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二十二話 家族を守る剣


 古代の勇者が使用していたと言われている、黒と赤で彩られた最強の鎧『グレイトアーマー』


 それを着用した者は身体能力が上昇、速度も跳ね上がり、素人でも一発の拳で岩を破壊できる攻撃力、剣や魔法などあらゆる攻撃を受け付けない鉄壁の耐久力を手に入れる。


 例え中身がどんな人間でもだ。


「クラウスぅ! 死ねぇえ!!」


 眼前から凄まじい速度で放たれる鎧の拳の連撃。

 その一発一発が風圧で頬に傷ができ、木の幹を圧し折り、石造りの門壁に穴を開ける。


「英雄だなんだチヤホヤされて偉そうによおぉっ!!」


 右手から発生した接触したモノを抉り取る黒い円が迫る――それを左手の『消失魔法』にて打ち消しながら関節部分へ剣を叩き込む。

 脆そうな関節部分でさえも同じく異常な硬さ、傷一つつかない。


 この前には『消失魔法』を鎧へ使用してみたが効果は無かった。

 これは魔法の類には効果を発揮するが、魔道具の類には効かない。あの鎧は魔道具判定というわけだ。


「その上ハーレム気分で調子こきやがって死ねやあぁ!!」


 そして止まらない鎧の猛攻が異常な程に速く、逆恨みの呪詛を吐き散らしながら放たれた拳の一発を防ぎきれず、胸部へ叩き込まれてしまった。


「ぐぅっ!?」


 そのまま凄まじい威力に吹き飛ばれて地面を転がりながら受け身を取り即座に立ち上がる。ズキンと痛みが走った。

 動き、呼吸をすると胸部が痛む、おそらく肋が二、三本折れた。苦しい。


「一発で、これかよ……!」


 近接戦闘を行う者は、体内の魔力を全身へ流し身体能力や身体の耐久力を上昇させて戦う技術を使用する。


 直撃の寸前に体内の魔力を胸部への防御に集中させたが、素人同然な動作のパンチ一発でこのダメージだ。

 何発も受ければ身体中がズタボロになるだろう。


「ハハハハッ! オラどうしたよ英雄様ぁ!! 俺の弱点が分かったところでなぁ、勝てなきゃ意味ないんだよぉ!!」


 同じように突撃し、ひたすら肉弾戦を仕掛けてくるグレイトアーマー――を着込んだスズキバラ。


 動きは単調、何の工夫もない、素人丸出しの肉弾戦。それなのに一発一発が驚異の破壊力。

 そして奴が使う希少魔法は土だろうが木の幹だろうが石壁だろうが関係なく抉り取る耐久力無視の一撃。


 時間制限があるという弱点は分かったが、それまでに自分が負けては意味がないというのは確かにその通りだ。


「負けるつもりは、無いがな!」


 向かい来る鉄拳を頬に掠り出血しながら避け、力を込めながら切っ先をつきつけ、鎧へと刺突をぶつけた。

 もちろん傷は全くつかない――が、


「うわあぁぁ!?」


 切っ先が衝突した剣圧により鎧は背後数メートルまで飛ばされていく。

 剣技『盾飛ばし』

 本来は敵の盾を弾き飛ばす為に使われる技だが、応用で他の硬いものも弾き飛ばす事ができる。


「小賢しい真似してんじゃねえぇっっ!!」


 やはりダメージは無い、傷は全く無く再び立ち上がる。

 だが弾き飛ばしが効くなら時間稼ぎにはなるだろう――と、思ったが。

 自分の剣の状態を見て気が付く。


「――ヤバいな、剣が欠けて来ている」


 やはりあの強度の鎧へ何度も打ち込めば刃こぼれを起こす。いずれにしろ長期戦は出来ないか。

 内心に焦りが生まれ始めたところで――


「クラウスぅ! 顔面を原型なくなるくらいボコしてやるぅ!!」


 そう怒りをひたすらぶちまけて後ろの気配に気が付かない男の背中から――父が現れた。

