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放課後、異世界創作部

作者: 百々五十六

 ホームルームが終わり、多くの生徒は教室から出て行った。

 帰路につくものもいれば、部活に行く人、どこか寄り道をする人などもいることだろう。

 そんな放課後に、教室に残った2人がいた。

 隣のクラスにも、その隣のクラスにも、人はいない。教師も教室から出て行ったそんな静かな空間。

 この教室にいるのは、俺と幼なじみの楓の2人だけ。

 俺は、席を立ち、楓の席の前に来た。

 俺は、座っている楓に目線を合わせるようにかがんだ。

 すると、俺は、楓と目が合った。

 目が合い俺はにやっとする。

 これから起こる楽しいことを想像して。

 俺は、目を合わせたまま、口角を上げたまま話しかけた。


「なぁ、世界作らない?」


 俺はそれだけ言って、楓を見つめた。

 追加で何かを説明したり、追加で何か勧誘の言葉を言ったりはしない。

 相手の反応を待ち、ただただ見つめた。

 楓はきょとんとした。

 そのまま少しの間フリーズした。

 その間も、俺は、楓をまっすぐな目で見つめていた。

 フリーズから解放された楓は、2度3度と深呼吸をした後に、小首をかしげながら言った。


「どういうこと?」


 よし! 楓が食いついた。

 ここで、うまく説明すれば、一緒に世界作りができるかもしれないな。

 気合い入れて説明しないとな。

 俺は、楓の返事を待つ作戦がうまくいって、良い感じに楓が食いついてくれたのがうれしくてうれしくて、つい笑みがこぼれてしまった。

 ニコッとしてから、1拍空けた後、俺は、いつもの声色から1つ明るい声色で言った。


「最近、異世界物が流行ってるらしいじゃん」


 説明が終わっていない雰囲気を出しつつ、一旦ここで話を切った。

 楓はどう出るかな? 俺の話の続きを待つかな? それとも、何か言って合いの手のようなものを入れるのかな?

 どっちを選択するんだろう?

 俺は、楓の選択を待っていますというオーラを出しいながら、楓を見つめた。

 もしかして、沈黙を選択したのかな?

 楓の話を挟まずに、俺に説明の続きをさせるという選択をしたのかな?

 じゃあ、続きを話しますか。

 そう思って、話し出そうと口を開きかけたタイミングで、楓が言った。


「何個かアニメ化してるよね。漫画化とか書籍化とかも人気よね」


 俺は、ちょうど話し出そうとしていたことと、楓は沈黙を選択したと思っていたから、阿呆みたいに少し口を開けた状態で、楓の話を聞いた。

 かなりの間抜け面だった。

 かなり恥ずかしい。

 そんな間抜け面の俺を見た楓は、クスッと笑った。

 俺は、余計に恥ずかしくなった。

 顔が急に熱くなったように感じる。

 あのとき、判断が1瞬遅ければ、こんな間抜け面はせずに済んだのに。

 数秒前の自分の判断を悔いる。

 よし、雰囲気を変えよう。

 そう思って、今度は、この雰囲気を変えるように、壊すように、間をおかずに勢いに任せて説明の続きをした。


「そうそう。そういうのを見たんだけど、面白そうだから俺たちも、自分たちの異世界作ってみない?」


 言い終わった頃には、恥ずかしさも、顔の熱さも落ち着いてきていた。

 ふぅ、勢いに任せて説明をしたけど、それによって、俺の熱意がより伝わったんじゃないかな?

 思わぬ良いこともあるものだな。

 さて、楓の反応はどうだろう?

