1話 貴女の彼、お借りします♡売られたヤコブ
ダビデは城から脱走し助けるために、諜報員の女マリカにヤコブを1日貸す約束をし、協力を得ていた。
ヤコブを助けるためではあるが、自分を契約に使われて貸し出されるのは複雑な心境だった。
(これは…以前にあったことに似ている……前の世界で、妻達が私を取り引きに使ったことに・・・)
生前、ヤコブは親戚の姉妹であるレアとラケルを娶る羽目になった。
現代でいう「姉妹丼」状態だ。
ヤコブはラケルを愛していたが、騙される形でレアも娶らされてしまったのだ。
この姉妹は歪み合うことになりヤコブは板挟みだった。女の争いに巻き込まれるのは男の宿命とも言えるかもしれない。
ある日のこと、ラケルは恋なすをもらう取り引きとして、レアにヤコブと夜を過ごすことを条件に夫ヤコブを売った。
ヤコブはラケルと過ごしたいのにーー
その生前の出来事を思い出して身震いするのだった。
(またなのか……。ダビデは私が他の女と過ごして平気なのだろうか?)
そんな不安を抱えつつ彼女を見つめるのだった。するとーー
「……どうかされましたか?顔色が悪いですよ?体が辛いのですか?」
心配そうに見つめてくる彼女の瞳は美しく吸い込まれそうになるほどだった。
思わずドキッとするほどの愛らしさがある。そんな彼女を見ていると胸が高鳴り苦しくなってきた気がした。
(ああ、この子は貸すという意味がよくわかってないのだろう。まあいいか…)
そう思い直し平静を取り戻すことができたのだった。
「戦いは終わった。さあ帰ろうかダビデ」
***
城に戻ったヤコブは数日安静にすることになった。
この世界の治癒魔法は脅威的回復であり、ほぼ完治に近い状態だったが大事をとってのことだった。
その間、ダビデが世話を焼いてくれたので退屈することはなかった。
「あら、お兄さん。死にかけたそうね?でも良かったわ、貴方のような良い男が死んじゃったらもったいないもの♡」
そう言いながら部屋に入ってきた女は諜報員マリカだ。
相変わらず露出度の高い服を着ており目のやり場に困るほど扇情的な格好をしている。
「マリカ。その節は世話になった」
「いいのよ。それより聞いてるわよね?貴方を1日貸してもらうって話」
マリカは人差し指でトンとヤコブの胸を突くような仕草をする。
(ぐっ……)
いかにも男慣れしているというような態度を見せる彼女に圧倒されてしまうが、なんとか平常心を保つことに成功した。
「あ、ああ。聞いているよ」
「そう。ねえお嬢ちゃん。貴方の彼、お借りするわね♡」
「? はい」
きょとんとした顔で返事をする彼女。
やはりよくわかってないのだろう。
マリカはヤコブにだけ聞こえるようそっと耳打ちする。
「デート、楽しみにしてるわ。大人の階段を登らせてあげる……♡ふふっ♪」
妖艶な笑みを浮かべながら去っていく彼女を見送ることしかできなかったのである。




