2話 お祭りデート 前編 ★
(まずいぞ……これは非常にマズイ状況だ……)
2名分の料金を払うために財布を出す手が震えるほど緊張していたヤコブだったが、なんとか支払いを済ませて部屋へ案内される間も動悸が激しくなっていた。
(平常心を保つんだ……こんなことで動揺していたらこの先どうするんだ……)
そんな葛藤を抱えながら部屋へ入るとそこは広々とした部屋になっていた。窓から見える景色はとても美しく絶景である。
だがベッドはダブルベッドになっていて1つしかないのが問題だった。
(落ち着け…以前も同じ寝台で寝たことがあったんだ。あのときは何も起きなかったんだから今回もきっと大丈夫なはずだ)
そう自分に言い聞かせつつ荷物を整理する。
「わあ、見てください!楽しそうです」
部屋の窓の外を指してはしゃいでいるダビデ。
外では祭りの準備をしている人々がいて屋台や飾り付けなどをしていたのだが、その様子を見ているだけでも楽しい気分になるようだった。
「せっかくだから夜に行ってみるか」
そう提案すると彼女は嬉しそうに頷くのだった。そんな様子を見ると微笑ましく思うと同時に愛しさがこみ上げてくるのを感じる。
(私はこの子のことが好きなんだな……でもこの感情は親愛であって恋愛感情ではないはずなんだ……それなのにどうしてこんなにも胸が高鳴るのだろう?)
悶々としていると彼女が心配そうに顔を覗き込んできた。
「ご先祖さま?どうかなさいましたか?」
「い、いや何でもない!それより疲れただろう。今、茶を入れるからな」
誤魔化すようにダビデをソファに座らせ、備え付けのお茶セットを使ってお茶を淹れてやることにした。ポットに茶葉を入れてお湯を注ぎ、数分待って湯飲みに注ぐと良い香りが漂ってくる。
「はいどうぞ」
「ありがとうございます」
ふうふうと息を吹きかけて冷ます姿を見ていると微笑ましい気持ちになる。ダビデは猫舌なのか熱い飲み物を飲むときはいつもこうなのだ。
(かわいいなぁ……本当にこの子は見ていて飽きないな)
そんなことを考えながら見つめていると視線に気付いたのかこちらを見てきた。目が合うとにっこりと微笑んでくるのでドキッとする。
気持ちを誤魔化すように自分もお茶を一口含むのだった。
***
「わあ…賑わってますね!」
夜になり祭りが始まったので外へ出ることにした2人。会場は多くの観光客たちで賑わっており、そこかしこに出店が出ている。屋台の食べ物はもちろんのこと、輪投げなどの遊戯もあり楽しめるようになっているのだ。
また祭りらしく飾りもあちこちに施され鑑賞も楽しめるようになっている。
「何か食べたいものがあったら遠慮なく言うんだぞ」
そう言うと元気よく返事をして走り出そうとする彼女を慌てて引き止める。
「待て待て待て!そんなに急ぐんじゃない!」
相変わらず少年のように元気だ。この人混みでは迷子になりかねないと思ったヤコブは慌てて彼女の手を掴むとその手を引いて歩き出す。
すると彼女も握り返してくれたので嬉しくなった。
(なんだか父親になった気分だな……それにしても柔らかい手のひらだな……それに小さくて可愛らしい手をしてるじゃないか……!いかん何を考えているんだ!!しっかりしろーッ!!!)
心の中で叫びつつも表面上はあくまで平静を装って歩き続けることにする。
異世界に来て初めて祭りを体験する2人は、人々の熱気に包まれながら浮かれ気分で通りを歩くのだった。
夜祭りデートは後編へと続くーー