 俺は、改めて、楓を見た。

 楓は、軽く悩むような仕草をしている。

 表情は、少し乗り気になっているように見える。

 十数年、楓の幼なじみをやっているから分かる。

 あれは、結局やってくれるやつだ。

 表面上悩んでいる風を装っているけれど、面白そうだから少し間をおいた後にOKがでるやつだ。

 あの表情と、あの仕草には、見覚えがある。1度ではなく、何度もだ。

 これは成功したな。

 俺は、自分の中で確信を持った。

 俺は、失敗の不安などがすぅっと抜けていって肩が軽くなるのを感じた。

 この待ち時間も何ら苦痛ではない。だって、確信があるのだから。

 楓は、たっぷり間を取った。

 俺はその間、まぁまぁ了承するって分かってますけどねって感じの顔をするのを必死に押さえつけていた。

 表情筋がつるかと思った。

 そういう意味では苦痛だったのかもしれない。

 楓はたっぷり間を取った後に、ニコッと笑って言った。


「いいわよ。暇だし」


 よし、これで、一緒に世界がつくれる。

 確信はあったけど、改めて言葉にされると、すごく安心するし、すごくうれしくもある。

 分かっていたけどうれしい。

 この感情が俺の中を駆け巡った。

 俺は、飛び上がって喜びたいのを必死に抑え、満遍の笑みで言った。


「話が早くて助かる」


 よし、じゃあ、楓の気が変わらないうちに始めよう。

 俺は、楓の前の席の机を、楓の机に向かい合わせてつけるように回転させた。

 俺は、移動した机の椅子に座った。

 そして、改めて、楓と目を合わせる。

 俺は、一呼吸おいた後に元気よく言った。


「じゃあ、さっそくやっていこう」


 俺の声が他に人のいない教室、そして廊下で、少しだけ響いた。

 グランドからは、どこかの部活のかけ声が聞こえてくる。

 よそかから聞こえる声が、俺の声の反響を少しずつかき消していく。

 その俺の声が完全に消えた頃、首をかしげた楓が言った。


「何をするの? 何を決めるの?」


 そうだよな、今のところ楓が持っている情報は、これから世界を作ると言うことだけだ。

 それだけだと、何をするのかが分からないよな。

 そもそも、他に何か情報を持っていたとしても、世界の作り方なんか分かるものではないよな。

 俺もあまり分かっていないわけだし。

 俺は、じつは、わくわくが抑えられず、授業中にフライングして異世界の作り方を調べていた。

 それをもとに俺は、なんとなく言った。


「まずは、世界のジャンルからじゃない?」


 やっぱり、一番大きな枠組みからだよな。

 異世界なのか、ゲームの世界なのか、それとも、ただのファンタジー世界なのか。

 そこからだよな。

 それによってこの後決めることが大きく変わってくるし。

 やっぱり世界のジャンルからだよな。

 俺は、改めてそう思いながらうんうんと頷いた。

 楓は、ぽかんとしている。

 何が分かっていないのだろうか?

 何に驚いているのだろうか?

 何か他のものを想定していて、想定外のことを言われたからぽかんとしているのかな?

 それとも、”世界のジャンル”がよく分からずに、自分の中で処理できずにぽかんとしているのかな?

 俺が、どうしたの? という顔で楓を見ていると、急に楓は、普通の顔に戻った。

 よかった、正気を取り戻したみたいだ。

 楓は、まっすぐな目で俺を見ながら、聞き返した。


「世界のジャンル?」


 どうやら、言葉が足らなかったみたいだ。

 と言うか、分からないことを聞き返すぐらいに、楓は、この話に真剣に向き合ってくれるんだな。

 それはかなりありがたいことだな。

 こちらの説明に身が入るものだ。

 どうやって説明したら良いかな?

 具体例を出せば良いかな?

 やっぱりそれが一番わかりやすいのかな。

 じゃあ、そうやって説明してみるか。それでダメだったら、別の切り口で説明すれば良いか。

 俺は、今度は楓に向かって丁寧に説明した。


「最近だと、実際に行く異世界と、ゲームの中の世界があるぞ。他にもファンタジー世界もあるぞ」


 楓は、今度はうんうんと頷きながら聞いている。

 ぽかんとはしていない。

 よし、これはうまくいったんじゃないかな?

 今度は説明が成功したんじゃないかな?

 俺は、わくわくしながら、楓の反応を待った。

 楓は、ゆっくりと自分の中でかみ砕いた後に、へぇと言いたげな顔で言った。


「そんなのがあるのね」


 よしこれで、また1つはなしが進むな。

 世界のジャンルどれが良いかな?

 どれも良い世界だからなぁ。

 俺では判断できないな。

 だからといって、決めないと何も決まらないよな。

 一番基礎になる部分の設定だからな。

 とりあえず、楓に聞いてみるか。

 楓のやりたい世界があるかもしれないし。

 俺は、楓に聞いた。


「どの世界がいい?」


 俺じゃ決められないから、楓に決めてほしいな。

 と言うか、俺ではどれも魅力的に見えてしまって選べないから、楓に「一緒に世界を作らないか?」と協力を頼んだのだ。

 ここで、さっと決まれば、すぐに次の設定の話ができる。

 話がスムーズに進むのだ。

 楓はどの世界を選ぶかな?

