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81 そうとしか見えなくて(1)

 新学期が始まった。


「ご機嫌よう」

 なんていう、新学期を憂いているような、そうなんだけれど久々の友人達と会うのにどこか浮足立っているような、そんな挨拶が飛び交う。


「ご機嫌よう、奈子」

「ご機嫌よう、真穂ちゃん」

 えへへ、と笑い合う。

 夏休みに何度か会っているので、懐かしいというほどではないけれど、制服姿で張り切る小さいのに頼りになる姿を見るのは悪い気分ではない。


「あふ……ぅ」

 と真穂ちゃんが小さくあくびをする。

 そういえば、少し眠そうだろうか。

 昨日の夜はメッセージをしあっていて、割と早い時間に『おやすみ』を言ったはずだけれど。


「眠れなかったの?」

 聞くと、真穂ちゃんは少し恥ずかしそうにした。

「実は、漫画を読んでいて」

「へぇ……」


「持ってきてるのよ」

 と見せてくれたのは、青年漫画雑誌で連載しているラブコメ漫画だった。


「……タイトルは聞いた事あるけれど」

 何せ、奈子は漫画など読まない。

 基本的に日常の7割は剣様の事に費やしているし、1割は生徒会の仕事。残りの2割はピアノだ。


 娯楽という点で、興味はあるけれど、奈子が読む本や聴く音楽は、全て剣様が手にしたはずのものだ。

 剣様は友人とそんな話をする事があるらしく、その一覧は、よくファンクラブの会誌に載っていた。

 会誌の情報は、どこまでも噂話を出ないものではあったけれど、剣様を想う為の材料としてはそれほど悪いものでもなかった。


 貸してもらった漫画をペラペラとめくる。


「あ、これって、生徒会ものなんだね」


 この男の子が生徒会長で、この女の子が副会長なのか。

 女の子の方が文武両道なお嬢様で……。ステータスはちょっと剣様に似てるかな。

 どこの生徒会もきっとこんな風に……。


 そこへ、クラスメイトの小野さんが話しかけてきた。

「あ、その漫画いいよね」

「今ちょっと見てるだけだけど、面白そうだね」

 そしてそんな挨拶がてらのちょっとした会話の後で、小野さんは、あろうことかこう言ったのだ。


「ねえ、その二人、うちの会長と副会長に似てない?」


「え…………」


 うちの会長と副会長といえば……。

 剣様と…………。


 え?


 真っ白になった頭に、どうでもいい声が降り注ぐ。

「役職は逆だけど、似てる、って思ったらもうそうとしか見えなくて〜。剣様にもそんなロマンスがあると思うとキュンキュンしちゃう!」


「へ、へぇ……」


 乾いた顔で、そう口にするのが精一杯だった。


「似てない……。似てないし似てないし似てない……」

 呪いの言葉のように呟くその声にドン引きしながら、真穂ちゃんが気遣ってくれる。

「あ、ああいう風に恋愛脳な目で楽しんでる人もいるってだけで……。実際そうなわけじゃないから……」

 真穂ちゃんはそう言ってくれるけれど、『もう、そうとしか見えなくて』という言葉は、一理あるような気がした。


 剣様には、いつも隣にいる男子生徒がいる。

 学年1位と2位の関係で、生徒会でも阿吽の呼吸。

 ファンクラブのメンバーの間でも、繊細な問題すぎてあまり口には出されないその人物。


 それが、小節龍樹という男だ。

ファンにも色々いますよね。

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― 新着の感想 ―
[一言] 発想の柔軟なファンズ会員 「剣様がお読みになっただろうご本は、図書室にもあるかしら」 「これは一般向けの漫画ですから、お買い求めになったのでは?」 「そういえば、『春日野町書堂』ではアルバ…
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