低級冒険者、無限の富を手に入れる
ミハエルはしがない低級冒険者だ。日々低級クエストをこなし、何とか生計を立てている。
カネさえあれば、実力も身に付くのに。
装備も訓練もタダじゃない。世知辛いね。
ある日、薬草採取から街に帰る途中、ドブで若い女性が溺れているのを発見した。
「大丈夫ですか!今、引き上げますよ!」
ドブから引き上げて、風呂屋につれて行ってあげた。彼女が身なりを整えた後、お礼を言われた。この世の者とは思えない程、美人だ。
「ミハエルさん、ありがとうございました。私はこの世界を司る女神です。お礼をさせていただきます。欲しいものを何なりと言ってください。ただし、一つだけです。願いを叶えて差し上げます。」
ミハエルは迷わず言った。
「女神様!無限のカネが手に入るスキルを下さい!お願いします!カネで人生いくらでも良くなります。」
「分かりました。あなたには無限のカネが手に入ります。この先お金に困ることは一切ないでしょう。ただし、今から渡す注意点のメモを必ず読んでなくさないようにして下さい。」
ミハエルは興奮して平静を欠いていた。
「ああ!ありがとうございます!!!」
女神がミハエルの頭に触れるとまばゆい光が出た。次の瞬間、彼女の姿はなかった。
その日から、ミハエルは金をいくら使っても減らず、無限に増やせるスキルを使えるようになった。
「カネの力で何もかも成功してみせるさ。まずは、最強の冒険者になることだ。」
彼は、まず、最高級の武器防具を揃えた。高額な授業料を払い、剣術や魔法の学校で訓練した。一年もたった頃、実力の伸びに頭打ちを感じた。
「訓練など非効率極まりない。金で優秀な冒険者を雇って最強のパーティーを作ろう。俺は形だけの代表者をやればいい。」
ミハエルは大金を出して、周辺国で名のある冒険者5人を雇って最強のパーティーを作った。パーティーは難関ダンジョン、魔族の支配地域、襲撃してくるSランクモンスターなどをことごとく撃破する。
ミハエルは敏腕オーナーともてはやされたが、満足いかなかった。
「今度は冒険者ギルドを買うぞ!ギルドの実績を増やして優秀な冒険者達をこの国に集めるんだ。巨大ギルドに育てるぞ!」
ミハエルは冒険者ギルドを買収する。やはり、オーナーの立場でギルドに参入する。
細かいことは分からないから、ギルドマスターの仕事が捗るよう金だけは潤沢に用意した。
クエストの報酬を上げ、高額案件も多く扱った。ギルドの噂はたちまち広まり、優れた冒険者がこの国に集結した。
冒険者の中から特に実績を挙げた者達で、勇者パーティーを組み、魔王討伐も果たした。
「まだまだ、何かが足りない。今度は国を買取るぞ」
ミハエルは王族に大金を積み、この国を買収する。
彼は王になった。政治は分からないから、配下の者に任せた。莫大な富を活かして、国家の運営は上手くいき、諸外国との貿易で栄える。
しかし、周囲の状況が上手くいけばいくほど、虚無感が募り、彼の人生は空しくなった。
国の繁栄とは裏腹に彼の人生は辛くなる一方だ。ついに、生きる意味さえ感じなくなる。
「もう、やることも思い残すことも何もない。生きているのに、死んだも同然だ。」
彼はすでに初老になっていた。
若い頃を懐かしみ、冒険者時代に着ていたローブのポケットを探ると、一枚のメモが出てきた。何と、とっくに忘れていた女神様からの授かりものだった。
「ミハエル、念の為、当たり前のように気付くことを言います。あなたに与えたスキルはとても貴重なものです。いくらでもお金は出てきます。しかし、生きがいだけは手に入らないようになっています。増やしたお金は自分のためになることを、自分の力で成し遂げるために使いなさい。」
ミハエルは愕然とした。
何十年も前に読んでいれば。
女神様の言うことを素直に聞いていれば、人生違ったのに……