70 まるでデートみたいな(6)
「お茶でも飲んで行きましょうか」
と提案したのは、剣様だった。
一緒にまだ居られるという高揚感と共に、一緒に居て不快ではないんだということに安堵する。
剣様は、こんな時でも会長なのだ。
みんなの様子を見て、みんなをまとめようとする。必要な物を用意しようとする。
この場合は、休憩だ。
確かに2時間ほど買い物をして、ちょうど休憩が必要な時間ではあった。
ちょっとオシャレなカフェに入る。
……こういう場所は、剣様や東堂先輩達が似合う。
あの小節先輩でさえ、じっとしていれば馴染んでいるように見えるので、一人浮いているんじゃないかと、つい、心配になる。
それぞれが、ケーキとアイスティーやアイスコーヒーでお茶の時間になった。
目の前に、剣様が座っている。
小さなチーズケーキも、明るい色のアイスティーも、剣様の魅力を引き立たせる。
時間を止めて、ずっと眺めていたいと思う。
けれど、すぐ目の前に居て、見てばかりもいられない。
ふとした事で、剣様の目がこちらを向く。
すると私は、剣様の目にどんな風に映っているのか不安に思ってしまうのだ。
不安のあまり、死んでしまいたくなる。
「朝川は、春日野町のファンクラブに入っていたんだろう?どんな活動をしていたんだ?」
そう言ったのは、隣に座っていた小節先輩だった。
唐突だった。
「な、なんですか藪から棒に!」
「いや、あれでも学園内組織の中では発言力が強いからな。生徒会の一員として、知っておいて損はないだろう」
「はぁ……」
そこで、全員の視線がこちらを向いてしまったので、ファンクラブの頃の話をしないわけにはいかなかった。
「私は、ファンクラブでは基本的な活動をしていた方だと思うんですけど。集会の時、一番前でハチマキしめて、うちわ掲げたり」
そこで、誰かがふっと小さく笑った。
ご友人のSNSを巡回したり、写真にキスしたり……という事は流石に言わない方がいいだろう。
「あとは、お手紙を書いたり」
そこでふっと、剣様が優しい目をした、ような気がした。
手紙、は嬉しいんだろうか。もしかすると。
「私ではないんですけど、剣様に捧げる歌を作ったり、お祈りしたり、というのも見た事がありますね」
そう言うと、剣様はあからさまに眉をひそめた。
「どんな歌なんだ?」
と小節先輩が言ったので、うろ覚えながらも歌ってみせた。
一番盛り上がる、
「剣様〜!ハ〜〜〜〜〜〜〜〜ア〜〜〜〜〜〜〜〜…………ア〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」
を歌ったところで、剣様以外にはなかなかウケが良かった。
流石に、これはちょっと恥ずかしかったかな……。
剣様の顔を横目で見ながら、思う。
そんなわけで、そこからはほとんどがファンクラブの話になってしまった。
こんな話して、失礼じゃなかっただろうか。
なんて、思ったところでもう遅い。
最終的に、
「じゃあ帰るか、朝川」
なんていう小節先輩の言葉で解散となった。
一緒に帰るなんて、匂わせてるんじゃないかと思われそうな言葉だけれど、言われた本人は、まるでお父さんに言われたような気分だ。
帰ろうとする小節先輩が、
「うおっと」
と、転びそうになる。
剣先輩が足をかけたせいらしかった。
「どうして一緒に帰るのよ」
剣様がしらっと聞くと、
「同じ方向だからな」
と、小節先輩が、優越感が漏れていそうなドヤ顔で剣様に笑ってみせた。
次は、夏合宿ですね!