96 パーティーの後で
小節先輩と東堂先輩達は、パーティーの主役に働かせるわけにはいかないから、と使った食器を片付けに行ってしまった。
流石に先輩達にそんな事をさせるのは悪いと騒ぎ立てた後で、結局、東堂先輩達双子の圧に負けて、剣様と二人、生徒会室でぼんやりと、夕陽を見る事になったのである。
夕焼けに染まっていく空を眺める剣様は素敵だ。
スルリとした黒髪。
時折見える頬のライン。
どこか別世界の入り口がそこにあって、まるで天界のような所が垣間見えたんじゃないかと思ってしまうほど、その後ろ姿は尊かった。
まるで、私を射抜いてくるこの夕陽みたいに、眩しい光景だった。
「朝川」
呟いた声が、自分の名を呼んだから、少しビクリとする。
「はい」
振り返った剣様の顔は、一瞬、泣いてしまうんじゃないかと思った。
窓からの光で、よくは見えなかったけれど。
「今日はありがとう。嬉しかった」
「え…………」
心臓がキュンとする。
「私こそ……!喜んでいただけて……!それに…………、誕生日…………」
そこで、ふと思う。
「剣様は、なんで私の誕生日、知ってたんですか」
まっすぐ向かい合うと、剣様はふふっと笑った。
「私は、ファンクラブの名簿は全員分持ってるの。あなたが生徒会に入る前に、ちゃんとチェックしてるわ」
「えっ……」
名簿。
ファンクラブには、プロフィールを書いた名簿と、活動記録が存在する。
プロフィールには、学年クラス、名前、誕生日、血液型の他に、剣様のどこが好きか、ファンクラブ会長や副会長から見た性格などが載っている。
活動記録には、剣様宛にいつ手紙を書いたか、どんなプレゼントをしたかなど。
剣様は一体どこまで知っているのだろう。
「じゃあもしかして、プレゼントも知ってたり……」
言ってから、「あれ?」と思った。
書類で見たなら、その物は避けるんじゃないだろうか。
「あれは……」
と、少し拗ねたような声がした。
「貰ったやつを私が使ってるからよ…………。気に入ったからお返しに………………」
と、剣様の声はどんどん小さくなる。
「え……?あ……?」
使ってくれている……?
そこで、コロリ、と剣様が、ペンケースからボールペンを出してみせた。
確かにそれは、私が贈ったえんじ色のボールペンだった。
そんな……だって、生徒会室で使っているのを見たことなんてなかったのに。
目が勝手に潤む。こんな事で泣いてしまうと、困らせてしまうかもしれないのに。
「あなたから貰ったものは、ちゃんと使ってるわ」
「私から……?もしかして……覚えててくれてたんですか」
覚えていてくれたんじゃないかなんて、虫が良すぎるというものだろうか。私が剣様の中に存在しているなんて。
「あなたの事は、以前から知ってたわ。一番前でいつも……」
そこで、剣様は言葉を切った。
一瞬悩んだ後、
「……変な顔してるんだもの」
と、言ってそっぽを向いた。
身体が熱くなる。
剣様に認知される事は、もっと怖い事だと思っていた。
けれど、今は知り合いだからだろうか。
なんだか…………。
顔が、ニヤけてしまうじゃない。
どんどん恋愛が加速するわけですね!?