4話 好き避け(?)するダビデ
マリカと別れたヤコブが城の自室に戻ると、手紙が届いていた。
《私は単独で仕事をします。》
ダビデからだ。伝達だけの簡潔に書かれた文章は男勝りな彼女らしいものだった。
(急にどうしたんだ?いつも2人で冒険者の活動をしていたのに……何かあったのか?)
唐突に単独行動を宣言した彼女に戸惑いつつも心配するしかなかったのである。
その日から、ダビデを見かけて話しかけても避けられるようになったのだ。
廊下ですれ違う時も目を合わせようとしないし、食事の時間になっても姿を見せなくなった。
クエストの仕事に没頭しているらしく帰りも遅く、シャファク王子のことが関係しているのかと心配になる。
(あの王子を避けているのか?早く解決してやらなくては…)
自分が避けられているとは気付いてないヤコブだった。ダビデの胸の内など知る由もないのだから当然なのだが……
ダビデとすれ違う一方、マリカと過ごす時間は増えつつありーー
だがヤコブはダビデに会いたいと思っていたが、そんな彼の思いなどダビデは知る由もなく2人はすれ違うのだった。
「おやおや。もしやすれ違ってしまったのでしょうか?どうなるのでしょうね……」
遠くから2人を見守るある存在はそう呟く。この存在は一体誰なのかーーー?
***
ヤコブとマリカの2人は、シャファク王子の許嫁であるアリエッタ令嬢を味方にするべく接触を試みていた。
マリカは彼女と面識があり、比較的接触は容易だったので、3人で食事をしながら本題を切り出すことにしたようだ。
さすが一国の一流諜報員だけあり、マリカは人心掌握術に長けておりあっという間に仲良くなってしまったようだった。
ダビデに強烈な嫉妬心を抱いているアリエッタは、関係者であるヤコブに対し最初は冷たすぎる態度をとっていたものの、次第に打ち解けていくのだった。
「シャファクさまは…私と婚約を解消するつもりかもしれないの……」
ついに胸の内を明かし始めるアリエッタ。
優しく共感しながら話を聞くうちに、彼女は本心を語り始めた。
「私、シャファクさまが幼い頃から好きだったんですわ」
彼女の初恋相手が彼だというのだ。幼い頃より憧れ続け婚約者となった今でもその気持ちは変わらないという。
それを聞き届けるなりマリカが問いかける。
「シャファク王子が婚約を破棄するというのは、ダビデちゃんが原因ということですか?」
核心に迫る質問を投げ掛けられ動揺しつつも答える姿は痛々しいものがあった。
「……ええそうよ!シャファクさまは彼女のことしか見えてないようで…私は捨てられてしまうのよ!」
悔しそうに涙を浮かべながら話す様子に同情を禁じ得ないようだったが、ヤコブはここぞとばかりに畳み掛ける。
「アリエッタさま。シャファク王子に相応しいのは貴女です。王子だけを愛し続けた貴女こそ報われるべきではありませんか?そして…ダビデは結婚を望んでおりません」
「……え?」
予想外の言葉に目を丸くする彼女を安心させるよう語りかける。
すると今まで溜め込んでいた感情が堰を切ったように溢れ出す。嗚咽を漏らしながらも必死に言葉を紡ぐ様は痛々しくもあったーーー
「……私は昔からずっとシャファクさまが好きでした。あの方のためなら何でもできると思ったのです。だから頑張って勉強もしましたし、魔法もたくさん習得したんですよ?それなのに最近は私のことなんて見てくれなくて……!」
(ああ可哀想な子だな)
「私は努力を怠ったことなど一度もありませんし、これからもそれは変わりせんわ」
「ご立派です。私達は貴女の恋を応援したいと思っています」
「本当に……?」
縋るような眼差しを向ける彼女に対して力強く頷く2人だったーーー
***
一方ダビデの方は1人で冒険者の仕事に没頭し、ヤコブを避けて過ごしていた。
(こんなんじゃダメだな……)
シャファクからの求婚、ヤコブのこと…向き合うことに疲れて仕事に逃げている自分が情けなかった。
(私は男だというのに…男というのは弱いものだな。私は……ご先祖さまに依存してはダメだ。ずっと…一緒にいられないのだから……)
そう思うと胸が締めつけられそうになる。本当はずっと一緒にいたいのに、きっとそれは叶わないのだから・・・。
「貴女は……ダビデさまではありませんか?」
突然背後から女性の声がする。
ダビデが振り返るとーーー




