6話 童貞と処女 ★
この世界で何故か女性の体になっていたダビデは、生理が来てしまいショックを受けていた。
ダビデが元は男だと何も知らないヤコブは、そんな彼女の葛藤など知る由もなかった。
(うん……?ここは……)
朝目覚めると見慣れない天井が目に入り、隣国の王室に泊まったことを思い出す。
(ダビデ…そういえば昨日はあまり話せなかったな。今どうしているのか?会いたいのだが……)
ダビデのことを考えていると、一昨日の晩に同じ部屋で過ごしたことを思い出してしまう。
(あの子は嫁入り前の処女。私を先祖として信頼しているのだろうが男に警戒心もない。あんなに無防備だと危ないではないか!!まったく世話が焼けるな)
そんなことを思っているとある事実に気付く。
(うん……?だがあの子は元の世界では王妃だったと言っていたな。だがあの子はどう見ても処女。この世界では処女に戻っているということか…?)
明確な証拠があるわけではないが、処女であることは間違いないという確信はあった。
若い姿に戻りこの世界に来たのであれば処女に戻っていても不思議ではない。
だが次の瞬間、ヤコブは驚愕の事実に気付こうとしていたのだ。
(待てよーーそうであれば、私も童貞に戻っているということではないか!?)
今の年齢は明確にわからないがかなり若く見える。
童貞に戻っている可能性は高いと思った。
元の世界では妻と側室が4人、子供は13人いた記憶があるのに今の自分は童貞だというのは不思議な気分だ。
(私とダビデはーー童貞と処女なのか)
2人はこの世界では共に未経験であることに気付いてしまうのだった。
***
「ご先祖さま!おはようございます。昨日は姿が見えませんでしたがどこにいらしてたんですか?」
「ああ、おはよう!ちょっと用事があってな」
笑顔で挨拶を返すも内心動揺してしまうヤコブだったが平静を装って答えるのだった。
ふと見ると、ダビデの頭に僅かに寝癖がついていることに気付く。
元々癖毛で柔らかそうな髪質なので寝癖もあまり目立たないが、つい世話を焼いてしまいたくなるのだった。
「おい、寝癖が残ってるぞ。仕方ない奴だな、私が直してやろう」
「あ、ありがとうございます……!」
恥ずかしそうに顔を赤らめる姿が可愛らしくて思わず抱きしめそうになる衝動に駆られたが、必死に抑えることができた自分を褒めてやりたい気分だった。
(いかん!今朝といい私は何を考えてるんだ!この子は私の同胞であり子孫だというのに…)
煩悩を振り払うように首を振るとダビデの手を引き歩き出す。
「さあ行くぞダビデ」
「はい」
その手は大きくて温かくて優しい手だった。
「ヤコブさま、ダビデさま。王が貴方方と謁見を望んでおります。朝食が終わりましたらご案内いたします」
「えっ!?」
「わかりました」
侍女が2人に声をかける。
そしてそんな2人を、第一王子が陰からこっそり見ていたことに誰も気付いていなかったーーー




