75 お揃いならもうペアルックだと思う
「海……」
目の前は海だった。
雄大な青。
塩の匂い。
大きな砂浜。
奈子は、チラリと隣の剣様を見る。
おそろいのエプロン、おそろいの軍手。
それに、おそろいの三つ編み。
東堂先輩達が、5人でおそろいの三つ編みにしましょうと、剣様と私の分も三つ編みを作ってくれたのだ。
私の髪は短いから、髪の一部を三つ編みにしてある。
ついでに、小節先輩も、相変わらずオールバックにしてある髪の一部に三つ編みを作ってもらっていた。
2、3度作られた三つ編みをばってん型のヘアピンで留めてある。
剣様とおそろい。
これはもう……!これはもう絶対絶対ペアルックだ。
それも、海。
ペアルックで海デートだ……。
デート感を味わいつつ、ゴミ拾い用のトングを握る。
8月も後半のこの日、浜辺にいる人はまばらだけれど、夏真っ盛りな毎日の中で落とされたゴミは思った以上に多い。
剣様と同じ場所で同じ事をしているのだと思うと、気合も入った。
地元のボランティア団体にまじって、ゴミを拾っていく。
大きなゴミ袋が、いっぱいになっていく。
「ふぅ」
一つ息を吐いたところで、ヒヤン、と頬に冷たいモノが触れた。
「ひゃあ!」
びっくりして目をやると、そこにあるのは冷えたスポーツドリンクだ。
「頑張りすぎよ」
「あ、剣様……」
周りを見渡す。
「あ……」
そういえば、少しクラクラするかもしれない。
必死になり過ぎてしまったみたいだ。
「ありがとうございます……」
ドリンクを受け取り、口に含むと、疲れているのが分かる。
ここで倒れてしまえば、うちの学園の名にも、一緒に居た剣様の名にも傷が付くかもしれない。
体調管理怠らないようにしなくちゃ。
また気合を入れ直す。
と、剣様が奈子の頭をガシッと掴んだ。
「あなたねぇ、」
「つ、剣、様?」
「余計な事考えてるでしょう!?今から私達は休憩!」
「は、はぁい」
出来るだけ、なんでもないように装ったけれど。
休憩所に出された箱に入ったお菓子もカップのアイスクリームも、あんまり味がわからなかった。
頭の上に……。
私の、頭の上に……剣様の……手が…………!
こんなことがこれほど気になるなんて、どうかしてるだろうか。
でも、もう、頭洗いたくない……。
「朝川?」
「え、あ、はい?剣様」
「顔、まだ赤いんじゃない?」
ハッとする。
赤い、だろうけれど、これは夏の暑さのせいじゃない。
剣様が隣にいるせいだ。
「大丈夫です」
ふいっとそっぽを向く。剣様がいつもしているみたいに。
「これは、剣様が隣にいるからなんで」
素直に言うと、剣様が押し黙ってしまった。
もしかしたら、嬉しかったのかもしれないとか、照れたのかもしれないとか思い、剣様の方を見たけれど。
もうそこには、剣様の姿は既になかった。
小節くんを三つ編みにしたのが菖蒲さん。剣様と奈子ちゃん三つ編みにしたのが杜若さんです。