10話 情と恋 ★
許嫁であるアリエッタ令嬢から届いていた手紙。
シャファク王子は突然の手紙に戸惑いながらも目を通す。
(何だ?わざわざ手紙を寄越すなんてーー僕と婚約解消したい申し出か?)
アリエッタは許嫁であったが、いつも気取っていて彼女が何を考えているか王子にはよくわからなかった。
内面を見せようとしない彼女とは心の交流をすることがなかったからだ。
贈り物はしてくれるがご機嫌伺いだろうと受け取っていたのだ。
そんな相手から手紙をもらったので事務的な内容だと思ったのだがーーー
《シャファクさまへ お元気ですか?わたしは相変わらずですわ》
そんな風に始まる文章を読んでいくがそこに書かれていたのは・・・
《私は本当は貴方ともっと仲良くしたいです。私はこれまで、良い所だけ見せたくて素直になれませんでした。ですが貴方と仲良くなりたいのが私の本音なのです》
そんな思いがけない言葉に動揺するシャファク王子だった。
まさか自分の婚約者からこんな言葉をもらうとは思っておらず困惑してしまう彼だったがーーーー
(なんだこれは……?本当にあのお高い令嬢か!?僕のことをそんな風に思っていたのか??)
そんな予想外の展開についていけずに混乱してしまう。
その手紙はシンプルに短めに、彼女の素直な思いが綴られていた。
普段なかなか口に出して言えないことを手紙にして伝えたのだろうと容易に想像できる。
これまで知らなかった彼女の素直な気持ち、そして本当は不器用な内面ーーそれはシャファクの心を温かくさせていく。
そして彼の心を動かすのに十分だった。彼女に対して情のようなものが湧いてくるのが自分でもわかる。
(アリエッタ……君はずっとそんな風に思ってくれていたのか。だが…僕はダビデさんのことを…)
シャファクの胸は揺れるのだった。
***
それから数日後のことーーー
(あれからシャファク王子は姿を現さない。心情の変化があったのかもしれん)
アリエッタが手紙を届けてから、王子はダビデに会いに来ることはなかった。
(アリエッタさまの想いが届いたのだろうな…)
ヤコブはそう心の中で呟いて安堵する。
彼はアリエッタにこうアドバイスを送っていた。
「アリエッタさま。愛の告白をして返事を求めるのではなく、本当はもっと『仲良くしたい』と。でもこれまで素直にそう言えなかったと、そう伝えてはどうですか」
それが彼女の本心であり望んでいることだとヤコブは見抜いていた。
好きな相手に振り抜いてほしい。それも望みだが、王子と本当はもっと仲良くなりたい。そして心を通わせたい。
それが今の彼女の本当の願いなのだーーー
(あとはシャファクさまがどう出るかだな……)
これで彼がアリエッタに惹かれれば全てが丸く収まるだろう。
だが逆にダビデへの気持ちが強まってしまう可能性もあるため油断はできない。
もしそうなった時はまた策を講じなければならないだろう。
果たしてどうなるのか。
そんなことを思っているとーーー
「ダビデさん」
聞き覚えのある男の声がする。
ダビデとヤコブの前に現れたのはーーー
シャファク王子だった!彼の目的はーーー!?




