8話 私のダビデを返せ ★
『お前に私の子供を産んでもらう』
獣人の男からそう告げられ、ダビデは絶望感に打ちひしがれていた。
男はズボンに手をかける。
これからされることを察してダビデは恐怖のあまり涙を流してしまう。
もう終わりだーーそう観念しそうになったその時ーーー
「上様!大変です!」
1人の兵士が部屋に飛び込んできた。その顔は青ざめており尋常ではない様子だった。その様子を見て獣人の男が舌打ちをする。
「なんだ騒々しい……今良いところなのだぞ?」
不機嫌そうな顔で兵士を睨む男に対して、兵士は必死に訴えるように言った。
「そ、それが……火事が起こりまして……!」
それを聞いた途端、獣人の表情が変わった。先程までの余裕そうな表情から一変して焦りの色が見えるようになったのだ。
「……なんだと!?身売りする女共もいるというのに…くそ!至急避難させろ!すぐに消火活動に取り掛かれ!!」
それだけ言うと彼は部屋から出ていってしまった。残された兵士達も慌てて後に続くように部屋を出ていく。
「ダビデ!私のダビデを返せ!!」
聞き覚えのある男の声がしたので振り向くとそこには血眼になったヤコブの姿があった。
ダビデは目を見開いて叫ぶ。
「ご先祖さま!?なぜここに…」
ヤコブは青ざめた顔でダビデを見ていた。なぜなら彼女がベッドの上で裸だったからだ。
「ダビデ…!済まない、私がいながら。助けに来たんだ」
ヤコブは荷物からタオルを取り出しダビデの裸を隠すようくるんだ後、お姫様抱っこ状態で抱き上げた。
その時ベッドのシーツを確認する。
血はついていないようだ。
処女は奪われていないらしいことに安堵しつつも、急いでその場から立ち去ったのであったーーー
***
ヤコブは捕らえた賊を脅して手下にし、放火させボヤ騒ぎを起こしたのだった。
捕えられていた女達も騒動の隙を狙って逃して救助し、ダビデを探していたところだった。
「ご先祖さま…助けに来てくれたんですね…ありがとうございます」
ダビデは感謝の言葉を述べたが、その声は震えていた。無理もないことだと同情しつつ声をかける。
「怖かったろう……もう大丈夫だ」
安心させるように言うが彼女はまだ震えているようだったので落ち着くまで背中を撫でてあげることにした。
しばらくすると落ち着いたのか震えが止まったように見えた。
「あの……ご先祖さま」
「ん?何だい?」
「わ、私はその…貞操は奪われてません。信じてください」
不安そうに見つめてくる彼女に微笑みかけながら答える。
「ああ、信じるよ」
そう言うと安心したようでホッと胸を撫で下ろしていた。
(良かった……ご先祖さまは私のことを信じてくれている)
そう思うと嬉しくなり自然と笑みがこぼれてしまう。
そんな彼女の笑顔を見て、愛おしさがこみ上げてくるのを感じた。
(やはりこの子は可愛いな)
と心の中で思うと同時に彼女を抱きしめたくなったがぐっと堪えることにする。
そんなヤコブの目に飛び込んできたのはーー
くるんだタオルが緩み、ダビデの豊満な胸の谷間と上乳が見えてしまっている光景だった。
(あ……)
それを見て思わず生唾を飲み込んでしまう。
(いかんいかん……今はそんなことをしている場合ではなかろう)
頭を振って煩悩を振り払い冷静になるよう努める。そして再び彼女に声をかけた。
「さあ、早くここから逃げようか」
「はい、わかりました」
2人はその場を後にしたのだった。




