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88 君好みの深夜の映画

『幸せを願う恋人が出来ても幸せを願う恋人ごと幸せを願う』


「何これ。呪文?」

 真穂ちゃんが、呆れたように紙を摘みあげた。


「寝る前のおまじない」

「呪いじゃん」


 私の部屋よりさっぱりとした可愛さのある部屋。

 今日は、真穂ちゃんの家でお泊り会だ。


 真穂ちゃんがおすすめだという映画を見て、ひとしきり笑って。

 チョコだのビスケットだののお菓子を食べて。

 なんだか幸せなうちに眠ろうというところなのだけれど。


 夜寝る前の習慣として、剣様を反芻するところで、ここ最近は気持ちが落ち込んでしまう。


 だから、せめて前向きに、剣様の恋を応援しようと毎晩こんな呪文を書いているのだった。

 今日は、真穂ちゃんのお気に入りの白いローテーブルの上で。

 赤い軸のボールペンを使い、白いコピー用紙の上に。


「だって剣様に好きな人がいるってことはさ。その人と付き合うってことなんだよ」


「そんなことないでしょう」


「剣様だよ?あんな人に告白されたら、誰だってOKしちゃうよ。真穂ちゃんだって、そうでしょ」


「…………」


 真穂ちゃんが満更でもない顔で「そうだなぁ」なんて言っている顔を見て、奈子の顔にまた涙が浮かぶ。

 想像してしまう。

 真穂ちゃんと剣様が、デートをしている姿を想像してしまう。


 親友が剣様の相手だなんて、やっぱり許せない、なんて思ってしまう。


 真穂ちゃんが優しくて頼りがいのある素敵な人だって知っているはずなのに。


 ……やっぱり、誰であってもすごく嫌な気分になっちゃうな……。


「やっぱり」

 恨めしげにそう言うと、真穂ちゃんが、呆れた顔を向けた。

「そりゃあ、あんな美人じゃあね。頭から切り捨てる事は出来ないわ」


 その言葉に、うるうると涙が溢れる。


「あ〜……。はいはいよしよし」

 真穂ちゃんの手が、私の頭を撫でる。


「……なんか、苦、しくて」


「奈子は、よくやってると思うよ。迷惑かけないように頑張ってるでしょ。人を好きでいる方法も理由も、人それぞれよ」

 真穂ちゃんが、ふっと笑う。

「無理して嫌いになる必要もない。とりあえず今は……」

「今は?」

 そこで、真穂ちゃんはDVDを1枚取り出した。


「もう一本映画見ましょう」


「ふふっ」と笑う。

 このまま寝ようとすれば、剣様のことばかり考えてしまうのがわかったのだろうか。

 どうやら気晴らしの夜更かしに付き合ってくれるみたいだ。


 嬉しく思いながらDVDのパッケージを見ると、20年ほど前に流行ったホラー映画だった。

 少し、ギョッとする。

 怖い話は、……正直得意ではなかったりする。


「ねえ、その映画なの?」

「そう!見たいと思ってたの、今日の為に借りておいたから!」


 ……もしかして、気晴らししてくれていると思ったのは間違いで、私が映画鑑賞に駆り出されているんだろうか。

 横目で真穂ちゃんの横顔を見る。

 ワクワクした目。


 真穂ちゃんのこんな顔を見られるなら、まあ、たまにはこんなのもいいか。




「きゃっ……!あっ!……えっ…………ぎゃあああああああああああ!!!!」

珍しく真穂ちゃん回でした〜。

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