 楓は、少し考える仕草をした後に言った。


「それぞれどういう世界なの?」


 確かに、具体的に説明してなかったな。

 楓は、そこまで異世界とかに対して造詣が深いわけではないから、説明が必要だったな。

 まぁ、俺も何作品か読んだだけで、そこまで造詣が深いわけでもないんだけどな。

 その何作品も、ほとんど、人気順に何作品かを読んだだけなんだよなぁ。

 それでも楓よりはさすがに、異世界について知っているし、授業中にフライングして調べた知識もあるし、頑張って説明するかぁ。

 よし、楓に判断してもらうためにも、楓に異世界についての造詣を深めてもらうためにも丁寧に説明しよう。

 そう決意してから、俺は、説明を始めた。


「まずは、異世界だな。異世界は、地球から異なる世界に行くというストーリーを持つ世界だ。最初の世界観とか世界の設定とかは、割と自由だ。神がいても、悪魔がいても、魔法があってもかまわない。ただ、基本的には、地球の文明よりも遅れている事が多い。そこは、3番目のファンタジー世界とあまり変わらない。特徴は、地球から来た人が、地球の方式や知識、自分の能力を通して、世界に大きく影響をもたらすというストーリーだな」


 俺は説明している間、楓は、うんうんと頷いたり、へぇそうなんだという顔をしたりと様々な反応をしていた。

 俺が説明を終えると、楓は、考える仕草をした。

 俺は、その間に説明の振り返りをする。

 そんな間違った説明はしていないと思う。

 主観とか俺の考えが入っているのは否定しない。

 ただ、間違ったことは言っていないんじゃないかと思う。

 それに、そんなに難しいことは言ってないんじゃないかと思う。

 楓は、何を考えているんだろうか?

 異世界を想像しているのだろうか?

 何をしているのだろう。

 少しして、考えるのを終えた楓が、手を前に突き出し、俺を止めるような仕草をしながら言った。


「ちょっと待って。颯は、どこまで作るつもりなの? 世界だけ? それとも、異世界に行く人とか、ストーリーとかまで作るの?」


 そうか、世界と聞いたから、世界だけを作るつもりでいたのか。

 世界を作るだけだと、世界のジャンルは必要なくなるな。

 それに、俺が考えていた多くの要素が必要なくなるな。

 そうなると、味気ないんじゃないかな?

 最近の流行である、異世界ものの軸は、特殊な主人公と、特殊な世界の2つの軸があるのだと思う。

 だから、世界を作るのなら当然それに合った主人公やストーリーも一緒に作っていくものなのかと思っていた。

 どうやら、楓が認識していた世界作りとは違っていたみたいだな。

 俺は、俺が作りたい世界について素直に楓に伝えた。


「もちろん、世界ができたら、そこにふさわしい主人公とストーリーまで欲しいだろ。主人公が暮らすための世界だからな。聞いた感じ、異世界はどうだ?」


 俺の話を聞いた楓は、前に突き出していた手を下げて、今度は顎に手を当て考える仕草をした。

 何を考えているのだろう?

 自分の想定していた世界作りと、俺の想定していた世界作りのすりあわせをしているのかな?

 もしそうだとしたら、こっちの世界作りを押しつけてしまって申し訳ないな。

 申し訳なくても、引く気はないけど。

 楓は、しっかり時間を取って考えた後に言った。

 俺は、楓が考えている間に、次に説明する世界について考えていた。


「そうなのね。分かったわ。そこまで作るのね。えっと、異世界ね。自由度が高くていいと思うわ。他の説明を聞いていないから、比較とかは、まだできないけど。あと、もう1つ聞いてもいい? 作った世界とストーリーは、何か小説とかにするの?」


