1話 温泉町で一泊旅行する2人
雪山のクエストを終えた2人は、天気が良い内に急いで下山することにした。昨夜の吹雪が嘘のように晴れ渡り、快晴になっていたが山の天気は変わりやすいことを体験したからだ。
「ご先祖さま、私が運転するので休んでください」
下山後、マジックカーに乗って帰宅することになったのだが、ダビデがハンドルを握ることになったので、ヤコブは後部座席に座って休むことにした。
「いや、私も運転するよ。お前は疲れているだろうから休まなくてはダメだ」
「いえ、大丈夫です!ご先祖さまはお疲れでしょうからゆっくりしてください!」
そう言って頑なに譲らない彼女を見て苦笑しつつ、ここは甘えて休ませてもらうことにする。横になって目を瞑るとすぐに睡魔がやってきたのでそのまま眠ることにした。
***
数時間経過しただろうかーー
ヤコブは後部座席で目を覚ますと、運転席で運転をしているダビデの後ろ姿が目に入ってくる。
まだ家への到着には時間がかかりそうだ。
「ダビデ、ずっと運転をして疲れただろう」
「あ、ご先祖さま。お目覚めですか?私は大丈夫ですので気にしないでくださいね」
「なあ、お前さえ良ければ今日はどこか宿屋に泊まらないか?このまま帰るよりも休んだ方が良くないかな?」
「え……?」
突然の申し出に戸惑う様子を見せる彼女であったが、それでも彼は構わず言葉を続ける。
「お前の体のことを心配してるんだよ。一晩寝ても回復しないくらいに疲れていたんじゃないのか?」
「……」
図星だったのか彼女は黙り込んでしまった。やはり無理をしていたようだと思いため息をつくと、彼女は小さな声で答えた。
「わかりました……ではお言葉に甘えさせていただきます」
そうして急遽宿を探すことになり町へと車を走らせたのである。
近くに温泉で有名な町があったのでそこで一泊することにした2人。ちょうど疲れた体を癒すにも良い場所だと思ったのだ。
だがーー
「え、部屋は1つしか空いてないのですか?」
旅館の受付にてそう言われてしまったのである。ちょうど祭りの時期らしく他の宿屋も空きが少ないらしい。
おそらく自分達のことを夫婦か恋人同士と思っていたのだろうが、ヤコブは2人で同部屋に泊まることに動揺を隠せなかった。
「私は同じ部屋で構いません」
ダビデは気を遣ったのかそう言うので、1つの部屋を2名で使うことになる。
こうして2日連続で同じ空間で一晩過ごすことになった2人。そして今回は温泉宿だーー
またしてもラッキースケベ展開が待ち受けていることをヤコブは知らないのだった。




