6話 男の決意をするヤコブ
その日の仕事が終わり、2人は自宅へと戻ってきた。もう夕食の時間が近いのでさっそく支度に取り掛かるヤコブ。
その間にダビデは干していた洗濯物を取り込んで畳む作業をする。いつものように互いに協力しあいながら日常生活をこなしていく。そんな生活を2人とも気に入っていたのだった。
しばらくすると食事の準備ができたので食卓を囲むことにする。今日のメニューはシチューだった。野菜たっぷりで栄養満点なので健康にも良さそうだと考えながらスプーンを口に運ぶ。
「おいしい!おかわり!」
元気よく皿を差し出してきたので苦笑しながら受け取るとよそってやった。嬉しそうに食べ進める彼女を見ているとこちらも幸せな気分になるというものだ。
(ああ、幸せだなぁ……)
2人で食べるご飯はとても美味しく感じられる。
「ご先祖さま、こちらの世界の料理もずいぶん覚えられましたね」
感心した口調でダビデはそう言った。確かに最初の頃は食材や調味料の名前すらわからず苦労していたのに今ではレシピを見ずに様々な料理を作れるようになったのだから成長したものである。
「お前のお陰だよ」
「え?」
一体どういう意味だろうと首を傾げる彼女に微笑みかけると言葉を続ける。
「お前のためだと思うと料理を覚えるのも楽しいんだ。……お前は、私に力を与えてくれる存在なんだよ」
思わずドキっとしてしまうような台詞に動揺しつつも平静を装って返事をする。
「……そ、そうですか?なんだか照れますね〜」
そんな様子を見つめながら微笑む彼だったが内心では少し心配していることがあった。
(この子は本当に純粋だからなぁ……いつか悪い男に騙されてしまいそうだな……気をつけないといかんなこれは……)
そんなことを思いつつ食事を続けるのであった。
***
その夜、ヤコブは自室で1人物想いに耽っていた。頭に思い浮かぶのはやはりダビデのことである。最近は特に彼女のことばかり考えてしまうようになっていたのだ。
(あの子は本当に可愛いな……それに素直だし、思いやりがあって優しい子だ……一緒にいるだけで心が安らぐというか癒されるんだよな……)
そこまで考えたところで、隣国の女諜報員マリカに言われた言葉を思い出す。
『ねえ、気持ちを伝えないの?伝えてみないとわからないことだってあるんじゃない?』
その言葉を聞いた時は何を言っているのかと思ったが今になってその意味を理解し始めていたのである。
(私はあの子が好きだ。抱きたいと思っている。あの子を抱くには……我々の信仰上では夫婦になるしかない。それに…)
そこで彼は一旦言葉を区切ると拳を握り締める。
(あの子を他の男に渡したくない。私はずっとあの子を守っていきたいと思っているんだ……!)
男として1人静かに決意を固めるヤコブであったがーーー
そんな彼の思いなど知らないまま、ダビデもまたある決意を胸に秘めていたのであった……。




