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2話 ご先祖さまヤコブとの出会いとキス ★

「ところで君の名前は?私はヤコブという」



ダビデを魔物から助けた長身の男は名前を聞いてくる。ダビデも素直に名乗ることにする。


「私の名はダビデだ」


ヤコブという名前には聞き覚えがあった。


するとヤコブは目を大きく見開く。驚いたような表情をしていた。何か思うところがあるのだろうか?少し間をおいてから口を開く。


「……ダビデ。まさか君は私と同じ民族ではないか?ダビデとは『愛される者』という意味のはずだ」


ダビデはそれを聞き驚いてヤコブの顔を見る。


「まさか…貴方も突然この森に転移してきたのか!?」


自分と同じ境遇の者がいるとは思わなかったからだ。



2人は互いのことを話し、ヤコブという男はイスラエル人達の先祖にあたる有名な人物だと判明した。


イスラエル人の先祖であり神から選ばれたアブラハム、イサク、ヤコブという3世代の親子の名前はダビデも何度も聞いたことがあったし、創世記の物語も知っていたので、お互いに共通の話題があることも分かった。



「何と…!我々は同胞だったのか!」


ヤコブは歓迎したようにダビデを抱き寄せてその唇にキスをした。


いきなりのことで驚くダビデであったが、キスは古代イスラエル人の慣習だったのでされるがままになっている。


挿絵(By みてみん)


(ん……?なぜ私はこんなに落ち着いているんだ?初めて会ったばかりの男なのに……)


だが自分でも不思議だった。まるで昔から知っているかのように落ち着くことができるのだ。


「ご…ご先祖…さま……」


唇が離れ、ダビデは思わずそう呟いていた。何故だか分からないが自然と口から出てしまったのだ。


そんな様子を見て、ヤコブは微笑ましそうに笑う。


「はは、ご先祖か。君は素直で心が真っ直ぐな者のようだな」


そう言ってまたキスをしようとするが、今度はダビデがそれを止めた。


「そ、それよりも!早くここから出ましょう!」


恥ずかしさを隠すように強引に話を逸らすダビデだった。


***


「しかし君が私の事を知っていたとは」


ヤコブは感心するように言う。


「貴方はイスラエル12部族の始祖達の父親であり、あの預言者アブラハムの孫である御方。イスラエル人は誰しも知っています。私はユダ族の者なのです」

「ほう…君はユダの血統なのか。我々の記録は歴史に残っているのだな」


そう言うと興味深そうにダビデを見る。


「ところで君の前身について教えてもらえないか?」

「……私は…その…イスラエルの王…いえ王妃です。貴方の時代よりずっと後の」

「何だと!?君は王族の者だったのか」


ヤコブは驚いて言うが、ダビデは誤魔化すように笑った。


自分が男だったということをこの男に打ち明けるべきかーー


唐突に異世界に来ていたという到底理解が及ばない状況であれば、性転換していたこともすんなり受け入れられるかもしれない。


いや、しかしそれでもやはり勇気がいる。


自分の秘密を話すということは、すなわち弱みを見せることにもなる。


ダビデは素直な心の持ち主だが、生前は裏切りや妨害が多く、簡単に人を信用することができなかったのである。





(いや、やめておこう・・・もし拒絶されたら耐えられないかもしれない)


そう思い黙っていることにしたのだった。


だがーーー


性自認が男であることを隠したことが思いもよらぬ波乱、そして愛の嵐を巻き起こすことになるなどこの時はまだ知る由もなかったのである。

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