言わんばかりの顔で一部始終を見ていたのだった。
その後、三人が飲み終わったグラスを持ち帰って洗い、掃除を再開。
廊下を掃いている途中にアンナから昼食の準備の手伝いに誘われ炊事場へと向かう。
一応調理実習で何回か包丁を使った事がある、と伝え玉ねぎを切るのを頼まれたので実践してみたところ。
「って、わぁあ! 危ないその持ち方危ない!」
「……すみません、実は包丁今まで三回くらいしか使った事ないんです」
「うん……早めに教えてね……」
「ごめんなさい」
変なところで変な自信を持ってしまうのが私の悪い癖だ。今後も気をつけよう。
アンナに見守られ丁寧に指導を受けながら玉ねぎをみじん切りにしていく。
不器用ながらに何とか切り終え、みじん切りと呼ぶのを戸惑う不細工な形と大きさだがアンナからは「怪我なく最後までできたね」と褒められた。
褒められるのは嬉しい。
家と畑に居た計六人で食卓を囲み昼食を終え、片付けも手伝い掃除を再開。
廊下の掃除、そして後回しにしていたトイレと浴室の掃除を終えて、最後にバケツに溜まった汚い水を捨てに庭へ出ると広い場所に二つの人影を見つけた。
アンナとルシアンだ。
アンナが中空に生み出した炎の玉を見て嬉しそうにはしゃぐルシアンは、母の真似をして手を上に掲げている。
しかし、小さな火の玉しか出ない様でアンナから何やら色々アドバイスを貰っている様だった。
ルシアンは学校は嫌だが魔法には興味津々らしい。
そんな母と娘の交流を眺めていると、邸宅の門から「ただいまー!」と女性が聞こえて来た。
レイチェルが魔法研究所から帰って来たようだ。
「おかえりなさい」
挨拶を交わし、レイチェルはアンナとルシアンに気付きそちらにも元気な声で近寄って行く。
ルシアンは「お母さん!」と嬉しげにレイチェルへジェスチャーを混じえ何かを報告していた。
バケツの汚い水を捨て終えて戻ろうとした時、娘と話し終えたレイチェルがこちらへ歩いてきて声を掛けてきた。
「ハジメ〜、今朝の話だけど〜!」
「っ! まさか……!」
その話に覚えはめちゃくちゃある。
私の頭髪から私が持つ魔法について調べてもらうと話していた。
この時の私の顔はニヤついててちょっとキモかったかもしれない。
「ハジメの魔法についての結果が出たわよ!」
「ついに来た私の時代!」
「調子いいわね!」
テンションが上がりながら邸宅内のレイチェルの書斎へと案内される。
ウキウキとした足取りでついていき、様々な魔法の妄想を浮かべながら部屋の中へと入る。
本棚と多くの書物、大量の書類や何なのかよく分からないモノに囲まれた一室。
その真ん中のテーブルの上に、何枚かの紙を広げてその中の魔法陣が描かれた一枚を指差しレイチェルが口を開く。
「この魔法陣に出てる色の種類と数から属性が判別出来るのね。これがハジメの頭髪と手型から出た結果よ」
「はい」
魔法陣の上には大量の白と黒が一定の形で360°に配置されている。
そして彼女は古びた書物を取り出しパラパラと開いて後半のページで手を止めた。
「これ、希少魔法の中でも更に珍しい、文献もほんの少ししか残されてない魔法よ」
え、マジで。
という一言が脳内で溢れた。
心臓の音が更に高鳴り鳴り始める。
早く続きを聴きたくて仕方ない。はしゃぎ出したい気持ちを抑えて、続く言葉に耳を傾けて。
「『創造』――それがハジメの中に宿る力ね。頭の中で空想したモノをだいたい何でも生み出せる凄い魔法よ」
私はよく分からない声を上げた。