 小説かぁ。

 考えていなかったな。

 うーん……

 面倒くさそうだな。

 ストーリーを考えるまでは、すらすら行けそうだけど、それを文字媒体で表現するのは、かなり大変そうだし,面倒くさそうだな。

 そういうのは、プロの人たちに任せれば良いな。

 俺は、自分の世界を人に知ってもらおうとは思わないから、小説とかにする必要はないかな。自分が満足して楓が満足すればそれでいいな。

 それに、作ったストーリーを小説にしていたら、かいているうちに高校生活が終わりそうだな。

 いろいろ、理由を考えたけど、やっぱり最初に思ったように、面倒くさいから小説にはしないな。

 俺がやりたいのは、世界を作って,主人公を作って、ストーリーを作って満足することだけだからな。

 小説にして、人に読んでもらったり自分で読んで満足したりすることではないな。

 俺は、自分の中での考えをまとめて、楓に伝えた。


「面倒くさいから、今のところする予定はないな。俺にそんな文才があるとは思えないしな。なんとなく想像して、それをまとめて、終わりだな」


 俺が話している間、楓は、意外だと言いたそうな顔をしながら頷いていた。

 楓は、俺が、作った世界を小説にすると思ったのかな?

 俺の説明を聞いた後、楓は、1拍おいてから言った。


「そうなのね。分かったわ。中断してごめんなさいね。説明を続けて」


 よし、じゃあ、説明を再開するか。

 楓が考えている時間とかに、どうやって説明するかをある程度考えてきたし、スムーズに説明できると良いな。

 俺はそう思いながら、説明をした。


「じゃあ、次は、ゲームの世界だな。ゲームの世界は、VR等で、超リアルに体感できるゲームを遊ぶというストーリーを持つ世界だ。世界観や世界の設定は、異世界とかファンタジー世界とかよりもかなり自由度が高いな。かなり無理のある設定以外は、基本的にゲームだからで片付けられるぞ。異世界みたいに少し地球から遅れた文明から、未来文明みたいなもの、人間のまだいなかった原始時代まで、どんな世界でも作れるぞ。ストーリーは、ゲームのストーリーに沿ってゲームを攻略していく、その間に新たな要素が追加される、それをまた攻略していくというストーリーが定番だな」


 俺が話している間、楓は、うんうんと頷いていたり、へぇそうなんだという顔をして感心していたり、少し考え込むこともあった。

 うまく説明できただろうか?

 長すぎなかっただろうか?

 俺は、少し不安に思いながら、楓が何かを言うのをただただ待った。

 俺は、楓に説明していく間に、自分も異世界やゲーム世界についての理解が深まっていくように感じた。

 1人で考え込まずに、楓を誘って良かったなと思った。

 俺の説明からたっぷり間を取ってから、楓は言った。


「ゲーム世界ね。さっきのよりも自由度が高いのね。実際に行っているわけではないのが特徴ね」


 感想と言うよりは、俺の言った内容をとても簡潔にまとめた感じだな。

 声色が明るいから、興味がないとか、これじゃないと思っているわけではなさそうだな。

 まぁ、じゃあ、最後の世界を説明しようかな。

 俺達は、どの世界を作ることになるのかな。

 少しわくわくしてきたな。

 そんなことを思いながら、俺は3つめの世界のジャンルを説明しだした。


「最後に、ファンタジー世界だな。その世界の人が、その世界の常識で、様々なことを成し遂げていくというストーリーを持つ世界だな。世界観とか世界の設定は、異世界とだいたい同じだから省くぞ。異世界との違いは、異世界は、地球の技術を取り入れて、異世界に適応した近代化していこうとすることが多い、ファンタジー世界は、新しい技術とかよりも、ファンタジー世界独自の技術で進化していく事が多いな」


 楓は、今度もうんうんと頷いたり、へぇそうなんだという顔で感心していたり、考え込むような仕草をして俺の話を聞いていた。

 説明を聞いている間の雰囲気は、どの世界も同じような感じだった。

 楓は、どの世界を選ぶのだろうか?

 というか、世界を選んでくれるのだろうか?

 俺と同じように、どれも良いから決められないという風にならないだろうか。

 楓の反応を見ていて、少し心配になってきた。

 楓は、俺の説明を聞き終わると、少し間をおいて、考える仕草をした後に言った。


「ファンタジー世界ね。異世界との違いは、地球の要素が入るのか入らないかの違いなのね」


 今回も、感想ではなく、特徴を短くまとめるだけだった。

 俺的には、それぞれの世界の感想を聞きたいものだ。

 そこのところはどう思っているのだろうか?

 そう思いながら、俺は頷きつつ言った。


「そういうことだ」


 俺は、相づちを打つだけで特に他には何も言わずに、楓にパスを回した。

 楓は何を言うのだろうか?

 俺は、興味津々だ。

 感想を言うのかな?

