8話 作戦会議 ★
シャファク王子の許嫁であり彼に恋をしているアリエッタ令嬢を味方にすることに成功したヤコブとマリカ。
ダビデを交えて3人で食事をしながら作戦会議をすることになったのだがーー
「おい、ダビデ。食器具の小刀がまだ上手く使えないのか?私が切りわけてやろう」
この異世界の食事用の道具であるナイフとフォーク。
やろうと思えば使えるようになったはずなのに、手先が不器用なところがある彼女は未だに使いこなせていないらしい。
そんなダビデを見て苦笑するしかないヤコブだった。
ナイフで一口サイズに切り分けてやり、世話を焼いてあげる彼の姿を見てマリカはクスクスと笑う。
「貴方ってほんとこの子のこと可愛がってるのね。そんなに可愛い?」
「ああ。可愛くて仕方がない」
「なっ……!」
2人の会話の内容に赤面するダビデだったが否定はしなかった。事実だからだ。
「ふふ、ご馳走さま。それじゃあ本題に入りましょうか」
シャファク王子はダビデに初めて本気で恋をし、それで周りが見えなくなっているのだろうとマリカは冷静に分析していた。
(あの女に不自由なさそうな王子がこんな短期間でダビデに惚れ込んだのか…。この子は凄まじい魅力があるのだな…)
確かに美しい娘で男受けの良い体付きな上、性格も良いのでモテないわけがないとは思うが、この子は天性の魅きつける引力があるようだ。
それだけ魅力的な存在なのだろうなと思った。自分も彼女に惹かれ始めていることに気付かぬふりをしながら口を開くことにした。
「私達は、王子のプライドを傷つけず求婚を断れればいいだけだ。恋に浮かれているのであれば、冷静にさせる必要があるだろう」
「ええ、そうね。確かに一目惚れというのも存在するけどシャファクさまはダビデちゃんを神聖視して惚れ込んでいるように見えるわ。ダビデちゃんと幸せになれるかは別の問題よねぇ」
「ああ、奴はダビデの本当の良さをわかってなどいないさ」
そんな風に言われ当の本人であるダビデは恥ずかしすぎて俯いてしまっている状態だ。耳まで真っ赤になっているのがわかるほどだった。
その様子を見たヤコブは微笑ましい気持ちになると同時に、やはり彼女を手放したくないという気持ちが強くなっていくのを感じたのである。
「アリエッタ令嬢の、王子への一途な想いが伝われば王子も目を覚ますのではないか。男というのは女から好かれて悪い気はしないものだし、彼女の気持ちがわかれば冷静になるやもしれんぞ」
同じ男であるヤコブがそう提案する。すると2人も納得したように頷いたのだった。
「なるほど一理あるわね。じゃあどうやって伝えるかだけど……」
そう言って考え込むような仕草をするマリカであったが、すぐに思いついたらしく提案を始めるのだった。
「そうだわ!良い方法があるわよ!」
***
ダビデは、マリカと2人きりになったタイミングでヤコブがいると聞けなかったことをそっと尋ねてみた。
「あの……マリカ殿。貴女に聞きたいことがあるんですが」
聞きづらい内容であればマリカであれば話しやすいと思ったからだ。
それは下着がなぜか濡れてしまう時がある現象のことだ。
元の世界で男だったダビデには、女性の愛液が行為もせずに出るという現象がよくわからなかったのだ。
この世界の女性は皆そうなるのかと疑問だったのだが、女性同士でないと聞くこともできないため困っていたのだった。
「ああ、なるほどね。んー、そうね。女って男以上に気持ちで感じる生き物なの。男は下半身は別だったりするけど女は好きな人にはただそれだけで濡れちゃうのよ~」
そんな説明をされてますます困惑してしまうダビデであった。
なぜなら、これまで濡れてしまったのは全てヤコブが関係しているからだった。
つまりそれは自分が好きだから濡らしてしまっているということなのかと理解してしまい、恥ずかしさで頭がいっぱいになってしまう。
(バ、バカな…!私は男なのだぞ!我々の信仰では同性愛は禁止されている。ご先祖さまをそんな対象にするなど有り得ぬ…!)
ヤコブに性愛感情など出るはずがないと、頭の中で理由を並べて否定しようとするダビデだったが、どうにも胸の鼓動が激しくなってしまって落ち着かない。
きっとただの偶然だろうと深く考えることを放棄するのだった。
だがーーー
それは性愛反応なのだと嫌でも認めざるを得なくなることを、この時は知る由もなかったーーー




