2話 ダビデの苦悩 ★
翌朝。
ダビデは目を覚ました。見慣れない天井に一瞬戸惑うもののすぐに思い出すことができた。
ここは異世界なのだと。そして自分が今いる場所は安全だということにも安堵する。
隣を見るとまだ眠っているヤコブの姿があり、起こさないようにそっとベッドから抜け出した。
窓の外を眺めると朝日を浴びて輝く街並みが見える。とても美しい光景だったが、その胸の内は複雑だった。
(唐突にこの世界に来て、何故か女の体になっていて……しかし同胞であるご先祖さまと出会い、こうして無事に生活できている。私は恵まれている、だがーー女のフリをして生きて行かなくてはならないなんて……)
ダビデは明るく振る舞っていたが、男に戻りたくてたまらない気持ちがあった。
そして、ヤコブに嘘を付いているようで罪悪感もある。
(ご先祖さま…貴方と出会えて私は救われている。私にいろいろ与えてくださり、女の身である私を尊重して大切にしてくださっている御方。だがご先祖さまが私の秘密を知ればーー拒絶され、嫌われてしまうかもしれないと思うと怖いのだ……)
そう心の中で呟くと、胸が締め付けられるような感覚に襲われるのだった。
***
朝食を済ませ準備を終えた後、2人は匿った隣国の姫を帰すために、馬車で隣国に向かっていた。
「あの…お二人はご夫婦なのでしょうか?」
2人の関係を不思議に思ったのか姫は尋ねる。
「!」
ヤコブは思わず動揺しそうになるが、ダビデが答える。
「いえ。私はご先祖…いえ、ヤコブさまの従者です」
「そうでしたか」
いつもの「ご先祖さま」という呼び方では不審に思われそうなので今は名前で呼んでいた。
(ご先祖さまという呼び方もいいが、名前で呼ばれるのも新鮮だな……悪くないな……って何を考えているんだ私は!)
そんなことを考えていると、唐突に馬が動きを止める。
「何だ!?」
警戒しながら様子を伺う一行の前に現れたのはーーー
「姫!!姫さま!ご無事ですか!?」
「おい、貴様!姫を攫った賊どもか!!」
1人の女性騎士と2名の兵士がこちらに向かってきていた。
どうやら姫の配下らしい。彼らは馬車を囲み立ち塞がる。
もう1人の兵士は剣を抜き、こちらに向けていた。
「何…!私達は盗賊に攫われそうになっていた姫君を保護しただけだ。賊呼ばわりされる覚えはないぞ」
ダビデは毅然とした態度で反論する。
しかし相手は聞く耳を持たないようだ。
「……問答無用だ。貴様らを捕らえさせてもらうぞ……!」
その言葉と共に兵士達が一斉に襲いかかってきたがーー
「おやめなさい!この方達は盗賊に囚われた私を助けてくれたのです」
「姫…!!それは本当ですか?」
「ええ。この方たちは恩人です。我が国に招いて丁重にもてなしなさい」
「……承知致しました」
こうして無事に姫の配下と合流できたヤコブとダビデは、客人として王国に招かれるのだったーー




