12話 目前に迫った性転換魔法
サイラスの言葉にハッと息を呑むダビデだったがサイラスは畳み掛けるように言葉を続ける。
「今の貴女は恋する乙女のような表情をしていますからね……」
(私が……?そんな馬鹿なことがあるわけないじゃないか!!)
「そ、そんなことは……」
口籠る彼女に追い打ちをかけるようにサイラスはさらに言葉を続けた。
「貴女の心の奥にある本当の気持ちに気付いてあげてください。そうすればきっと道が開けるはずですからね……」
(私の本当の心は一体どっちなんだ!?私は本当に男に戻りたいのか!?それともーーー)
自問自答を繰り返すダビデに、サイラスは優しく微笑んでこう告げた。
「すみません、さすがにやり過ぎてしまったようですね。貴女の覚悟がどれほどのものか確かめたかったのです。私としては、貴女には女性のままでいてほしいと思っています」
「……なぜ、そう思うのですか……?」
訝しげな表情で尋ねる彼女に彼は答えた。
「貴女に気があるからですよ」
真剣な目で見つめられ思わずドキッとするダビデだったがすぐに我に返ると顔を背けた。するとサイラスは少し寂しそうな表情を浮かべながら言った。
「嫌われてしまいましたか?お詫びに、魔法マニアの賢者と会えるように取り計らいましょう。それなら許してくれますか?」
その言葉に反応した彼女は慌てて振り向いた。
「本当ですか!?」
「ええ、もちろんですとも」
その言葉を聞き安心した表情を浮かべるダビデであったがすぐに複雑な心境になってしまう。
(ご先祖さま………)
大切な人の顔を思い浮かべながら葛藤を続けるダビデ。そんな心中を察するかのようにサイラスは最後にこう告げた。
「ダビデさん。貴女には何か複雑な事情があるようですね。それが何なのか私の預かり知らぬところですが……これだけは言えます。自分の心に素直になってみることが大事だということですよ」
その言葉はダビデの心に深い問いかけを与えるものだった。
なぜか突然この世界に転生した挙句、女性になっていたという最初は悲劇的な状況から始まったダビデの新しい人生だが、今はその運命に感謝さえしていたのだった。
それも、唯一の同胞であり大切な仲間であるヤコブの存在があったからだった。
彼が自分の心を明るくし、幸せを与えてくれたからーー
だが、この世界に来てから「男に戻ること」を目標にしていたのも事実だ。女性の体に慣れてきているとはいえ、まだ心は男のままであるといえるだろう。
自分の性愛対象の変化、つまり心も女になりつつある兆候は薄々気付いているが、男だったことを簡単に捨てることはできなかったのである。
(なぜだ?ずっと男に戻りたかったはずなのに…!それなのになぜ素直に喜べない自分がいるんだ……!)
***
家の近くまで送り届けてくれたサイラスは、別れ際にダビデの手の甲を取り口付けをした。
そんな2人の様子を陰で見ている存在がいたのだーー
「あれはダビデちゃん?そしてあの男は……」
それは隣国の女諜報員マリカだった。




