7話 抱きたいあの子
「お待たせしてしまいましたか?」
心配そうに見つめる彼女に鼓動が激しくなるのを感じる。それと同時に罪悪感に苛まれる。
この子のことを本心では抱きたいと考えていたところだったので後ろめたい気持ちになってしまうのだ。そんなことを考えているうちにも彼女が近づいてくるので慌てて距離を取ろうとするのだが、足が縺れて転んでしまいそうになる。それを支えてくれたおかげで事なきを得たのだが、その時に彼女の体に触れてしまったことで余計に意識してしまったようだ。
「大丈夫ですか!?怪我はありませんか!?」
心配してくれる彼女を直視できないまま何とか平静を装って答えることができた。
「大丈夫だ」
と答えるものの声が震えてしまっていたため不審に思われていないか不安になる。それでもこれ以上一緒にいたら自分が何をしでかすかわからないと思い、不自然にならないよう距離を取る。
(ダメだ、意識してしまう…冷静になれ)
自分に言い聞かせるように心の中で念じていると、ダビデはそんな彼の心中に何も気付いてないようで屈託のない笑顔を向けてくる。
「早く帰りましょう、今日の夕食は何にしましょうか!」
食事を作るのはヤコブなのだが待ちきれないらしいその様子を見て微笑ましく思ってしまうと同時に愛おしいという気持ちが溢れ出てくるようだった。
こうしていつも自分を真ん中に戻してくれる、そんな存在でもあるなと改めて思ったのだった。だからこそ大事にしたいという思いが強くなってくるのだった。
***
今日の夕食は手早く作れるものということで白身魚のムニエルとサラダ、ポタージュスープを作った。料理が完成しテーブルに並べ祈りを済ませるとダビデは喜んで食べ始めた。
美味しそうに食べる彼女を見ながら自分も食事を始めることにした。一口食べてみると我ながら良い出来栄えだと思うのだった。味付けも丁度良く満足感がある。
食事を楽しみながら今日の特殊魔法習得の話に自然と移っていく。
「ご先祖さまの変身魔法、すごかったです!それに攻撃の威力も凄まじくて驚きました」
興奮気味に話す彼女を見ているとこちらまで嬉しくなってしまう。やはりこの子は笑顔が似合うと思いながら相槌を打つことにする。
「そうか。まさか自分が魔物に変身できるようになるとは想定外だったがな」
「自我は保つことはできるんですか?」
「そうだな、姿が変わっても自我は変わらなかったな。だが体の使い方は人間とは違うから慣れるまでは大変そうだな」
変身魔法を使った時のことを思い出しながら説明する。ダビデは少し羨ましそうだった。
「いいな、ご先祖さまの習得した魔法は威力もすごいし派手でかっこ良くて。男ならああいう魔法に憧れますよね〜」
そう言われると悪い気はしないものだなと思いつつ返事をする。
「はは。まるで男みたいなことを言うんだなお前は。だがお前らしいといえばお前らしいか」
笑いながらそう言うと、ダビデは少しハッとしたような顔をしていたがヤコブは特に気付かなかった。
「お前の魅了魔法も便利そうじゃないか?しかしお前は確かに人を惹きつける力を持っているよな、あのサイラスという講師はさすが適性を見抜くだけあってよく見ていると思ったよ」
「そうでしょうか…」
ダビデは、サイラスから告白されたこと。そして彼と会う約束をしていることをヤコブになぜか言えずに黙り込んでしまった。
(なんでだろう……なんとなく言いづらい……)




