91 あなたの幸せを願おう(2)
「直接……。ああ、通販から送られてきた荷物を私が剣様に渡すって事ですか?」
言ってから、けどそうやって本人の手が介入した時点で不審物になるんじゃないかな、なんて考える。
「違うわ。あなたが用意したプレゼントを直接剣さんに渡せるって事よ。買ったものでも、手作りのものでも」
「それは……」
奈子は真剣な顔になった。
「危なくないですか」
杜若先輩が同じように真剣な顔をこちらに向ける。
「あなた……、何か危ないものを仕込むつもりなの?」
そこで、ハッとする。
「いやいやいやいやまさかまさかまさかまさか」
両手を大袈裟に振った。
「じゃあ、大丈夫じゃないの」
「それは……」
今まで、ファンクラブの規則の中で、剣様に迷惑がかからないよう、近付かないように慎重にしてきたなりに、突然そんな事を言われると困ってしまう。
ファンというものは、もっと離れていた方がいいんじゃないのか。
戸惑っていると、杜若先輩が、まるで鶴が着氷した雪の中のしんとした湖の様な笑顔を向け、言う。
「じゃあ、生徒会で誕生日会をしましょうか」
「誕生日会……?」
剣様の誕生日会。
それは、あまりにも甘美な響きだった。
神聖な剣様の誕生日会を垣間見れるというのは、もう死亡フラグそのものなんじゃないかと思ってしまう。
この人生で最大の感動イベントなのではないかと思う。
「それって……、私が準備してもいいんですか……?」
ドキドキする心臓を抑える。
「あなたが主催して、あなたが剣さんにおめでとうを言う会よ」
「わ、私が……?参加までするんですか……」
自信はない。
だって、剣様の誕生日会。失敗するわけにはいかない。
けれど、
「ぜひ、やってみるといいわ」
という菖蒲先輩の後押しと、当日じゃなければいいんじゃないかという小節先輩の提案で、私主催の剣様お誕生日会を生徒会で開く事になった。
今年の剣様の誕生日は日曜日。
奈子の希望で誕生日会は直前の木曜の放課後にする事になった。
いざ、決まってしまえば、あとは興奮ばかりだ。
「会場はここでいいですよね?サプライズしたいです。教室を借りてしまうと、会長が書類を見てしまう可能性があるので。プレゼントは一人一つずつ。花束は私が花屋さんに注文しておきます。ケーキは、心当たりもあるんですけど、何箇所か食べ比べてみたいので決定は後日でいいですか?試食会もしたいんですけど、あんまり大袈裟になるとバレてしまう可能性があるので、私が決めちゃいますね。飾りつけは少なめでいいですかね。本当は風船飛ばしたりしたいんですけど、風船を膨らませるのって時間かかりますよね。木曜日ならちょうど文化祭の代表者説明会があるので、そこに会長を連れて行ってもらってもいいですか。その1時間ほどの間に準備はこちらでしておきます」
誕生日会は果たして上手くいくのでしょうか。