 何か俺に聞いてくるのかな?

 どの世界を作っていくのか判断してくれたら一番良いんだけどな。

 まぁ、それはなさそうだな。

 それはなんとなく分かる。

 楓は、俺の相づちから1拍開けて言った。


「1つ聞いていいかしら。3つの一番の違いは何なの?」


 そう来たか。

 違いかぁ。

 何がわかりやすいかなぁ。

 何だろうなぁ。

 深く考えたことはなかったなぁ。

 俺は、少しの間、手を顎に添えて考えた。

 違うことは分かっている。だけど、何が一番わかりやすい違いなのだろうか。それがまだ分かっていないのだ。

 まぁ、異世界系を読む人の中では、俺は、まだまだ初心者の域を出ていないから、仕方がないのかもしれない。

 だけど、今は人に説明する立場になっている。

 分からないなりに、何か結論を出すべきだ。

 俺は、必死に考えた。

 たっぷり間を取って考えた。

 そこで出てきた答えを、楓に伝えた。


「まずは、命の価値かな。異世界、ファンタジー世界とゲームの世界だと、命の重さが全然違うよ。異世界とかファンタジー世界だと、死ねば終わるものが多いし、命にきちんとした価値がつくことが多い。ゲームの世界だと、リスポーンなどがあるから、命の価値がめちゃくちゃ低く扱われる。まぁ、死んだときのデメリットなどによって、命の価値を調整できたりする。それだとしても、異世界とか、ファンタジー世界よりは命の価値が低いぞ」


 そう、俺が出した結論は命の価値だ。

 俺は、自分が読んできたいろんな作品を思い出しながら考えた。

 そこで気づいた。異世界は、人1人1人の命の価値がとても重く書かれがちだ。それに引き換え、ゲーム世界は、驚くほど軽い。簡単に死ぬことができる。

 俺はそれが一番の違いだと思う。

 そして、俺はこの結論にかなりの自信があった。

 自由度が高くて、どうとでもカスタムできる世界で、普遍的なものは命の価値ぐらいしかないのではないかな?

 俺は、楓の反応を見た。

 楓は、あぁ確かにと言いたげな顔で何度も頷いていた。

 楓も納得の答えができたみたいだ。

 さて、ここまでの説明を聞いて、楓は、どんな結論を出してくれるかな?

 俺は、次に楓が何を言うかを興味深げに待った。

 楓は、少しの間何度も頷きつつ、俺の言ったことをかみ砕いているようだった。

 そのときが終わり、楓が軽く言った。


「他に大きな違いはないの?」


 もう1つか。

 他には何が違うかな?

 各世界、いろんな形がありすぎて、世界のジャンルごとに大きく括るのはかなり難しいな。

 俺は、もう一度顎に手を当てて考え出した。

 今度は、先ほどよりも短い時間で、結論が出た。

 俺は、その結論を楓に伝えた。


「後は、目的が違うな。異世界とかファンタジー世界は、基本的に生きること、良い暮らしをすることを目的にすることが多い。ゲームの世界だと、楽しむこと、他の人と競うことを目的にすることが多い。他にもいろいろ違いはあるけど、大きいものはこの2つかな」


 なんとか絞り出した。

 目的。

 これも大きな違いだな。

 命の価値、目的、この2つしか、俺は大きな違いを見つけることができなかった。

 もっとそれぞれの世界に対する理解を深めていけば、さらなる違いが見えてくるようになるのかな。

 他の違いが見えてくるためには、どれほどの作品を見なければいけないのだろうか。

 先が長い話だな。

 地道に頑張っていこう。

 楓は、先ほどと同じで、あぁ確かにと言いたげな顔をして何度も頷いている。

 今回も、楓を納得させられる答えができたみたいだな。

 何で俺はこんなに下手に出ているのだろう?

 説明をしているうちにいつの間にか下手に出ていたな。

 まぁ、世界を作るという話に乗ってもらっているという立場だから、下手に出るというのは、悪いことではないだろう。

 もう少し、楓が積極的になったら、俺が下手に出る必要もなくなるかもな。

 果たしてそんなときは来るのだろうか?

