8話 残された所有印(キスマーク)
翌朝ーー
「う……ん……?」
ヤコブはテントの中でゆっくりと目を覚ます。そしてハッと目を見開き勢いよく起き上がった。
「そうだ!昨日、吹雪にあってそれで……!」
昨夜の記憶を探ろうとすると、先に起きていたらしいダビデがテントの中に戻って来るのが視界に入る。
「ご先祖さま!気分はどうですか?」
「ああ、大丈夫だ……」
「良かったです……!昨日は本当に心配したんですよ!」
2人は互いに無事を確認し合い安堵すると同時に笑い合ったのだった。
ダビデが用意してくれた白湯を飲み、その後粉末スープを湯で溶いた簡易スープが入ったカップを手渡される。
「体が温まるはずですからどうぞ」
と言われありがたく頂くことにするのだった。
(目が覚めたら下着しか身につけていなかった…私は裸で寝たのか?)
おそらく吹雪で服が濡れたので体を冷やさないため服を脱いだと推測できるが、記憶にないことなので戸惑いを隠せなかった。
そしてーー
ヤコブは目の前にいるダビデの首筋にある痕を見つけて愕然とする。
(え…?まさかあの赤い痕は……!?)
彼女の首筋には所有印がくっきりと刻まれていたのだった。
明らかに自分の仕業であるそれを見て動揺を隠せないでいるヤコブに対し、彼女はハっとしたように顔を赤くして顔を逸らす。
「ダビデ…昨夜のことだが。私はここに戻ってきてから記憶が途切れているのだ。まさか、私はお前に何か酷いことをしてしまったのか!?」
不安げに問いかける彼に彼女は慌てて否定した。
「……いいえ何もありませんよっ!!ただ…ご先祖さまの体が冷えて危険な状態だったので肌を寄せて温めただけです」
「………え?」
彼女の説明を聞き頭がフリーズしてしまうヤコブ。
自分は裸の状態だった。そしてダビデの首筋には自分が付けたであろう所有印がある。
それはつまりーーー
「裸で抱き合ったということか!?」
動揺のあまり声に出してしまうヤコブだったが、その言葉に今度は彼女が顔を真っ赤にさせる番であった。沈黙が続いた後、彼女は俯きがちになりながらポツリと呟いた。
「……はい……」
恥ずかしそうに答える彼女にますます混乱するヤコブだったが、ふとあることを思い、違う意味で愕然とする。
(つまりこの子は裸で私の体を温めてくれたのか…。なぜ……なぜ私は覚えてないんだ!?せっかくこの子が裸で添い寝してくれたというのに、なぜその感触を思い出せないんだあああああっ!!!)
つまりあの胸が直に当たっていたりあの肌理の細かい肌と直接触れ合っていたのか…一体どれだけ気持ち良いんだろう。どれだけ天国のような時間を過ごせたのだろうと思うと悔しくてたまらなかったのだ。
真っ先に思うことがこんな邪なこととは男とは悲しい生き物だと思わずにはいられなかった。
しかし、そこまでして体が冷えないよう献身してくれたのだと気付き、一気に胸が熱くなり目頭まで熱くなってきたのだった。
「……ありがとう、ダビデ。お前が私を助けてくれなければ私は死んでいたかもしれない。感謝してもしきれないよ」
そう伝えると、顔を上げた彼女と目が合うとお互いに微笑みあうのだった。
だが、ダビデの胸中は複雑だったーー
ヤコブが無意識につけた独占印は、自分の首筋だけではなかったからだった。
そしてーーー
彼の背中にも自分がつけた独占印がついているのだ。
しかも本人には見えない背中側につけているものだから尚更タチが悪いと思った。この刻印の印は自分だけの秘密にしておくつもりだった。
(一体なぜなんだ…私は男なのに……。それに…また濡れてしまっていたなんて……)
思い出すだけで顔が熱くなるのがわかる。
(どうしてご先祖さまに抱きしめられているときあんなにドキドキしたんだ?これじゃまるで恋をしているみたいじゃないか!そんなことありえないだろう?だって私たちは男同士なんだから……!)
ダビデは自分の感情の変化に戸惑っていたのだったーー




