9話 悲しくてたまらない
「ヤコブさま・・・」
先程までいつものように優しく微笑んでいたヤコブだがその目には大粒の涙をたたえており、今にも溢れ出しそうになっていたからだ。
(え・・・ご先祖さまが泣いているところなんて今まで一度も見たことないのにーー)
ついに堪えきれなくなったようにヤコブは嗚咽を漏らして男泣きし始めた。
もうプライドなんてどうでも良かった。悲しくて仕方なかったからだ。
「うっ……うう……ああああああ……」
ヤコブは涙で霞んでいく視界を通してダビデの姿を目に焼き付けていた。
先程伝えたことは嘘ではない。
愛することはできないが、男になったとしても仲間でい続けたいと思っている。それほど大事な存在になっていたのだ。
恋愛感情でありながら、心を許せる親友のような関係でもある不思議な感覚だ。
きっといろいろな意味を込めてダビデという人間に「惚れている」のだろう。
だがーーー
今目の前にある美しい彼女の肉体が、男に戻れば消えてしまうのだ。
もう二度と見ることも触れることもできなくなってしまうのだ。
この愛らしい顔も声も、何もかもが失われてしまうのだ。
そんなことを考えると胸が張り裂けそうなほど苦しくなり、涙が止まらなくなるのだ。
そして遂に決壊したダムのように大量の涙が溢れ出してしまったのだった。
目の前で号泣している彼を見て、今度は彼女が驚く番だった。
(どうして泣いてるんですか!?そんなに私のことを想ってくれてるってことですか?ああ、それより・・・)
ダビデは愛しい男が大号泣する姿に胸を痛めながらこう思っていた。
(私がーーーこの方をこんなに悲しませてしまっているのか・・・私はーー本当はーーーーーー)
その時ダビデの胸中に浮かんだ言葉はーーー
「ヤコブさま。もう泣かないでください。私はーーー」
思わず無意識にこう叫んでいた。
「男に戻りません!!だから・・・どうか安心してください!」
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