9話 もう我慢できない
「……ごめんなさい」
消え入りそうな声で謝罪の言葉を述べる彼女に対して気にするなと言ってやりたかったのだが言葉が出てこない。それどころか彼女の姿を見ていると動悸が激しくなり、顔が熱くなっていくのを感じた。
(どうしたんだ私は……意識してしまう……)
戸惑いつつも平静を装って優しい声音で言葉を紡ぐ。
「お前が私を守ろうと前に出てくれたことくらいわかってるよ」
そう言うと彼女は驚いたように顔を上げた後、安心したような表情を見せたのでホッと胸を撫で下ろす。とりあえず今はこれ以上考えないことにして気持ちを切り替えることにした。
それからしばらくして落ち着きを取り戻したダビデと共に街へと戻ることにしたのだった。
家に戻ると早速着替えを済ませる彼女を見つめながら先程の出来事を思い出す。
(それにしても危なかったな……もしあの時敵の攻撃を受けていたら致命傷を負っていたかもしれない……そうなればこの子を守るどころか逆に守られてしまうところだったな……)
そんなことを考えていた時、ふと疑問が浮かんだので聞いてみることにした。
「なあ、どうして私を守ってくれたんだ?」
するとダビデは少し恥ずかしそうにしながらも答えてくれた。
「だってご先祖さまは私にとって大切な人ですから……失いたくないです……」
その言葉を聞き胸が熱くなるような感覚を覚えると同時に愛おしさがこみ上げてくる。
(ああもうダメだ我慢できない……!)
そう思った時には既に体が動いていた。気がつくと彼女を抱き締めていたのだ。突然のことで驚いた様子のダビデだったが抵抗することなく腕の中に収まってくれていた。そのことが嬉しくてますます強く抱きしめると彼女もおずおずと背中に手を回してくれた。
その柔らかい大きな胸が押し付けられている感触を感じながら首筋に顔を埋めるようにして匂いを嗅ぐと甘い香りが鼻腔を満たしていき幸せな気分に浸ることができた。このままずっとこうしていたいと思ったが流石にこのままではいけないと思い名残惜しかったが一旦離れることにする。
「すまない、つい……」
我に返った途端恥ずかしくなり慌てて謝ると彼女もまた顔を赤くしながら首を横に振った。そして小さな声でこう言ってくれたのだ。
「いえ……嬉しかったです……」
それを聞いて嬉しくなったが同時に、自分の想いがもう抑えられないことを自覚することになるのだった。
一方ダビデの方もーー本当は男だというのに心まで女になりつつあるのか、それとも相手がヤコブだからなのか、彼を意識するようになっていたので心臓がドキドキしていたし下腹部の奥の方がキュンとなるような不思議な感覚に襲われていたのである。
しかしそれを悟られないように必死に抑え込んでいたのだが結局顔に出てしまっていたようだ。その様子を見たヤコブは慌てて話題を変えるために今日のクエストの話を始めることにした。
(ご先祖さま…ヤコブさま……私にとって貴方は神に認められた偉大な先祖である伝説の人物。そして生前の時からずっと憧れていた御方…私は貴方の名前を詩で詠ったこともあるほどなのです)
ダビデは心の中でそんなことを思いながらも表面上は普段通り振る舞っていた。
その夜、ダビデの元に特殊魔法を授けた講師サイラスから連絡が入っていた。
それは2人が会う約束についてだったーーー




