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72 夏の真ん中(2)

「海……だ」


 着いたのはもうお昼だった。

 海に来るのは、小学生以来。

 何せ、友達と海で遊ぶなんていう意識を持った事もない。


「人、結構いるんですね」

 とはいえ、観光地でもない、小さな旅館しかない海沿いの町の事で、観光客らしい観光客はそれほど多くはない。


 駅前の小さな商店街にある丼もの屋さんで昼食を食べれば、ロッカーに荷物を預け、もう福祉施設の見学が始まる。

 高齢者施設でヨガをするところを見ながら説明を受けたり、子供向けの施設を周ったりした。


 こういう時は特に剣様が真剣で、綺麗な桜色のメモ帳に、丁寧な字でつらつらとメモをとっていく。


「図書館も近くにあるのに、ここにも本があるんですね」

「ええ」

 と、担当の初老の男性が受け応える。

「子供達の遊びの中に、読書も入っていて欲しいですからね。わざわざ本を読みにいくのではなく、遊びと共にあればいいという考えの元に、こうして本も並べています」


 話を真剣に聞く剣様の斜め後ろは特等席だ。


 剣様に気付かれず、剣様を眺める事が出来る。

 あのツンとした鼻の先や、髪の流れも。


 そんな風にして、見学は終わった。




「けっこう有意義だったわね」

「そうだな。文化祭にも役立つかもしれん」


 夕方の町中を歩く。

 宿は、駅から歩いて行ける距離だった。


「わ……」


 ちょっとした門をくぐると、和風の旅館が姿を現した。

 玄関まで続く歩道には既に足元にオレンジ色のライトが点いていて、雰囲気は満点。

 それほど大きくはないし、豪華でもない宿だけれど、手入れが行き届いているのがわかる。


 通された部屋は、4人部屋だった。


「え?」


 思ったよりも広い4人部屋。

 20畳以上はあるようだ。


 4人で?ここで寝るの???


 剣様と同じ部屋で寝るの???


 禁忌では?犯罪では?


 2人部屋なら、杜若先輩と一緒にしてもらおうと思っていたのに。


 ううん、待って。

 もしかしたら、東堂先輩達と小節先輩と私かもしれないし。

 早まった考えをしちゃダメ。


 そう思い、落ち着きを取り戻したものの、部屋に案内されたのは、杜若先輩、菖蒲先輩、それに剣様と私の4人だった。


 嘘嘘嘘嘘。


 こんなの、私がここに居ていいわけない。

 小節先輩の部屋の畳の上で寝た方が、まだマシだって……。


 半泣きになりながら立ち尽くす私に、剣様が、

「遠くまで景色が見えるわね」

 と嬉しそうに言う。


「そ、そうですね」

 と言った私の声は、あからさまに上擦っていた。


 こちらを見た剣様が、言葉を失う。

 剣様どころか、杜若先輩と菖蒲先輩まで。


 理由は分かっている。


 私は今、顔が真っ赤なんだ。


 おかしいと思われているに違いなかった。


 けど、こればっかりはどうにもならない。


 何かあったらどうしようと思ってしまう。

 何かあって欲しいと思ってしまうのと同時に、何かはあって欲しくないとも思う。


 乙女心は複雑なのだ。

何かあった方がいいのか、ない方がいいのか私も気になる!

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