11話 異世界の枕営業!?
サイラスの屋敷に到着するとまず客間に通された。そこで待っているように言うとサイラスはすぐにどこかへ行ってしまったので仕方なく待つことにしたのだが暫く経って戻ってきた彼の手にはお盆に載せられたフルーツやグラス、ボトルなどがあった。どうやら飲み物を用意してくれたらしい。
「これは女性でも飲みやすいワインですよ」
勧められるまま一口飲むとその甘酸っぱさに心が安らぐような気がした。その様子を満足そうに見ていたサイラスだったがやがておもむろに口を開いたのである。その内容というのが衝撃的なものだったーーー
「さてさっそく本題に入りましょう。私が貴女に提示する条件、それは……」
ごくりと唾を飲み込むダビデだったが次に発せられた言葉に耳を疑った。
「……私と一晩共に過ごして頂くことです」
そんな要求があるとは思わなかったので動揺するがすぐに気を取り直し反論しようとするものの上手く言葉が出てこない様子だ。そんな彼女の様子を面白そうに眺めつつさらに続けるサイラスであった。
「貴女の覚悟を見せてほしいのです。貴女はまだ男を知らないのでしょう?貴女の処女を捧げるほどの覚悟があるのか、見せていただきたいのですよ」
(なっ……!!何を言ってるんだこの男はっ……!そんなこと出来るわけがないだろう!!)
顔を真っ赤にして怒るダビデであったがサイラスは余裕の表情を崩すことはなかった。それどころかますます笑みを深める始末である。そしてこう続けたのだ。
「おやおや、そんなに怒らないでくださいよダビデさん。別に取って食おうというわけじゃないんですから。ただ一夜を過ごすだけですから簡単なことじゃないですか」
(冗談じゃないぞ!誰がお前なんかと寝るものか!!)
怒りのあまり言葉が出ないダビデ。信頼していた講師なのにこんな仕打ちを受けるなんて……ショックを隠しきれない様子だったがそれでもなんとか冷静さを取り戻して言った。
「それはできません。私の信仰では婚前交渉は行ってはならないので」
「おや、そうですか。もちろん貴女の意思を尊重します。嫌がる女性を襲うほど私も不自由はしてませんから。ですが…貴女の覚悟はその程度ということなんですね」
「………」
覚悟……自分は男に戻る覚悟ができているのだろうか?だが…ここで機会を失えば、せっかくの男に戻れるかもしれないチャンスを逃すことになるーー
ダビデの胸は揺れてしまう(物理的には揺れていない)
だが、信仰心が高く神に忠誠を誓っているダビデにとって婚前交渉などもっての他であり貞操を守ることが絶対的正義なのである。故にその意思を曲げることはできないのだった。
「お断りします」
「そうですか。ですが貴女は男になりたいのでしょう?ここで処女を捨てても男になれば関係ないでしょう」
その言葉にハッとした表情になるダビデだったがすぐさま反論する。
「ですが今の私は女です」
「ふふ…ダビデさん。貴女は女を捨てることを本心では迷っているのではないですか?だから躊躇してしまうのです。違いますか?」
「え・・・・?」
ダビデの脳裏にヤコブの顔が浮かぶ。
この世界において唯一の同胞であり、生前から憧れていた偉大な先祖である男。
そして…いつも自分を助けてくれて、幸せを与えてくれる大好きな人ーーー
男に戻ればもうそばにいることはできないだろう。引かれてしまうのは想像に難くない。
ずっと女のフリをして騙してきた自分を、許してくれるはずもないのだから・・・。
サイラスは、ダビデが蓋をして見ないようにしている本心を見透かすかのようにこう告げる。
「貴女は女でいたい気持ちもあるはずですよ。だってほら、その証拠に……」