 まぁ、それもまた気長に待とうかな。

 世界なんて、そんなすぐにできるようなものではないんだし。

 作っていく途中で、世界を作る楽しさに気づくかもしれないし、異世界ものとか、VRものにはまるかもしれないし。

 そんなことを考えている間に、楓の考えるタイムが終わったようで、楓が話し出した。


「そうなのね。思ってたよりもけっこう違うのね」


 楓の声色はかなり楽しげだ。

 楓も、この世界作りに対してかなり興味が出てきたのかな?

 それとも、想像していなかったことを言われるのが楽しいのかな?

 まぁ、どんな理由であれ、楽しんでもらっているのなら良いのだ。

 世界作りは、楓に協力してもらうと言うよりは、一緒にやっていくものにしていきたい。

 だから、楽しんでもらえているのなら、理由は何であれ、ありがたいのだ。

 俺は、そう思いながら言った


「まぁ、そうだな。なんとなく、3つの世界については分かったか?」


 楓は、首を縦に振った。

 どうやら、世界について掴めてきたようだ。

 よかった。

 うまく説明できたみたいだ。

 ほっとした。

 楓は、首を振り終えると言った。


「なんとなくわね。ちなみに、颯は、どれがいいの?」


 そう来たか。

 まぁ、そう来るよな。

 発案者に選んでもらいたいよな。

 何も知らない自分よりも、そんだけ知識がある俺に選んでもらった方が良いという考えなのだろう。

 俺が、楓の立場でも同じ事をしていただろう。

 とても、自然なことだ。

 だけど、俺はこれを決められなかったから、楓に一緒に作ってもらうことにしたのだ。

 まぁ、他にも楽しそうなことを楓とやりたかったなどの理由もあるけれど、俺では世界を決められなかったことが大きな理由の1つではある。

 俺には結論が出せない。

 それを楓に正直に伝えた。


「俺的には、どれもいいんだよなぁ。決められないなぁ。楽しく明るくゲームを楽しむゲームの世界も、シビアに真剣に生き抜こうと頑張る異世界も、独自の進化、独自の価値観とか独自性を出しやすいファンタジー世界もどれもいいんだよな」


 この気持ち分かってもらえるかな。

 どれも、良くて、どれも作ってみたい。だから決められない。

 俺では決められないから、楓に決めてほしい。

 この思い伝わらないかな。

 俺は、真剣なまなざしで、楓を見た。

 楓は、俺の話を聞いた後に、少し考える仕草をした後に言った。


「私も、聞いた限りだけど、どれも面白そうだと思うわ。1つに絞るのは難しいわね」


 俺もそう思う。

 だけど、楓までその意見だと、誰も決められなくなってしまう。

 どうしよう。

 楓なら、1つに決めてくれるかと思っていたけど、楓も1つに絞れないならどうすればいいのだろう。

 ルーレットとかくじ引きとかで決めたら良いのかな?

 でもなぁ、確率的なもので決めるのは、どこか味気ない感じがするんだよなぁ。

 なるべく、俺達の判断で決めたいなぁ。

 俺達の判断で、決めるために、楓を誘ったところもあるんだし。

 どうすればいいのだろう?

 俺には、難しい問題だな。

 俺は、自然とすがるような視線を楓に向けた。

 何か良い案はないかと問いかけるような視線を楓に向けた。

 その視線を向けたまま、俺は言った。


「どうする? どれにする? どうやって決める?」


 楓は、何か解決策を持っているのかな?

 さっき楓が言う前に考え込んでいた間に、何か思いついたのかな?

 何か解決法を持っていたら良いな。

 そうじゃなければ、このままだとルーレットで決めることになりかねない。

 それはなるべく避けたい。

 さぁ、楓、何か解決法は持っていないか?

 俺はより強く楓に解決を求める視線を送った。

 楓は、俺の質問から少しの間をおいた後言った。


「それなら、全部やりましょう。ただ、順番を決めましょう」


 全部か。大きく出たな。

 3つ並行ではできないから、順番を決めるのか。

 それならなんとかなりそうだな。

 どれかを切り捨てていくのではなく、順番を決めるのならどうにかなりそうだな。

 まぁ、1つ当たりどれぐらいの時間がかかるか分からないけど、3つ作り終わっている頃には、高校を卒業しているかもしれないな。

 その可能性は十分にあり得る。

 でも、まぁ、2人でやっていくなら、高校の間とこだわることもないのかもなぁ。

 最初は大きく出たなと驚いたけれど、だんだんと冷静になって、意外とありだなと思うようになってきた。

 その冷静な頭で言った。


「そうだな。そうしよう。順番か。何からやろう?」


 何からやろうか。

 どういう観点で決めたら良いのかな?

