1話 悪役令嬢の登場? ★
翌日、ヤコブはマリカに会いに行くことにした。
昨日のラブホテルでの出来事もあり気まずさもあったが、それよりも早く杞憂を解消する方が優先度が高いと判断したためである。
待ち合わせの場所に着くとすでに彼女は待っていたようで手を振ってきた。相変わらず妖艶な雰囲気を漂わせている女性であると改めて思うのだった。
「アリエッタって令嬢?ああ、実は私も彼女のことを貴方に話すつもりだったの」
マリカ曰く、ダビデを敵対視してきたアリエッタという女性はシャファク王子の許嫁であり第一夫人となる可能性が高い令嬢だ。
だが決められた婚約であり、シャファクは他の女性と付き合ったり遊んだりと、彼女に目もくれないらしい。
そしてマリカの見立てでは彼女はシャファクに恋をしてしまっているのではないかということだった。
つまり嫉妬による嫌がらせなのだろうということだ。
「それはまた厄介な話だ……」
思わず本音が出てしまうほど辟易してしまう内容であった。
シャファク王子がダビデに夢中で求婚までしたからといって、ダビデを目の敵にするのは筋違いだろうと思うものの、目の前で取られてしまい嫉妬に狂う気持ちもわかる気もする。
だが、ヤコブはある考えを思いついていた。
(シャファク王子がそのアリエッタという令嬢に振り向けば良いのではないか……?)
そうすれば全てが丸く収まるはずだと思ったのだ。だが、そう簡単にいかないことはわかっていた。
他人の恋愛などコントロールできるものではないからだ。
ヤコブとダビデからすればシャファクのプライドを損ねずに求婚を断れればいいだけだ。
その許嫁である令嬢はヤコブには関係ない。だが彼女が王子を愛しているのは好都合ではないかと思いついたのである。
(上手くいけば彼女を味方に引き入れられるかもしれないな……)
「あら、お兄さん。悪い顔してるわよ〜♪」
マリカが揶揄うように話しかけてくる。
「貴方が考えてること何となくわかるわ。アリエッタさまがシャファク王子を好きなら、ダビデちゃんと王子に上手くいってほしくないはず。つまりこちら側につけることができるんじゃないかって思ってるんでしょ?」
まさにその通りだったので素直に認めることにする。
「悪くないんじゃない。それに…貴方の悪いこと考えてる顔、ゾクゾクしちゃう♡」
そう言って舌なめずりをする姿にドキッとすると同時に不安になる。
(この悪女め……)
意外とマリカと自分は似たところがあるのかもしれない。そう思うと複雑な気持ちになるが今はそれどころではないと思い直すことにしたのだった。
(あれは、ご先祖さまとマリカ殿…?)
ヤコブとマリカが笑って話しているのを偶然目撃してしまったダビデは、胸がチクリと痛むのを感じたのだった。




