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93 あなたの幸せを願おう(4)

「誕生日、よね?朝から何やってるの?」


 誕生日会の当日、朝教室で会った真穂ちゃんが、困った顔を見せる。


「言ってた剣様の誕生日会。やっぱり風船飾りたくて」

 と言いながら、奈子は風船を膨らませる。


 今日は、朝早くから学校に来た。

 学校に来て、壁に飾る横断幕を書いていたのだ。


 横断幕には、

『剣様 お誕生日おめでとうございます』

 と、渾身の力を込めて書いた。

 花の絵なんて添えて。


 最後の仕上げに、風船を膨らませていたというわけだ。

 風船は銀色のアルミ製の風船で、お洒落な文字で『Happy Birthday』と書かれている。


 ケーキは、隠すために特別教室棟の理科準備室にある冷蔵庫を借りた。

 本来の使い道に本当に合っているのかどうなのか、いつも中に2、3本のお茶やジュースが入っている冷蔵庫だ。


 そんな風に誕生日会の日は始まった。


 1日中ソワソワする日だ。

 様子見に小節先輩とでも連絡をとりたかったけれど、それは流石に我慢した。


 授業中も、気を抜くと、今日の放課後の段取りばかり考えてしまう。

 空は、とてもよく晴れていて、剣様の誕生日を、地球が丸ごと祝ってくれているんだと、そう思った。




 そして。

 ゴーン、ゴーン、ゴーン……。

 鐘の音が響く。

 放課後の鐘だ。


 ソワソワして走り出したくなるけれど、まず最初は何もない顔をして、剣様を文化祭の代表者説明会に送り出さなくてはならない。


 いつもと同じような顔をして生徒会室に入る。


「おはようございます」


「おはよう」

 剣様が、こちらを振り返り微笑む。

 何も知らないはずなのに、なんだかいつになく気持ちのいい笑顔だ。


 色々な感情を抑えて、ドキドキしながら、剣様と、杜若先輩、小節先輩を会議へと送り出す。

 今回、書記の私と会計の菖蒲先輩は、お留守番だ。


 二人で、いつも通りに見えるはずのそっけないいってらっしゃいをしてから、出くわさないはずのルートで、理科室に向かう。

 ケーキを取り出し、大きなケーキの箱を抱えて、生徒会室の冷蔵庫に入れ直した。


 それから、急ぎ足で自分の教室に向かい、プレゼントの箱や花束、飾りなどを両手で抱えて校舎を走る。

 今日は、こちら側に窓がない部屋で会議をしてもらっているから、安心して走ってもいいはず。

 それでも、廊下の角などでは、そっと覗きながら音を立てないよう歩く。


 喜んでもらえるだろうか。


 生徒会室で、横断幕を飾りつける。糸のついた風船を浮かべる。


 喜んでもらえるだろうか。


 つい、考えてしまう。

 喜んでもらえなくても、それは仕方がない事なんだから。

 押し付けないようにしなきゃ。


 けれど、どうしても考えてしまう。


 喜んでもらえるだろうか。


 涙が溢れそうになるのを堪えて、テーブルの準備を進めていく。


 そして、剣様が戻ってくる時間がやって来た。




 最初に、カチャリと扉を開けたのは、小節先輩だった。

 剣様が入ってくる。


 生徒会室の景色に目を向けた剣様は、一瞬、何が起こったのかわからないという顔をした。


「剣様……」


 そう呟いた私の声を背景に、剣様は部屋の一番奥に飾っていた横断幕を見た。


 剣様の表情が、サッと凍った。


 あ……。


 何か、失敗した事を悟る。


 一瞬後で、剣様が、冷たいため息を吐いた。

「何よこれ……」


 サプライズがダメだったんだろうか。

 それとも何か、別の事……。


 私が狼狽える暇も無く、剣様は、冷たい声でこう言ったんだ。


「その横断幕を下ろしてちょうだい」

さて、春日野町剣は一体どうしたのだろうか。

推理できた人は、次回の更新までに、ここの感想欄か私まで!

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― 新着の感想 ―
[一言] 剣様のお冷たい理由 「奈子ちゃんの書いた横断幕が、極太相撲体だったから」 剣様「桜花蒼奏学園の秋場所かと思ったじゃない」
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