98 動物園へレッツゴー(1)
姿見を見ることなら、もう朝から数百回くらいした。
持ち物リストを作って持って行くものの確認なら何十回とした。
朝四時から作ったお弁当だって、大事に大きな保冷バッグに入れた。
服装は、何度もシミュレーションしていた剣様とのデート動物園編をアレンジした。
今まで、何度も剣様と出掛けるならどんなコーデで行こうかと悩んできたはずだった。
けれど、いざ出掛けようとすれば、気になる点が幾つかあることに気付いた。
今までは、どこか現実味がなかったのかもしれない。
けれど、今日出掛ける事は現実だ。
予定はバッチリ。
とはいえ、流石に事前に動物園へ行ってプランを練ることはしなかったのだけれど。
デート……。
デート、でいいんだよね。
剣様はそんな気はないかもしれないけど。
私としてはデートと同じ。
エスコートをして、楽しんで貰うんだ。
そんな風に、意気込んで動物園までやって来た。
動物園の看板が目立つようになってくると、それに呼応するように心臓がバクバクする。
待ち合わせの時間まであと20分、といったところで、動物園へ向かって歩いてくる人の中に、一際輝く人を見つけた。
白いキャップをかぶり、黒い髪を靡かせている女神様。
誰もが振り返る美貌に加え、今日はサンダル姿で足首を晒している。
これは……見てもいいものだろうか。
目が合うと、剣様は、まっすぐにこちらに向かって来た。
「おはよう」
となんでもないように、挨拶をする。
「おはようございます……!」
どうしよう。
今日は、他の3人は来ない。
他に、誰も来ない。
……二人きりなんだ。
「ひょっ……!ひょうはよろしくお願いしまふっ」
思いっきり噛んだ私を見て、剣様が苦笑した。
二人で歩く。
剣様の右側で、気合を入れすぎた私は、右手と右足を同時に出した。
直後、なんだかおかしいと思った私の隣で、剣様が笑う。
「はーあ。動物園なんて小学校ぶりだわ。なんでプレゼントが、動物園なのかしら」
その笑顔と、普通に喋る剣様にキュンとする。
「わ、私、今日は全力でエスコートするので……!」
気合が入る私に、剣様はまた笑った。
「あなたも誕生日なんだから、一緒に楽しまないとダメよ」
剣様が、パンフレットを開く。
「ほら、どこに行きたい?」
何処って…………。
そりゃあ、剣様の隣に。
そんな事を言いたかったけれど、流石に二人でいる時でも、自分から進んで隣を歩くのはなんとなく申し訳なくて、そんな台詞は言えなかったんだ。
「じゃあ……スナネコの小屋に行きたいです」
他に言いようがなくて、素直にそう答えた。
「最近、話題になっていたみたいね」
どことなくワクワクした様子で、剣様が先を行く。
鼻先をくすぐるくらいの距離で、剣様の黒い髪がひらりとひらめいた。
そんな風にして、私と剣様の1日は始まったんだ。
奈子ちゃん、夜ちゃんと寝たんですかね?