 腹部へ受けたダメージが大きいのが、動きから分かる……が、父シュタールは苦痛を顔には一切出さず、ただ冷静に剣技を振るう。


「断鉄斬」


 背後から鎧の脳天に叩きつけられた鋼の一撃。 

 突然の衝撃に「ぶおっ!?」というスズキバラの声が聞こえ、父の剣は折れ宙を飛び地面に突き刺さる。

 ――そして、鎧の頭部に、深くヒビが入ったのが見えた。


「生きてたのかよクソジジイがあぁっ!!」


 背後へ振り返ると同時に放たれた鉄拳が、ギリギリで防御に回した父の左腕へとぶつかり飛ばされる。


 あれが避けられない程に疲労とダメージが蓄積している父が心配だ――が、彼が作ってくれたこの好機を逃す訳にはいかない。

 一呼吸し、目を瞑り、頭から余計な思考を排除して、真っ直ぐ走り出す。

 敵の動きの気配のみに意識を向ける。

 空を裂く様な音と共に迫る拳撃を回避し、目を開き、構えた。


「断鉄斬」


 迫る鎧の鉄拳。

 振り上げ、ヒビの入った脳天へと叩き落される鋼の一撃。


 横腹に鉄拳がめり込み身体を潰される様な苦痛が襲いかかる、が――


 剣技をぶつけられた鎧の頭部が、更にヒビが広がり、そして、兜の部分が真っ二つに破壊されていた。


「なあぁぁぁっ!?」


 男の情けない声が響く中、腹部の激しい痛みを堪えながら受け身を取り立ち上がる。

 呼吸も苦しい……剣も先の一撃で亀裂が入った。もう一回か二回で駄目になるだろう。だが、


「顔が剥き出しになっちまったな、スズキバラ……」


「ぐ、ぬぅぅ……!」


 あの硬い兜部分以外の鎧はまだ健在だが、頭が剥き出しになればいくらでも戦いようが生まれる。

 重たい負傷だが、この様な状態で戦ったことは昔いくらでもある。まだ戦える。

 奴は能力と鎧の強さ以外はただの素人……これなら、勝てる。


「――油断するな、クラウス!」


 その時聞こえたのは、息を荒くし地に膝を付けながら呼びかける父の声だった。


「グレイトアーマーには強力な最後の切り札がある。昔戦った複製の鎧のモノでも、凄まじい威力だった。本物ならば比べものにならないだろう、速くトドメを刺せ!」


 父が本気で焦っている、ならば余計なことは考えずその言葉の通りに、速くトドメを刺そう。

 最後の切り札とやらを使われる前に。


「トドメだ、スズキバラ」


 地を蹴り、全速力で接近する。

 生け捕りにして情報を吐かせたいところだったが、父の焦りはただごとではない。最速で首を落とす。

 鎧の首から上を狙い剣を振るう事だけに集中し、出し得る限りの速度で瞬く間に距離を詰め、一閃。


 剣が振るわれた先――切り裂かれたのは、何もないただの空気だった。


「な!?」


 一瞬にしてスズキバラの姿が消えた。

 見てみると、男が立っていたはずの地の上に黒く光る円が発生しており、瞬く間に消えて――


「上だ!」


 父の声がして、真上へと目を向ける。

 遥か上空二百メートル以上上に――スズキバラの姿があった。

 いくら身体能力が上がる鎧といえど一瞬であの高度まで跳躍するのは無理だろう。

 薄々勘づいてはいたが、あの男の希少魔法の正体に確信を持った。


「転移か――!」


 そして上空のグレイトアーマーに変化が起きる。

 胸部中心の装甲が開き、その下から水晶球の様な赤い玉が露出しているのが分かった。それを見て、父が叫ぶ。


「膨大な魔力の塊の奔流――『バスターカノン』だ!!」


「バスターカノン……!?」


 魔力の奔流、そして名前の字面から何となくどの様な技なのか想像がついた。

 おそらく大規模、広範囲に渡る破壊兵器の類。

 

