92 あなたの幸せを願おう(3)
プレゼント、は何にしよう?
休日に、ショッピングに出かけた。
お店で剣様に似合いそうなものを探すのはいつもの事だけれど、実際に贈るものをこの手に取るのは初めてだ。
使えるものを、と今まではそう思って贈ってきたけれど、すぐそばに居られる今、“使えるもの”というのは危険を孕んでいる事に気がつく。
どうしても、学校で使えるものは、目の前で使ってくれるんじゃないかと期待してしまうのだ。
大量のプレゼントをもらった人に対して、期待して待ち望んでしまうのもいやだった。
だったら、家で使えるものにしよう。
そうすれば、家で使ってもらえてるかなと自分で考えるだけで完結する。
学校には持ってこないもの。
部屋で使うもの。
枕?そういえば専門店が……。と考えたところで、枕とかいう大抵部屋に一つしかないものに愛用の品があったらどうしようかと思う。
ペン立てなどを買って部屋の景観を汚すような事があったら、と思うと、それもまた止める事にした。
服に靴、椅子、ぬいぐるみ、本……と見たところで、ひとつ、目に留まるものがあった。
ルームシューズ。
部屋で履くもの。
剣様の家は純和風の家だから、剣様の部屋も和室の可能性が高い。
けど、廊下は板だったし、剣様も廊下でスリッパくらいは履くはずだ。
部屋で履くものなら、学校に持ってくる事はしないだろう。
それに、ルームシューズなら、使い古されれば捨ててしまうものだ。
もし、いつか使っていない事を知ってしまったとしても、使い終わったんだと思う事が出来る。
「真実はどうであれ」
そして私は、薄いピンクのルームシューズを選んだ。
本当は、剣様はもっと濃い色が似合うと思う。ワインレッドとか、群青色とか。
けど、薄い色を選んだ。
剣様の部屋の景観を、濃い色で台無しにしたくはなかった。
剣様の目に、留まる事が嫌だった。
それで、私の事を思い出せてしまうのは。
だから私は、できるだけその場に馴染むように、薄い色を選んだのだ。
それからは、雑貨屋で飾りつけの色々を見て回った。
結局、大きな風船を4つ買った。
あと、横断幕。やっぱり、大きくおめでとうって書きたい。
折り紙でくるくるした飾りも作りたいけれど、それは、壁に付けるのも時間がかかるし、やめた方がいいかもしれない。
帰りには、ケーキ屋の下見として、3店のケーキ屋でそれぞれ一つずつカットケーキを買った。
剣様には、特別美味しいホールケーキを食べてほしい。
まずはその第一弾だ。
小さな箱に、それぞれ真っ白なショートケーキがつまっている。苺の乗った真っ白なケーキ。
剣様の顔を思い出す。
柔らかな花のような笑顔を思い出す。
剣様好みのケーキを選ぶ自信はある。
喜んでくれるだろうか。
剣様は、私が準備するこの誕生日会を、喜んでくれるだろうか。
ルームシューズの中でもけっこう高級なものを選んでおります。