3話 お祭りデート 後編
逸れないように手を繋ぎながら、祭りの喧騒の中を歩いていく2人。様々な店があり目移りしてしまうほどだ。
「何だか喉が渇きましたね……」
確かに熱気のせいか喉の渇きを感じるのでまずは飲み物を調達することにしたのだが種類が多くどれを選んだものか迷ってしまうところだ。
1番最初に目に付いた店で果実水を買うことに決めた彼ら。
「はいよ、2ゴールドだよ」
代金を払って店主から受け取ると近くのベンチに座り飲むことにした。爽やかな酸味のある味で美味しいと感じる。
アルコールを売っている店もあるが大事を取ってやめておくことにしておいたのだった。
「ふふ、楽しいですね♪」
そう言って笑う彼女を見て、思わず抱きしめたくなるような衝動に駆られたが理性で抑え込むことに成功したようだ。
その後も色んな店を回り、時には食べ歩きなども楽しんだ。
焼き野菜に溶けたチーズをかけたものや、揚げたてのポテトチップスのようなものなど珍しい料理も多く、どれも美味しかったのでついつい食べ過ぎてしまったようだ。お腹をさすりながら歩いていると不意に声をかけられた。
「そこのお二人さん、ちょっと見ていかないかい?」
声のした方を見るとそこには玩具の弓矢で的当てをしている射的屋があった。
景品にはぬいぐるみやお菓子などの他に冒険者用のレアアイテムも置いてあり子供だけでなく大人も楽しめそうな雰囲気がある。
興味を示したのか彼女は目を輝かせながらそちらを見ていた。
「行ってみましょう!」
手を引かれる形で店内に入ると早速挑戦してみることになったようだ。
「狙った獲物は逃しませんよ」
珍しく負けず嫌いな様子を見せるダビデ。こういうところも男勝りだなとヤコブは思っていたが口には出さないでおいた。
ダビデは真剣な表情で弓を構える。
一気に彼女を纏う空気が変わりピリッとした緊張感が走ったのを感じた。
(すごい集中力だ……)
そう思って見守っているうちに矢が放たれていく。
シュ!バシィ!!
見事狙った的に命中させることができたようだった。
「やった!」
これには店の主人も大層驚いた様子で目を見開いているほどだった。
「おみごと!いやあ凄い腕前だねお嬢さん!はいこれ景品ね」
手渡された封筒の中にはレア魔法習得のための権利証が入っていた。一体どんな魔法なのか思わずワクワクしてしまうダビデ。
「有り難く受け取らせていただく」
店主に礼を言って立ち去ろうとする2人だがーー
「そうだ!良かったらこの花火、持っていきな!」
見ると打ち上げ式の小さな花火のようだ。2人分のそれを渡されて困惑する2人だが、店主に押し切られて受け取ってしまったのだった。
帰り道、人気のない広場で花火を打ち上げてみることにする。店主に教えてもらったように、導火線に火をつけると火薬の匂いが漂ってきた後にシューという音を立てて火花が飛び散っていくのが見えた。
やがてボンッと音を立てて弾け、夜空に色とりどりの光が舞い上がる様子はとても幻想的で美しいものだった。
「わあ…空に光の花が咲いたみたいだ!こんなの見たことない…」
元の世界で古代人だった2人は花火など見たことがなく、感動のあまり言葉を失ってしまったようである。
花火の光に照らされ、夜空を見上げるダビデの横顔はとても美しく見えた。
そんな彼女の姿に見惚れていると視線に気付いた彼女がこちらを向いてきたので慌てて目を逸らしたが顔が熱くなるのを感じていたのだった。
そんな様子を不思議そうな表情で見ていた彼女に、何でもないと言って誤魔化しておくことにしたのだった。




