5話 お前にはそばにいて欲しい ★
「ご先祖さま、早く早く!置いていきますよー!?」
元気な声で呼びかけながら走り回る少女の姿があった。
あれから数日後、すっかり体調が良くなった様子のダビデである。今日は数日ぶりにクエストに行くことになったのでテンションが高いようだ。
その様子を微笑ましく思いながら見つめていると、その視線に気づいたらしくこちらを見てきたかと思うと満面の笑みを向けてくるではないか。
(可愛い奴だな全く……!)
その眩しさに目を細めつつ微笑み返すと、それだけで満足したのか再び駆け出していったのだった。
そんな様子を後ろから眺めていたのだが、あることに気がついたので慌てて後を追いかけた。そして追いついて肩を掴むとこちらを向かせるようにして注意する。
「こらこら、そんなにはしゃぐと下着が見えてしまうぞ」
そう嗜めるが本人は気にしてない様子だ。
「大丈夫ですよー誰も見てませんし」
と言ってケラケラ笑っている始末である。
(はぁ……この子には羞恥心というものがないのか……まあ、そんなところも可愛らしいんだがな)
呆れつつも愛おしさが込み上げてきて自然と笑みが溢れてしまうのだった。
(まったく……本当に手のかかる子だな……)
そう思いながらも口元は緩んでしまっていたのだが、当の本人は全く気がついていないようだった……。
***
今日は新種のモンスターを討伐するという依頼を受けた。なんでも特殊な攻撃をしてくるらしいので油断はできない状況だということだ。
だがそんな緊迫した空気の中でも二人はいつも通りであった。
まず最初に発見したのはダビデの方だった。
木々の間を走り抜けて行くと前方に巨大な影が見えてきたのだ。どうやらあれが今回のターゲットのようだ。
今日も2人のコンビネーションは冴えていた。まずダビデが俊敏な動きで撹乱しつつ敵を引きつける。その間にヤコブが死角から忍び寄り一気に仕留めるという作戦だ。
だが敵は想像以上に手強かったようで苦戦を強いられることになってしまったのだ。最初は互角の戦いをしていたのだが徐々に押され始めてしまい、とうとう追い詰められてしまったのである。
このままでは危ないと思ったその時、突然目の前に人影が現れたのだ。それは紛れもなくダビデの姿であった。彼女は両手を広げて立ち塞がるように仁王立ちしていたのである。
それを見たヤコブは思わず叫んだ。
「馬鹿野郎!何をしているんだ!?逃げろ!!」
だが次の瞬間ーーー
ダビデが特殊魔法『魅了』を発動したことで敵は惑わされ、動きが鈍くなった隙を突いて攻撃を加えたことでなんとか倒すことができたのである。
その後、怪我の治療を終えるとすぐに説教が始まった。内容は勿論先程の行動についてである。
「なぜあんな無茶をした!!一歩間違えれば死んでいたかもしれないんだぞ!?」
珍しく本気で怒っている様子だったので怖くなったのか涙目になりながら謝っていたが許してもらえなかったようだ。
「うぅっ……ごめんなさい……」
しょんぼりしてしまった彼女を慰めるようにして頭を撫でると優しく語りかける。
「無事で良かったよ……」
その言葉にホッとしたのか表情が和らいできたのを見て安心する。
「済まない、怒鳴ったりして。だがお前を失うことは私には耐えられない。お前には……ずっとそばにいて欲しいと思っているんだよ……」
それを聞いた途端、彼女の顔が真っ赤に染まっていくのがわかった。
だが同時に胸が締め付けられる思いになり複雑な心境になっていたことをヤコブは何も知ろうとはしなかっただろう……。




