2話 悪役令嬢と正ヒロイン、それぞれの葛藤
ヤコブとマリカが、悪役令嬢的存在であるアリエッタを味方にしようと画策していた頃。
そのアリエッタはダビデへの嫉妬心に苦しんでいた。
アリエッタはずっと、許婚であるシャファクに恋をしていた。
美男で背も高く、さらに聡明で女性に優しい理想の王子様だった。
そんな彼の許嫁であることが幸せだったが、彼は他の女性に目移りしてしまったのだ。
これまでも彼が他の女性と遊んでいるのは知っていた。だがどれも本気ではなく、まだプライドを保つことはできていた。
それなのに、ポッと出の平民の女が急に現れ、彼の寵愛を受け求婚までされたのだ。
これまでどの女にも求婚などしていないのにーー
それが許せなかった。自分以外の女に心を奪われていることが許せないのだ。
(私はずっと…ずっとシャファクさまだけを愛してきたのに……結婚するのは私のはずだったのに・・・!)
これまで、少しでも彼に気に入られようと努力したし贈り物もした。
それでも彼にとってはただの気まぐれでしかなかったのだろう。
最近はほとんど会ってもらえない日々が続いている。寂しい気持ちでいっぱいだったーーーそんな時だ、あの女が現れた。
服装は貧相だが、胸も大きく美しい顔立ちをした少女だった。まるで物語に出てくるヒロインのような風貌だ。そんな彼女を見て思ったのだ。
(ああ、この子の方が魅力的だから、もう私に飽きてしまったんだ……)
そう考えると納得できた。だってこんなにも愛らしいのだからーーー それからというもの、彼女に対する憎悪が増していった。
(あともう少し待てば…彼と結婚できて幸せになれると思ってたのに……ずっと待ってたのに……それなのにあの女が現れて、あっさり彼を奪っていった!!許さない……!)
心がドス黒い感情で満たされていく。そしてその奥にあるのは、満たされない思いと選ばれなかった悲しみだった。
アリエッタは1人涙を零していた。
誰にも見せることができずにーーー
一方その頃、ダビデは中庭にあるベンチに腰掛けていた。空を見上げると青空が広がっている。雲一つない快晴だ。
だがそんな澄み切った青空とは対照的に心が曇っていくのがわかる。原因は明白だ。
(ご先祖さまは昨日もマリカ殿と過ごして帰りも遅かった…もしかして2人は良い仲になったんだろうか……)
モヤモヤとした感情が湧き上がってくるもののそれを振り払うように頭を振ったその時、目の前に誰かがいることに気付いてハッとした。
「やあダビデさん。このところ忙しくて会いにいけず申し訳ない。貴女に会いたかった」
自分に求婚してきたシャファク王子がニコニコと微笑んでいるのを見て思わず身構えてしまう。
シャファクはダビデの横に腰掛け、本題を切り出してきた。
「この前の僕のプロポーズ…考えてくれたかな?そろそろ答えが欲しいんだけど」
その言葉にダビデは思わず身を固くする。ずっと避けて来たがどう交わせばいいのかーー
(ここで断って王子のプライドを傷つけてしまえばこの国との縁故が途絶えるかもしれぬ……せっかくご先祖さまが築き上げたものを私のせいで台無しにするわけにはいかん……!!)
「わ…私は平民ですしガサツです。シャファクさまの妻には相応しくないと思います……!」
あくまで自分が相応しくないと下に出つつ、はっきり断らない曖昧な返事でやり過ごすつもりだったのだがーーー
次の瞬間とんでもないことを言われたのだった。
「貴女は僕の妃に相応しい女性だ。この前そう確信したんだ。もし一夫多妻が嫌だというならーー貴女だけと結婚しようじゃないか!」
突然の爆弾発言に思わず言葉を失う。まさかこんなことを言われるとは予想していなかったからだ。
(まさかそこまで本気なのか!?)
だが衝撃を受けるのはまだ終わりではなかった。




