5話 ご先祖さま、お背中お流しします(後編)
時は少し前に遡る。
風呂の準備をしてくれたダビデは、ヤコブに先に入ってもらった。自分より目上なのでいつも先を譲ってくれていた。
(今度から順番は気にするなと伝えてやろう)
そう思いながらヤコブは服を脱いで体を洗おうと風呂場に座り、先日見えたダビデのパンツと尻を思い出していた。
(胸も良いが尻も良い…)
などと邪な考えを巡らせていると、扉越しに不意に声をかけられたのだ。
「ご先祖さま。お背中お流しします」
まさか本人がいるとは思わず動揺しそうになるが、それ以上に言われた言葉の意味を理解しようと必死になるばかりだった。
(え?背中を流す?一緒に風呂に入るということか?今ダビデは裸なのか?裸で一緒に風呂に…dkjfkgじゅgbhんl;:あばぶぁ!?!!???!???!!!?????)
もう頭の中はパニック状態でありまともに思考が働かない状態であったのだがそれでもなんとか言葉を絞り出した結果出て来た言葉はこれだった。
「……私は今裸だがいいのか?」
我ながら何を言っているんだろうと思ったものの他に言葉が見つからなかったのだ。
「私は服を着ております。足を洗って差し上げようと思ったのですが…背中を流す方が感謝の気持ちを伝えることができると聞いたので」
あ、服を着てるのか・・・
一瞬残念な気持ちにもなったのだが冷静になって考えてみれば当然のことであったと思い直した。
「そ、そうか。お前がせっかくそう言ってくれたのだから頼むとしよう。だがお前は嫁入り前の娘。男の裸を見せるのは本来良くないことだ。背中だけ流してくれれば良いぞ。それ以外は自分でやるからな!」
慌てて言うと、わかりました!という元気な返事が返ってきたことに安堵しつつ浴室の扉を開く。
「失礼します」
そう言いながら彼女が入ってくる。
タオルに石鹸をつけて泡立てている様子はまるで新妻のようだった。その姿はなんとも愛らしいもので自然と笑みが溢れてくるほどだった。
優しく丁寧に背中を擦ってくれ、背中越しに彼女の体温や豊満な胸が伝わってくるような感覚に襲われるが平静を装っていた。
「それにしてもなぜ背中を流そうと思ったんだ?」
「ご先祖さまにはいつも助けていただいているので。背中を流すことは労いになるとマリカさんから教わりました」
(マリカ…あの隣国の諜報員の女か!全くロクでもないことを吹き込むな。だがこういうのも悪くない…)
一方ダビデはこう思っていた。
(ご先祖さま、思ってたより筋肉がついていて男らしい体つきをしている……)
背中だけとはいえヤコブの裸を初めて見た。
そこそこ筋肉がついていそうだと思っていたがかなり引き締まった良い体で、思わず見惚れてしまっていたほどだ。
(私は男だ。男の裸なんて前の世界で見慣れている。だが…変な気持ちになるような…)
元は男であり性自認も男の自分であれば、男の裸など何とも思わないと思っていた。
だが実際に見てみると何故かドキドキしてしまい、自分の体にも熱を感じ始めていたのだった。
「お、終わりました。ご先祖さま」
「ああ、ありがとう。とても気持ちよかったよ」
そう言って振り返ると目の前には頬を赤らめもじもじとしているダビデの姿があった。
それを見ると自分も恥ずかしくなり顔を背けるのだった。
2人とも顔を真っ赤にしたまま沈黙が続いたがやがてその空気に耐えられなくなったのかどちらからともなく笑い始めるのだった。
***
ヤコブが風呂から上がった後、自分も風呂に入ろうと脱衣所で服を脱ぐダビデだがーー
(下着が濡れている……?)
元男とはいえ、生前は結婚もしていたのだからその正体は知っている。
愛液が出て濡れたのだろう。
(なぜだーー?女性の生理現象なのだろうか…)
深く考えるのをやめて流すことにしたのだったーー




