5話 性転換魔法の進展
「ダビデさま。お久しぶりです。アセナです」
ダビデに声をかけたのは、ダビデとヤコブが以前助けたアセナ姫だった。
「アセナ姫!ご無沙汰しております。お城でお見かけしなかったので心配してました……お元気そうで何よりです」
「ダビデさまこそお元気そうで。私は婚約者がいる国へ滞在していたのです」
「そうだったのですか!」
この国の姫であるアセナは、他の国の王子と許嫁の関係にあるそうだ。
「ダビデさま…シャファクお兄様から求婚されているそうですね。ダビデさまが私の義姉になってくれたら私は嬉しいです」
「あ……」
ダビデは思わず返事に窮してしまう。
「ですがダビデさまは、ヤコブさまがお好きなのですよね?」
「!」
ヤコブの名前が出てきて思わず動揺してしまうダビデだった。そんな様子を見て確信を得たのか、アセナ姫は更に続ける。
「お兄様は、初めて本気の恋をして舞い上がっているのだと思います。ですが、私はダビデさまの味方です」
そう言って微笑みかけてくる彼女に悪意はないようだった。
ダビデは孤独だった心が少し救われたような気がした。
「ところでダビデさま。確か『性転換魔法』に興味をお持ちでしたよね?少しですがわかったことがございます」
「え!?」
男に戻れる唯一の方法かもしれない性転換魔法ーー
以前アセナにそれとなく相談してみたところ、今回その情報を手に入れたというのだ。
ダビデは目を輝かせながら話を聞いている。
「この国から北東に位置する辺境の村に魔法を集めている魔法マニアの賢者が住んでいるそうです。彼であれば何か知っているかもしれません。ただ…誰でも会ってもらえるわけではなく、それなりの実績を積んでいる者…例えばSランク冒険者などでないと会えないそうですよ」
「そうですか…」
冒険者としてランクを上げなければ相手にもしてもらえないようだ。
(今の私では無理だが必ずSランク冒険者になるんだ!そうすれば魔法マニアに会うことができる!)
「それにしても性転換魔法に興味を持つなんて意外ですわね」
「えっ…はは、そうでしょうか?まあ色々ありまして・・・」
何と言えばいいかわからず誤魔化してやり過ごすダビデだった。
***
今日も単独でクエストを夜遅くまでこなし、ダビデは城の自室へ帰宅する途中であった。
(性転換魔法を知っている賢者…今はまだ会えないが大きな進展だ!男に戻れるかもしれない…。だが……)
男に戻りたい気持ちはあるが、戻ればヤコブと一緒にはいられなくなるだろう。
そのことがダビデの心を苦しめていたーーー
(だが…ご先祖さまには…良い女性がいる。どちらにせよ私はお側を離れるしかないのだ………)
それを思うと鉛のように重くなる心を抱えつつも足を進めるーーー
その時だった。
「ダビデ」
不意に名前を呼ぶ声が聞こえる。
そこにはーーー
ヤコブが立ってこちらをまっすぐ見ていたのだった。




