5話 到着するダビデ ★
「ここまでよく走ってくれたな」
ダビデは旅の移動を手伝ってくれ走り続けてくれた馬に労いの言葉をかけると、そっと撫でてやった。馬は嬉しそうに鳴き声を上げると甘えるようにすり寄ってくるので、優しく抱き締めてやる。
それから手綱を引いて馬を誘導すると町の門をくぐり中に入った。
すると目の前に広がる光景に彼女は目を細める。
「ずいぶん寂しい場所だな…こんな場所に住んでいるなんて噂通りの変わり者なんだな」
周囲には民家や店といったものはまばらにしかなく限界集落という言葉がぴったり当てはまるような雰囲気であった。
手頃な場所に馬を繋ぎ、彼女は1人でゆっくりと歩いていく。
(いよいよ…か。本当に…私は男に戻るのか)
男に戻れば、ヤコブに自分だと気づかれることもなく二度と会うこともないかもしれないと思うと胸が締め付けられるように苦しくなるのを感じた。
だが、これは自分が望んだことなのだから仕方ないのだと自分に言い聞かせることで平静を保つことに成功する。
そして気持ちを切り替えた彼女は再びゆっくりと歩き始めたのだった……。
「ダビデ」
どこかから自分の名を呼ぶ声がするーー幻聴かと耳を澄ますがその声は一向に止まないどころかだんだん大きくなっていくような気がした。
まさかと思いながら振り返ると、こちらに向かって駆けてくる男の姿が目に入った。その見覚えのある姿に動揺しつつも彼女は慌てて逃げようとしたが遅かったようで腕を掴まれてしまう。
そのまま引き寄せられると後ろから抱きすくめられるような格好になってしまったため身動きが取れなくなってしまったのだ。
(そんな……なぜ、なぜここに…!)
焦る彼女の耳元に顔を寄せながら男は囁くように言った。
「やっと捕まえたぞ!どうして逃げるんだ!?」
その言葉に驚いて振り向くと至近距離で目が合った。それは紛れもなく愛しい人の顔だったのだ。
(ご先祖さまーーー)
女である自分の体とは違う硬い感触と逞しい腕の感触を感じてしまいドキドキしてしまうが、今はそれどころではないと思い直し何とか離れようと試みたがやはり無駄だったようだ。
それどころかますます強く抱きしめられてしまったので完全に動けなくなってしまったのである。
「ダビデ!話を聞いてくれ!」
必死の形相で訴えかけてくるその姿を見ると何も言えなくなってしまうが、このままではいけないと心を鬼にして口を開いた。




