最終話 新たな未来へ 前編
その日、ヤコブとダビデは隣国に向かっていた。
隣国は近いので馬に乗ってのんびりと散歩でもするかのように向かっていった。
聖獣化魔法により小型の聖獣に姿を変えた元馬に、必要な時だけ馬に戻ってもらい乗るようになっていた。
最初は一時的に聖獣に姿を変えてもらうつもりだったが、今では聖獣として生きるようになったからだ。
これは動物本人が同意する場合に限り聖獣のまま生きることも可能だからである。
ただし生殖能力がないため子孫を残すことはできないそうだが、そもそも性別という概念が無い種族のため気にすることもなかった。
聖獣は冒険や戦闘にも役立ち、とても便利な存在であるため冒険者である2人に重宝されるようになったというわけだ。
普段はペットのように2人と家で暮らしているのだった。
この日2人が隣国に向かっているのはーーシャファク王子とアリエッタ令嬢の結婚式に招かれたからに他ならない。
ダビデを諦めきれない様子のシャファクだったが、アリエッタの努力の甲斐あって結局結ばれることとなったようだった。
到着してみると盛大な祝福ムードに包まれていて非常に賑やかな様子だった。式場にはたくさんの人々が訪れており、笑顔で溢れかえっていた。その中には王族や貴族達も参加しており皆幸せに包まれているようだ。
その中には、ダビデとヤコブがかつて助けたアセナ姫の姿もあった。シャファクの妹である彼女も心から祝福している様子だった。
「あら、ヤコブ。ダビデちゃん」
参加者には女諜報員マリカの姿もあった。今日は結婚式という事で清楚なドレスに身を包んでいるようだ。
「その節は世話になったな。マリカ」
「お安い御用よ。ところで貴方達夫婦になったのよね〜おめでとう〜」
からかうように言う彼女に照れつつも礼を言う2人。
「ありがとう……」
2人は照れくさそうに俯く仕草を見せた。その様子を楽しそうに見つめるマリカ。そして今日の主役である新郎新婦のシャファクとアリエッタに視線をやると言った。
「あの2人お似合いね。私達が縁結びしてなかったらきっと結ばれなかったでしょうね」
たしかにその通りだろうと納得する2人であった。
そんな彼らにこっそり視線を送るのは新郎のシャファクだった。彼は心の中でこう呟いたのだった。
(ダビデさん……貴女は僕が初めて本気で好きになった女性。僕はアリエッタだけを愛すると決めたが、貴女は僕の中できっと特別な女性となるだろう……)
ほんの少し感傷的な気持ちになりながらも、それを振り切るように隣にいるアリエッタに微笑みかけるのだった。
***
その夜、王宮では祝宴が催され大勢の招待客が集まりパーティを楽しんでいた。
豪華な食事が次々と運ばれてくる中、各々自由に飲み食いをしていた。
祝宴客の中には余興を披露する者もいて、宴を盛り上げていたのだがダビデも得意の竪琴を演奏することになっていた。
この日のために毎日練習してきた成果を見せようと張り切っているのだ。
竪琴を奏でていくうちに会場からは拍手喝采が起こったりして盛り上がった。
皆が聞き入っている様子を嬉しそうに眺めつつ最後の曲を演奏し終えた。その瞬間割れんばかりの大きな歓声が上がる。
あまりの音量に驚いてしまったくらいだ。それほどまでに喜んでもらえたことが嬉しかったのだろう。喜びを抑えきれず満面の笑みを見せるダビデはヤコブと見つめ合っていたのだった。
「ねえ、貴方達は式を挙げないの?」
ワインを飲んでいつも以上に色気たっぷりになっているマリカがヤコブに訊ねてきた。
周りの男達はマリカに視線が釘付けになっているようだが彼女は気にしていない様子だ。男の注目に慣れているのだろう。
「ダビデは男勝りだから興味ないそうだ。わざわざ祝儀をもらってまでする必要もあるまい」
「ふふ、あの子らしいわ。ねえ、貴方達ってもしかして……この世界の人間じゃない……異界から来た人間なの?」
「えっ・・・?」
いよいよ次回で完結となります。
ですが後書きを書いて、番外編を続けて載せさせていただく予定です。
もし良ければもう少しお付き合いいただけると嬉しいです。
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