 やりたさで選んだら、全部同じぐらいやりたいから、結局決められなくなってしまう。

 どんな観点で決めたら良いのかな?

 俺は、楓の提案を待った。

 俺では、全てやりたすぎて、どうすればいいのか思いつかなかったから。

 今度、楓は、あまり間を取ることなく言った。


「颯が最初に作るならどれが作りやすそうだと思うの? どれが、おすすめなの?」


 作りやすさか。

 その観点はなかったな。

 何でなかったんだろう?

 世界を作りたい熱が高くなりすぎて、前しか見えていなかったのかもな。

 多分、そうなんだろうな。

 冷静になれていると思っていたけど、いろんなところから熱意が漏れていて、冷静になれていなかったのかもな。

 視野が狭くなりすぎていたな。

 反省、反省。

 そして、切り替え切り替え。

 いつまでも反省していたら、次に進めないからな。

 作りやすさかぁ。

 どれがつくりやすいんだろう?

 正直、作ったことはないから、実際の作りやすさは全く分からないな。

 想像もできない。

 なら、他の事実から、考えるしかないな。

 うーん……何を参考にすれば良いんだろう。

 一番勢いがあるのは、異世界なんじゃないかな。

 勢いがあって、新しい作品がたくさん作られていると言うことはすなわち、それだけ世界を作るのが他の2つの世界に比べて簡単だと言うことなんじゃないだろうか?

 その可能性は十分にあると思う。

 じゃあ、一番作りやすそうなのは、異世界と言うことなのかな?

 考えた結果、結論は、俺なりに考える一番作りやすそうな世界は、異世界。

 俺は、考え抜いた末の結論を、楓に伝えた。


「実際に作ったことがあるわけではないから、簡単なのかは想像でしかないけど、それなら、今の流行、異世界から作っていくか」


 楓は、そうなのねと言いたげな顔をした。

 そして、一拍間を置いてから言った。


「異世界ね。そうしましょう。じゃあ、他の2つはその後に作りましょう」


 やっと決まった。

 良かった。楓と一緒にやろうとしなかったら、未だにどの世界を作ろうかという1歩目で止まっていただろう。

 俺達が作る世界にとっては記念すべき1歩目だ。

 小さな1歩だけれど、大事な1歩にはなったと思う。

 俺だけではいつまでも踏み出せなかった1歩だ。

 俺は、楓を誘って良かったと心から思った。

 俺は、達成感から、一気に集中が緩んだ。

 すると、さっきまで見えていなかった周りの景色が視界に入るようになってきた。

 視界に入ってきたのは、だんだんと暮れかかっている夕日。

 そして、遠くに見えるカラス。

 あぁ、かなりの時間俺達はここで話していたんだと実感した。

 もう帰る時間だな。

 俺は心からそう思った。

 集中も一度緩んでしまったし、記念すべき1歩目を踏み出すことができたことで満足したし、他の生徒達も部活動を終えて帰るような時間だし、俺達ももう帰るか。

 俺は、落ち着いた声で、達成感が声色ににじんでいるような声で言った。


「いい時間になったし、今日はこれぐらいにして帰るか」


 俺がそう声をかけたことで楓の集中も解けたのか、あたりが夕日に照らされていることに気づいて驚いていた。

 楓も、かなり集中して、この話をしてくれていたみたいだ。

 やっぱり楓は良い奴だな。

 この話にこんなに真剣に乗っかってくれたし。

 俺は改めてそう思った。

 楓は、落ち着きを取り戻すと、言った。


「そうね。帰りましょう」


 俺は、席から立って、動かしていた机を元に戻した。

 俺が机を戻したことを確認した楓が席から立った。

 帰るかぁ。

 そう思いながら言った。


「じゃあ、続きは明日の放課後な」


 楓は、明日の話に期待をしているような目をしながら言った。


「分かったわ。予定を空けとくわ」


 かなり楽しみにしているみたいだ。

 声色からそれがにじみ出ていた。

 今日の話が、楽しかったのかもな。

 そうもらっているのだとしたら光栄だな。

 俺は、歩き出しながら言った。


「じゃあ、帰るか」


 楓も歩き出しながら言った。


「そうね」


 俺達は2人で帰路についた。

 明日の放課後を楽しみにしながら。






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