3話 恋心を募らせるヤコブ
「ダビデ。お前は倒れてしまうほど思い詰めていたことがあるのか……?」
「いえ……そんなことはありませんけど」
俯き加減でそう答える彼女だったが、明らかに様子がおかしいことは明白だった。そんな彼女の様子を見てヤコブは優しい眼差しを向けて言う。
「お前は女だから、私にはわからない悩みもあるかもしれないな…。無理には聞かないがこれだけは覚えておいてほしい」
そこで一旦言葉を切ると、彼は続けて言った。
「私は何があってもお前の味方だからな。お前が困っていたら必ず助けるし力になってやるつもりだ」
それを聞いた瞬間、ダビデの中で何かが弾けたような気がした。それと同時に涙が溢れてくるのを感じたが、それを拭うことなく彼に抱きついた。そしてそのまま嗚咽を漏らし泣き始めたのだった。
そんな彼女を優しく抱きしめると頭を撫でてやった。そしてしばらくそのまま抱き合っていたが、ダビデを早く休ませてやりたいので名残り惜しいが体を離し家路を急ぐことにした。
だが、その代わりずっと手を握らせてもらうことにしたようだ。
家に帰るまでの間、2人とも無言だったが不思議と気まずさはなかった。むしろ心地よい空気感に包まれているような気分だったのだーー
家に着くとすぐに寝室に向かいベッドに寝かせることにした。そして彼女が眠りにつくまで手を握っていてあげることにしたのだが、しばらくすると規則正しい寝息が聞こえてきたため安心して手を離し部屋を後にした。
そしてリビングに戻るとソファに座り一息つくことにした。そして先程のことを思い出していたのだが、不意に笑みが溢れてしまった。
(ふふっ……まさかあいつがあんなに甘えん坊だとは知らなかったな。確かに素直で感情表現も豊かだが)
胸の中に甘い気持ちが広がっていく。そしてさっきまで繋いでいた手の感触を思い出し感傷的な気持ちになる。
(あの子は強くて元気だから忘れてしまいそうになるが…華奢な体と小さな手で危険な冒険に身を投じているのだな。そう思うと急に愛おしく思えてきたぞ……)
倒れてしまった彼女を見ると守ってやりたいという思いが一層強まった気がした。だからこそ自分がしっかり支えてやろうと思ったのだった。
(それにしても可愛かったな……あの寝顔……)
思い出すだけで顔がニヤけてしまうほどだ。それほどまでに彼女のことを想っているのだということが自覚できた瞬間でもあった。
(しかし、あの子も女の子なのだな……普段は男勝りなところがあるからつい忘れてしまっていたよ)
ヤコブは、ダビデの本当の悩みを知る由もなかった。彼女が今まさに人生の岐路に立たされ重い愛の十字架を背負っていることも、それに自分が関わっていることもーーー
何も知らずダビデへの恋心を募らせ、幸せな気持ちを味わうのだった。
だがこの時はまだ何も知らなかったのだ。後に訪れる悲劇のことも、自分達の関係が崩れ去ることになるということもーーーー




