10話 2人きりの夜会
翌日、ダビデは指定された時間に待ち合わせ場所に来ていた。そこは高級ホテルの一室で、豪華な内装が施されており見るからに高そうな家具や美術品などが並べられていた。
部屋に入るとすでにそこにはサイラスの姿があった。彼は笑顔で出迎えてくれると席に案内してくれる。椅子に座ると早速本題に入った。
まずは互いの近況報告から始まり、その後は食事を楽しみながら談笑するという流れになった。
食事はとても豪華で美しく盛り付けられ高級感を感じさせる料理ばかりだ。
1品ずつ順番に運ばれ、慣れてないダビデは少し緊張してしまう。
(確かに美味だが量が少ないような…ご先祖さまが作った食事がやはり一番だな)
そう思いながら食べ進めていると不意に声をかけられた。
「ところで、最近はどうですか?何か変わったことはありませんでしたか?」
そう聞かれて一瞬ドキッとするが平静を装って答えることにする。
「特に変わりはないですよ」
「そうですか、なら良いのですが…ところでダビデさん。貴女はもしや、性転換に興味がおありなのですか?」
思わぬ言葉が出てきて心臓が飛び出しそうになるダビデ。まさかこの講師は、適性だけでなく元は男だということまで見抜いたのかーー!?そう警戒しているとサイラスは安心させるよう語りかけてきた。
「すみません。女性に対し不躾でしたね。変身魔法を説明する時に『性転換もできますか』と訊かれてたので少し気になっていたんです」
なんだ、そういうことかと安心したがこの機会なので聞いてみることにする。
「ええ。実は私、昔から男勝りで男になってみたい願望があって…変わってますよね」
咄嗟に誤魔化してそう言い訳するダビデにサイラスは可笑しそうな笑い声をあげると言った。
「ははは、貴女はユニークだ!ですが好奇心を持つのは良いことですよ。それでですね…性転換できる魔法というのも実はあるのです」
その言葉に心臓が早鐘を打とうとしていた。隣国のアセナ姫から聞いた性転換魔法のことなのかーーー続きを促すように頷いてみせる。
「確か、魔法を集めている魔法マニアが使えるんですよね?それも一流の冒険者でないと会ってもらえないとか…」
ダビデは自分が知っている情報を伝える。するとーー
「おや、よくご存知で。ええ、確かに魔法マニアが持っている特殊魔法ですが禁忌とされる魔法でしてね、普通は教えて貰えないんです」
そこまで言うと一度言葉を切り、一呼吸置いてから続けた。
「その魔法マニアとは私は縁故がありましてね。ダビデさんがもし望むなら私の伝手を使って紹介してあげましょうか……?」
願ってもない申し出に飛びつきたい気持ちが出るが同時に迷いも感じている自分に気付く。
(ついに男に戻れるかもしれないーー!!だが……そうなればご先祖さまとはもう、一緒にはいられない……)
その事実はダビデの胸に重い枷のようにのしかかっていたのだった。なぜなら自分は彼をーーー
だがこの千載一遇のチャンスを逃すわけにはいかないと判断し、意を決して頼むことにした。
「……お願いします……!」
頭を下げる彼女に微笑みかけるとサイラスは言った。
「ただし、魔法マニアに会わせることは容易ではありません。貴女の覚悟を見せてもらうためにも条件を出しましょう……この後私の屋敷に来てくださいませんか?」
予想外の提案だったが彼女は迷うことなく了承したのだった。
その意味も深く考えず・・・




