1話 神よ、これは罰なのですか? ★(★付いてる話は挿絵付きです)
死んだ記憶があるのに異世界に転生してしまった上、なぜか女の体になっていたダビデ王。
どうしてこのような事態になったのか? 考えても答えは出ない。
ただ混乱するだけだ。
しばらくした後、ふと冷静になる。
「これは……主に罪を犯した罰なのか……?姦淫の罪を犯しただけでなく、姦淫を隠蔽するために部下を死に追いやった私の・・・」
ダビデ王は正しい心の持ち主だった。
彼は神ヤハウェだけを信仰し、ヤハウェからも「我が僕ダビデ」とその信仰を認められ愛されてきた。
そんなダビデの人生唯一の汚点は、人妻であった女を誘惑して関係を持ち、妊娠させてしまったので隠蔽するため彼女の夫を戦死させるよう仕向けた罪だ。
古代イスラエル人にとって不倫は大罪である。
さらに自分の罪を隠すため1人の人間を死に追いやってしまったのだから、その罪深さは計り知れない。
だが彼は真剣に悔い改め、神の罰を受け入れた。神は憐れみ許してくれたのだ。
それなのにーーー
「いや…私は死刑になってもおかしくないことをした。だが地獄に行くこともなく許されたのだ。ならばこれも主の思し召しかもしれない……。」
そう言って自分を納得させようとするが、やはり心は晴れない。
当然だ。男だったのに女の体になってしまったのだ。
とても受け入れ難い事実である。
「主よ…私はどうすれば男に戻れるのでしょうか?」
そんな問いかけにも答える者はいなかった。
◇◇◇◇
その後、落ち着いたところで改めて周囲を見渡すと、そこは深い森の中のようだった。
(ここは一体どこなんだ・・・?こんな場所は知らないが…)
ダビデが生前過ごしていた古代イスラエルとは違う世界なのは確かだろう。
とにかくこの森を出ようと歩き出すことにした。
だがーーー
「なっ…!何だこの生き物は!」
まさに魔物と呼ぶべき異形の存在が目の前に現れたのである!
それは一見すると狼のような姿をしていた。しかし大きさが違う。普通の個体でも3メートルはあるであろう巨体で、口から涎を垂らしながら唸り声をあげていた。明らかにこちらを捕食しようとしているのが分かる。
このままでは襲われてしまうだろう。
何とかしなければと思った瞬間ーーー
バァンッ!!ドサッ・・・。
突然大きな音がしたかと思うと目の前の怪物が崩れ落ちていた。
慌てて振り返るダビデ。
そこには長身の男が木の棒を持って立っていた。
髪は黒髪で短く切りそろえられており、精悍な顔つきをしている。
年齢は20代前半くらいだろうか?若く見える男だった。
優しい目をして柔和そうに見えるが体つきは筋肉がついており、鍛えられていることが分かる。
男だった自分も、ちょうど目の前の男のような引き締まった肉体だったなとダビデはふと思うのだった。
「大丈夫か?娘よ」
男がこちらに声をかけてきた。どうやら助けてくれたらしい。
「あ、ああ大丈夫だ。感謝するぞ」
ダビデは目の前の男に礼を言う。
その男は初対面だが何故か懐かしさを覚えるような不思議な魅力があった。
(この男は…?何だか他人と思えないような…。それに相当の強い男と見た)
ダビデは心の中でそう感じていた。男はそんな考えをよそに話しかけてくる。
「娘がこんな場所で何をしていたのだ?私はこの森を抜けたいのだが、ここは危険な場所のようだ。共に来るか?」
やはり自分は女に見えるのかーー
複雑な心境のダビデだったが、今はこの男に頼るしかないと思い了承することにする。
こうして2人は森の外へと進むことになった。
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