95 お誕生日おめでとう
それから、二人の誕生日パーティーはつつがなく進んだ。
「ほら、あなたも出しなさい」
そう剣様が言ったのは、ケーキも食べ終わり、みんなが一息ついた頃の事だった。
「えっと……何をですか?」
キョトンとすると、剣様が呆れた顔で首を傾げる。
「あるんじゃないの?プレゼント」
「あ……」
顔が固まる。
出さないように頑張っていたわけではない。
ただ、剣様のプレゼントより見劣りするんじゃないかと、気恥ずかしく思ってしまっただけだ。
けれど、渡さないという選択肢はない。
真っ赤になった顔で、精一杯の笑顔を作る。
ルームシューズが入っている両手で抱える程度の、綺麗にラッピングされた袋。
剣様が目の前に立った。
あ…………。
10センチほど差がある身長の剣様の目を見上げる。
目が合う。
心臓が、バクバクと弾ける。
「改めて、おめでとうございます」
プレゼントを差し出すと、近付いてきた剣様が、優しい目を向けた。
視界が、全て剣様で埋まってしまう。
「ありがとう」
それから、若干気まずそうに他の3人も剣様にプレゼントを渡した。
小節先輩は座布団、杜若先輩はキャンドル、菖蒲先輩は本を1冊。
「あと、花束もあるんですよ!」
と、差し出そうとすると、東堂先輩達に止められた。
杜若先輩の手が、私から花束を取り上げる。
「これくらいは、二人で受け取りなさいよ」
「でも、これは、剣様の為に買ったもので」
言い訳するけれど、剣様の、
「あなたももらいなさい」
という一言で、剣様と二人で立つ事になった。
隣に、剣様の存在が呼吸している。
左側に、剣様の熱を感じる。
おかしな息遣いが聞こえてしまうんじゃないかと、自分の吐く息に気を取られてどう呼吸していいのかわからなくなる。
杜若先輩が、そのまま花束を私達に渡した。
「おめでとう」
「ありがとうございます……」
手が、震える。
花束に添えた手が、剣様の手に触れそうになる。
もう顔は真っ赤で、ボルケーノと呼ばれても仕方がないくらいだった。
隣の剣様を見上げると、思った以上に近いところにいた剣様が、眩しい笑顔を見せたので、噴火したんじゃないかと思うくらいに心臓がうるさい。
剣様が、ため息を吐いた。
「まったく、頼むわよ。来年は、ちゃんと二人分のお祝いをする事」
「来年……」
来年……?
こんな幸せな事に、二度目があるのだろうか。
けど、そういえば。
来年といえば、剣様達が3年生。私が2年生だ。
今年の生徒会メンバーには同学年は居ないから、剣様の意思を継ぐ為には、私が生徒会に入らないといけない。
もしかして剣様は、来年も生徒会に入る意思はあるのかという決意表明を聞きたいんじゃないだろうか。
それなら。
もちろん、来年も剣様の意思を継いでこの生徒会に入る覚悟なら、もうとっくに出来ている。
「もちろん、です」
また、こんな奇跡的な日が来るんじゃないかという希望のせいで、思わずはにかんでしまう。
けど、そんな私を見て、剣様は、思った以上に満足そうに微笑んだんだ。
ハッピーなお誕生日会になってよかったですね。