11話 求婚問題の行方
「あ……」
シャファク王子の突然の訪問に驚いてしまう二人だったが、すぐに気を取り直して挨拶をする。
「こんにちはシャファクさま」
王子はいつものような軽い気障な雰囲気ではなく、どこか神妙な顔つきをしていた。
その表情からは何か思い詰めたものがあるように感じられた。
「……やあ二人とも久しぶりだね」
そう言っていつもの優雅な笑みを見せるもどことなくぎこちない感じがする。
やはりアリエッタの手紙の効果はあったようだと思った。
「シャファクさま。今日はどのようなご用件でしょうか?」
「ダビデさん。貴女に大事な話がある。僕は貴女と結婚できるなら、一夫一妻でも構わないと言った。だがーーー僕の許嫁と向き合ってみようと決意したんだ!」
その言葉に二人は驚くも嬉しさが込み上げてくるのを感じた。アリエッタの想いは彼の心を動かしたのだ。
「だが、僕が君を好きなのは今も同じだ。僕は君と結婚したい。その気持ちに嘘はない。だがーーー僕は王位継承者第一位であり、その立場は重い。平民のように愛だけに生きられない立場だと、この数日で理解したんだ」
(なるほど…そういうことか)
ダビデとヤコブはその言葉で察した。
王子はダビデに恋をして冷静でないとマリカは分析していた。
だが許嫁であるアリエッタの思いが伝わったことで、彼は冷静になることができたのだろう。
彼女は彼に変化をもたらしたのだ。
「だけど…君を簡単に諦められそうにない。でも君は、ヤコブ殿がやはり良いようだね」
シャファクは自嘲気味に笑いながらそう言う。
確かに二人の仲睦まじさは側から見ていてもわかるほどだ。本人達に自覚がないとしてもーーだ。
だから自分が入り込む余地などないのだということも理解してしまったのだろう。
「しかし!ここで引き下がるつもりはない。僕のダビデさんへの想いは本気だからね…。今は一旦身を引こう。だけど君に相応しい男になれるよう努力しようと思う。君が僕を選んでくれるように頑張るよ。だから、どうか待っていて欲しい」
イケメンオーラ全開で宣言する王子。
普通の女性であればそれだけで落ちてしまいそうなほどだが…
ダビデは元男なのでそこまでの威力はなかったりする。
颯爽と去っていく王子を見守った後、2人はそっと顔を見合わせる。
(一見落着とはいかないが…まあ、一旦解決したようだな)
ここからアリエッタ令嬢が王子と心を通い合わせていけば、丸く収まることも十分可能である。
一旦王子は身を引くと宣言したので、2人はやっと家に帰ることができそうだ。
「良かった…この国との縁故もなくさずに済みそうですね」
「ああ。だがまだ油断はできんがな。しかし王子が暴走することはおそらくもうないだろうし、あとは様子を見守るだけだな」
「はい。ご先祖さまのおかげです。また助けていただきました」
嬉しそうにはにかんで笑う彼女につられて微笑むヤコブであった。
「さあ、挨拶をしてから家に帰ろうか。ダビデ」
「はい。ご先祖さま」
2人は手を繋ぎながら帰路につくのだった。