 しかもあの上空から真下にあるのは、家。

 撃たれれば、家ごと敷地内の全てを、屋敷内に避難しているウィルフレッド、ルシアン、母も、ヘクトールも、外で戦っているアンナとレイチェルも、全員巻き込まれる。

 それは絶対に、駄目だ。

 だが、あの距離では『裂空』も届かない。


「クーラーウースウゥゥーッ!!」


 男の叫び声と共に胸部中心の赤い球体が強い光を放った。魔力感知が苦手な俺が、この距離でもハッキリ分かるほどの膨大な魔力が膨れ上がるのを感じた。



「父さん、俺を上まで打ち上げてくれ!」


「――屋根までが限界だぞ」


「それでいい!」


 父は折れた剣を手に持ち、俺は半分しか残っていないその上に足を着ける。

 そして父は残る力を振り絞り頭上へと剣を振り上げた。

 投げ出された俺の身体は家の二階の高度まで到達し、落ちる前に屋根の端を手で掴み、そのまま上へとよじ登り、剣を構えた。


 そして、太陽と見違う様な光が上空から発生し、ソレが放たれる。


「全員、消えて無くなれやあぁぁーー!!」


 グレイトアーマーの胸部から放たれた極太の光『バスターカノン』

 想像していたよりも更に大きな魔力の奔流がレーザーとなり上空から降り注がれる。


 残る魔力を全て剣に注ぎ込み、足を踏み込む。

 持てる力を全て使い切って、消失魔法で迎え撃つ。それしか対抗手段は残されていない。


「はぁああぁっ!!」


 残る全ての魔力を注ぎ纏わせた剣を、天から落ちてくる光の柱へとぶつけ、衝突する。


「ぐ、ぅぅっ!?」


 勢いが落ちない、消しきれない。

 万全な状態ならば、出来たかもしれない……だが、ここまでの戦闘で何度も魔法を掻き消した。

 今の残った魔力量では、とてもこの一撃を消滅させる事は……


「いや、まだ、だぁっ!!」


 脳裏に浮かぶのは家族の姿だった。

 転生して、この世界に来て、この街に来てからずっと暮らして来たこの暖かい家に住む大事な家祖達。


 真面目で困っている人は誰でも助ける優しい子だけど、無理して頑張りすぎるところが心配なアメリア。


 長男としての自覚を持っている努力家だけど根っこは年相応で放っておけない、成長途上のミシェル。


 小さい頃から剣が好きで、他にも色々なものに興味を持ち、好奇心旺盛でいつも明るいウィルフレッド。


 甘えん坊で臆病で、好きなものにはとことんのめり込んで嫌いなものはとにかく避けたがるけど、心の中にはちゃんと勇気を持っているルシアン。


 この街に来てから積極的に声をかけてきて一番最初の友人となってくれて、ずっと危機の時には助けられてきたレイチェル。


 旅に出て外の国で出会い、最初は意見や考えが合わない事もあったけど、魔王軍を相手に長年隣に立ち共に戦ってくれたアンナ。


 そして、この異世界で出会った両親。


 『剣皇』を殺すためだけに生み出された俺を受け入れてくれた父、シュタール。


 そんな俺を拒みもせず、家族として受け入れてくれた母、カーリー。


 誰も、死なせる訳にはいかない。死なせたくない。

 例えこの身を犠牲にしてでも、俺が、全員を守ってみせる。

 まだ、諦めない。


「おおぉぉぉーーっ!!」


 もはやなりふり構わない。

 全てを出し切る、自分の身体なら何を犠牲にしてもいい、家族を守る為なら――


「消せえぇぇっ!!」


 魔力が枯渇していく、身体中から力を吸い取られていく感覚。鼻と口から血が噴き出し、右腕の肉が引きちぎれ骨が砕け散りそうな激痛に襲われた。

 それでも躊躇は一切ない。ただ目の前の破壊の光を消滅させる事だけを考えた。

 剣を握りしめた右手に更に力を込めて、大きく振るう。


 そして次の瞬間。


 反動で俺の身体は弾き飛ばされて屋根から庭へと投げ出されてしまった。

 ……だが。


 上空から降り注がれていた破壊の光は動きを止め、真っ二つに両断されていた。


「何いぃぃっ!?」


 上空から落下する男の声が虚しく響き渡る。


 そのまま破壊の光は無数の魔力の粒へと還元されていき、屋敷へと到達することなく……消滅した。


「良かっ……た……」


 屋根から投げ出された俺の身体は柔らかいものの上に落ちた。

 水球のクッション……アンナがここまで飛ばしてくれたのだ。

 庭の地面へと降り、膝をついた。

 全身に力が入らない。


「クラウス!」


「直ぐに止血するわ!」


 父とレイチェルが悲痛な表情で駆け寄ってくる……無事を伝えようと右手を動かそうとした――

 だが、動かなかった。

 前腕の感覚が無かった。

 自分の右腕を、見た。


「……」


 敵の最後の切り札は、消滅させる事が出来た……

 右腕と、引き換えに。


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