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4話 ご先祖さま、お背中お流しします(前編)

今日は安息日だったので仕事を休む事にした。



この異世界には彼らが元の世界で信仰していた教えは当然ないので、7日毎に安息日を取ることに決めていた。


2人が相性が良いのは信仰が同じというのも大きな理由の一つだった。

ヤコブもダビデも信仰心が高く、同じ神を信じているという共通点があるからだ。


だからこそ共に行動することで信頼関係を築きやすいのだと実感しているところだった。



この異世界では無宗教の者が多く宗教は時代遅れだと言われているのだが、それでも2人は神への敬意を忘れずに生活を続けていたのだった。


***


ダビデは2人の生活が始まってからあることを気にしていた。

それは料理のことだ。



ダビデはヤコブの手料理が大好きだが、彼に作らせるのが当然になっていた。


いくら自分は元の世界で男だったとしても今は女の体である。

本来は女である自分が作るべきではないかと思ったのだ。


そこでダビデはヤコブが出掛けている間に昼食を作ることにしたのだがーー





「ダビデ?どうした?」

ヤコブが帰宅すると台所に茫然と立ち尽くしているダビデの姿があった。

肩を落とし途方にくれているようだ。


そこには不器用に切られた野菜や黒焦げになった肉の塊があった。


それを見て察することが出来たのだが敢えて聞いてみることにした。


「もしかして……料理をしようとしたのか?」

「はい…でも失敗して食材をダメにしてしまいました」



彼女は涙ぐみながら言った。今にも泣き出しそうである。


その姿を見ると胸が締め付けられるような気持ちになったがぐっと堪えて優しく声をかけることに決めた。


「そうか……。作ろうとしてくれたのか。ありがとう。頑張ったな」

「でも……これじゃ食べられません」

「いや大丈夫だ。焦げたところを落として使えばいい。私に任せておけ」


そう言うと包丁を手に取り調理を始めた。手際良く材料を切り分けていく姿を見ているうちに不思議と心が落ち着いてきたのを感じた。


出来上がった料理はとてもおいしそうだった。黒焦げで中が生の肉は焦げを落とし味付けをして焼き直し、生煮えの野菜はスープとして活用したおかげでバランスの良い食事となったのである。



それらをテーブルの上に並べると席に着いた。向かい側に座る彼女の顔はまだ落ち込んでいる様子だったので安心させるように笑いかけた。


「冷めないうちに食べようか」

と言って祈りを捧げる仕草を見せると小さく笑ってくれたのがわかった。


そして一口食べるとその美味しさに目を見張り感動したように目を輝かせる姿がとても可愛らしく思えたものだ。



「まさか失敗した料理をこんなにおいしくするなんて…!」

「なあダビデ。もしかして自分が料理をするべきだと思ったのか?」

「……はい。私は従者ですし女なのにご先祖さまにばかり作らせてしまうのは申し訳ないと思いまして……」


それを聞いて納得したと同時に嬉しくなった。自分のことを思っての行動だったのだとわかったからである。



「私は料理が好きなんだ。お前は十分いろいろなことをしてくれている。得意な方がすればいいだけじゃないか?それに……私はお前が食べてくれる方が嬉しいよ」


と言うと一瞬驚いた顔をしたがすぐにパアッと明るい笑顔になり嬉しそうに頷いたのだった。



そんな彼女を見ていると愛おしくなりつい頭を撫でてしまったが、嫌がる素振りも見せず受け入れてくれたためそのまま撫で続けた。


(可愛い奴だなぁ)



***


そんな和やかな時間を過ごす2人だが。

その夜、ヤコブは全く予想しない状況に陥ることになるのだったーー


「ご先祖さま。お背中お流しします」


入浴中、風呂場のドア越しから聞こえた言葉に頭がフリーズするのだった。

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