15話 初夜 前編 ★
「しかし不思議な爺さんだったな。いや、あれも仮の姿なのか…」
この異世界では不老の魔法が流通しているので子供を除くと年齢不祥な者がほとんどだ。またエルフなど異種族もいるため外見だけでは年齢がわからないことが多い。年齢の概念すらすらほぼないと言っていいくらいだ。
なので老人も存在しないはずだが、中にはあえて老人の姿に化ける者もいるかもしれないと思った。
(まあ、どうでもいいことか)
マジックカーの助手席ではダビデが「聖獣化魔法」を使い小型の聖獣に姿を変えた馬を撫でていた。馬もとい聖獣は気持ち良さそうに目を細めている。
大きな胸に顔を埋めるように撫でられているので凝視しそうになるが、運転中なので我慢することにしたヤコブだった。
(そうだ。忘れてはいかんな…)
あまりにいろいろなことがありすぎて忘れてしまうところだったが、彼女に謝らなくてはならないことを思い出す。
「なあ、ダビデ。この前は済まなかった。『男みたいにガサツ』だなんて無神経なことを言って」
「え?なんのことですか?」
彼女はキョトンとした顔をしている。どうやら本当に覚えていないようだった。
「……いや、なんでもないんだ」
なんだか拍子抜けしてしまったが、怒っていないようなので安心した。
(それにしても……まさか元は男だったとは。どうりで男勝りだったんだな。だがそんな所も大好きになってしまったんだがね……)
そんなことを考えながら2人を乗せた車は帰路につくのであった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
紆余曲折ありつつも、ついに夫婦になることになったヤコブとダビデだがーーー
夫婦になったということは・・・もう婚前交渉禁止を守る必要はなくなったということでもある。
つまりそういうことだ!!!
ずっと性欲との戦いをせざるを得なかったヤコブは歓喜に満ち溢れていた!
ついにダビデと夜の営みをすることができるからだ。
しかしーーー
その夜、ダビデは覚悟を決めていた。
この世界で女になってしまい、そしてこれからも女として生きることを受け入れた。
誰よりも愛する人であるヤコブと無事に結ばれたが、元の世界で男だったので女として抱かれるのは初めての経験になる。
そんな未知なる世界に踏み出すのだから緊張してしまうのも無理はないことだろう。
「あの……ヤコブさま……」
もじもじしながら恥ずかしそうにダビデは言った。
「ダビデ。こっちにおいで」
ベッドに腰掛けている彼は優しく微笑みながら手を広げた。
その胸に飛び込んでいくようにダビデは勢いよく抱きついた。
そして頭を撫でてもらうととても幸せな気分になれた。
ああ、やっぱり私はこの人のことが大好きなんだなと思った。
「なあダビデ。お前はこの世界では女だが前の世界では男だった。私が同じ立場でも受け入れがたいだろう。私達は夫婦になったが、今はまだお前を抱くことはやめようと思う」
「………え?」
その言葉に驚きを隠せないダビデだった。
まさか断られるとは思っていなかった。
「そ、そんな……!どうしてですか!?せっかく結婚したのに……!」
思わず大きな声が出てしまう。
「男に抱かれることは、元は男だったお前にとってはやはり抵抗があるだろう。少しずつ女の体を知り、慣らしてからの方がいいと思うのだ」
確かにその通りだと思うがヤコブはそれで良いのだろうか…?
「私はお前が戻ってきてくれて結婚まで出来たことが幸せでたまらない。それにお前はあまりに魅力的すぎる。今すぐお前を抱くのは私にとっても刺激が強すぎるし、お前を大事にしたいという気持ちがあるのだ」
「ヤコブさま…」
彼は本当に自分のことを大切に考えてくれてるのだと実感できた。
それが嬉しくて涙が出そうになった。
「ダビデ……」
ヤコブは後ろからダビデを抱きしめると耳元で囁いた。
「愛してる……」
その言葉を聞いた瞬間、身体中がゾクゾクとした感覚に襲われた。
そして彼の手はダビデの豊満な胸に伸びてくる。
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